日常の生活空間とまったく異なった,空気の清浄な土地に比較的長期間滞在して,保養を行い,疾病をいやす手だてとすることを転地療法という。転地を行うと,日常の生活空間とは異なった気象や風土環境によって,常同性(ステレオタイプ)が大きく変動を受ける。生体の気候順化機能は新しい環境条件に即応すべく作動を開始する。しかし,転地による環境の変動があまりに大きすぎると,それがストレスとなって不良徴候が生じ,疾病に至ることもあるから注意しなければいけない。転地による環境変動がそれほど大きくない場合には,気候順化機能によって新しい水準に達した調節力は,外界の変化に対してより大きな適応力を獲得することになり,健康が増進する。これが転地によって得られる効果である。
磯波の砕けるときに多量に放散される海塩粒子,海藻その他から発散される磯の香り,紫外線に富んだ強い日差し,毎日一定時間に風向が変化する海風と陸風の規則正しい交代,海水浴の際の海水からの寒冷刺激,また遠くまで見渡せる水平線等々といった刺激が,快い刺激として生体に好影響をもたらす。
高度が100m増すごとに気温は約0.6℃下降する。気圧も11hPa減少する。このため山地では寒冷刺激や酸素分圧の減少による影響を受ける。酸素分圧の減少によってヘモグロビンが増加し,また滞在が1週間を過ぎると組織の酸素利用も改良されて,低圧の酸素でもかなり耐えられるようになる。森林の中では,さらに樹木からの芳香性の発散物質が,大脳の活動レベルを高める効果をもっている。こうしたもろもろの効果が山への転地療法の基礎となる。
昔から湯治は転地療法の一つとして利用されてきた。温泉のそれぞれの泉質は,それぞれの疾病に特異的に効くばかりでなく,温泉の非特異的な効果も転地療法には大きな意義をもっている。
→温泉療法
執筆者:神山 恵三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
日常の居住地から気候要素など環境因子の異なる土地に移り、比較的長期間滞在して保養を行うことによって治療目的を期待する療法で、広義の気候療法climatotherapyの一部とみられる。その内容は、主として生体の気候順化機能に対する刺激と気分転換による心理的効果であり、転地による環境変化があまり大きすぎない場所を選ぶことが必要である。かつて化学療法が未発達だったころには肺結核患者に対して大気安静療法が重視され、空気の清浄な海岸や高山などに設けられた療養所が好んで利用されたのは、転地療法の代表例である。現在でも、自然環境ばかりでなく患者の療養に必要な施設を備えた保養地や療養地が新しくつくられている。また、花粉症などは花粉のない土地に移るだけで症状が消えるし、大気汚染による呼吸障害なども空気の清浄な地区に移ることによって治癒が促進されるほか、転地先での森林浴の効果も再認識されてきた。古くから親しまれてきた湯治(とうじ)も、転地療法の一種である。しかし、いわゆる温泉療法や気候療法では3週間を1クールとしているが、一般に転地療法ではさらに長期、つまり年余にわたる滞在期間が必要とされている。
[柳下徳雄]
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