超伝導材料(読み)ちょうでんどうざいりょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「超伝導材料」の意味・わかりやすい解説

超伝導材料
ちょうでんどうざいりょう

絶対零度(零下273.15℃であり、0Kと示すこともできる)近くのいわゆる極低温で、超伝導超電導とも書く)を示す物質をいう。超伝導となる物質としては、臨界温度(その物質が超伝導状態を示す上限の温度)が約40Kまでの比較的低温の金属系と、100K近辺の比較的高温の酸化物系とに大きく分けられる。金属系としては、水銀バナジウム、鉛、ニオブなどの約25の元素と、ニオブ‐チタン、ニオブ‐スズ、ニオブ‐アルミニウム、バナジウム‐ガリウム、マグネシウム‐ホウ素など1000以上の合金化合物が発見されている。また酸化物系としては、イットリウムバリウム‐銅‐酸素、ビスマス‐鉛‐ストロンチウム‐カルシウム‐銅‐酸素など30種類以上の酸化物が発見されている。しかし、現在実用化されているのは金属系のわずか数種類にすぎない。おもな用途が高磁場発生電磁石線材であるため、より高い温度および磁場で大電流を流せること、かつ安定化のために銅またはアルミニウムとの複合化が可能で、加工性にも優れていることなどが必要とされるためである。

 金属系のうち合金系材料は加工性がよく、銅被覆極細多心線の製造技術が確立されているが、化合物系材料はもろく展延性に乏しいため、加工工程の最後で化合物を生成させる熱処理が必要であるなど、製造技術の選択の幅が広く、そのためいろいろな製法が提案されている。いずれも電磁石を主とした実用機器あるいは研究機器用線材に適用されており、とくにニオブ‐チタン線材は医療用核磁気共鳴画像装置(MRI)に多く用いられている。

 一方、酸化物系ではまだ実用に供されている線材はないが、試作段階としてはかなり発達してきている。磁場に対する臨界電流(これ以上電流を流すと超伝導状態が壊れる電流値)が高いイットリウム系材料は将来の有望な超伝導材料であるが、結晶の並び方を正確にコントロールするため複雑な製作工程となり、金属テープ上に薄膜を生成した形のコーティッド・コンダクタcoated conductorとしてはまだ数百メートル規模の線材しか製作されていない。磁場に対する臨界電流が低いビスマス系材料はイットリウム系ほど結晶の並び方を正確にコントロールする必要がないため、従来の金属系超伝導材料の製作方法を応用することが可能である。そのため銀管の中に原料粉末を充填(じゅうてん)し薄いテープ状に加工した後、加圧焼結熱処理するパウダー・イン・チューブ法powder-in-tube methodとよばれる方法で製作され、現在では数キロメートル規模の線材も製作されている。これら以外に新しい鉄系超伝導物質も発見されており、新たな高臨界温度を示す新物質の発見も期待されている。

 超伝導技術のおもな応用分野としては、従来の電磁石では達成できない高磁場を発生できる電磁石を利用したもの、あるいは抵抗ゼロであるため大電流を抵抗なしに流せることを利用したものが検討されている。実用領域に達しているものは、前述の医療用核磁気共鳴画像装置がもっとも知られているが、検討中のものとしては電力ケーブル磁気浮上式鉄道、船舶用モーター、磁気分離装置、核融合実験装置、高エネルギー粒子の加速器、エネルギー貯蔵装置など、幅広い応用が見込まれている。

[河野 宰]

『伊原英雄・戸叶一正著『超伝導材料』(1987・東京大学出版会)』『大塚泰一郎著『超伝導の世界』(1987・講談社)』『河野宰著『超伝導読本』全訂新版(1990・理工図書)』『増田正美・岩本雅民・新富孝和著『超伝導エネルギー入門』新版(1992・オーム社)』『小沼稔・松本要著『超伝導材料と線材化技術』(1995・工学図書)』『長村光造著『超伝導材料』(2000・米田出版、産業図書発売)』『新潟大学大学院自然科学研究科ブックレット新潟大学編集委員会編、山口貢・福井聡著『夢を実現する超伝導』(2004・新潟日報事業社)』『栗原進著『岩波講座 物理の世界 物質科学の展開6 超伝導でたどるメゾスコピックの世界』(2004・岩波書店)』『家泰弘著『超伝導』(2005・朝倉書店)』『丹羽雅昭著『超伝導の基礎』第3版(2009・東京電機大学出版局)』『福山秀敏・秋光純編『超伝導ハンドブック』(2009・朝倉書店)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

潮力発電

潮の干満の差の大きい所で、満潮時に蓄えた海水を干潮時に放流し、水力発電と同じ原理でタービンを回す発電方式。潮汐ちょうせき発電。...

潮力発電の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android