日本大百科全書(ニッポニカ) 「ステレオタイプ」の意味・わかりやすい解説
ステレオタイプ
すてれおたいぷ
stereotype
W・リップマンが彼の代表的著書『世論』(1922)でこの用語を用いて以来、社会心理学のみならず、広く社会科学上の重要な概念となった。彼はこの概念について次のように説明している。「多くの場合、われわれは最初に見てから定義づけるのではなく、最初に定義づけてから見る。外界の、あの途方もなく、ざわついた混沌(こんとん)のなかで、われわれは文化がすでに定義づけたものを選び出し、文化が類型化したままに、その選択されたものを知覚しがちである」。このように、ステレオタイプとは、特定の文化によってあらかじめ類型化され、社会的に共有された固定的な観念ないしイメージのことである。通例、紋切り型態度と訳される。その特徴として、
(1)過度に単純化されていること、
(2)不確かな情報や客観的根拠の薄弱な知識に基づき誇張され、しばしばゆがめられた粗略な一般化ないしカテゴリー化であること、
(3)好悪、善悪、正邪、優劣などといった強力な感情を伴っていること、
(4)人種差別(racism)や性差別(sexism)といった偏見に転化しやすいこと、
(5)偏見や誤認・誤解を生むが、同時に、社会的に共有される感情・認知・思考・行動様式を型にはめることで社会の統合と安定にも寄与していること、
(6)新たな証拠や経験に出会っても、容易に変容しにくいこと、
などが通例あげられている。
人間がなぜステレオタイプに固執するかについて、リップマンは二つの理由を述べている。一つは、人間の環境適応におけるステレオタイプの認知的経済性ということである。ステレオタイプに頼らず、日常生活のすべての事物を新たに、詳細に知覚しようとすれば、たいへんな労力と時間が必要であって、次々に生起するできごとを考えると、実際上不可能である。いま一つは、ステレオタイプの意味体系はアイデンティティの核心であって、自我防衛のメカニズムであるからにほかならない。それは正確な世界像ではないけれども、「世界に関する秩序だった、多かれ少なかれ首尾一貫した映像」であり、人々にとって「よく知られているもの、正常なるもの、頼りになるものの魅力」をもち、「ひとたびすっぽりはまり込むと、履きなれた靴のように、気持よくぴったりとあう」のだ。その結果、ステレオタイプを揺り動かすものはなんであれ、われわれの存在基盤そのものへの攻撃となり、われわれの自尊心を傷つけることになる。
ステレオタイプが価値規範や道徳を内包する信念体系である限り、ステレオタイプの意味体系は社会統制の有効な手段として機能する。人々が支配的なステレオタイプを受容せず、拒否するならば、反道徳的、反社会的というスティグマ(stigma、汚名、恥辱)を彼らに刻印し、非難と攻撃を浴びせ、制裁を加えても、正当化できるからであり、この正統性のゆえに、人々は一般にステレオタイプへの従順と同調を示すのである。現代社会では、マスコミがステレオタイプの培養基ならびに増幅器として、きわめて重要な役割を果たしている。
[岡田直之]
『G・W・オルポート著、原谷達夫・野村昭訳『偏見の心理』(1968・培風館)』▽『清水幾太郎著『社会心理学』改版(1972・岩波書店)』▽『藤竹暁著『事件の社会学――ニュースはつくられる』(中公新書)』▽『W・リップマン著、掛川トミ子訳『世論』上下(岩波文庫)』