通信ケーブル
つうしんけーぶる
communication cable
電気による通信で、音声、画像、信号、符号を伝送することを目的とするケーブル。1886年アメリカで開発され、日本では96年(明治29)に東京―横浜間に初めて電話地下ケーブルが敷設された。
[佐久間照夫]
通信ケーブルには平衡ケーブルと不平衡ケーブルがある。平衡ケーブルは一対(電線2本)の導体が同一太さの線で、その2本のそれぞれがそれ以外の導体、遮蔽(しゃへい)体あるいは保護金属体などに対し、構造的にも電気的にもほぼ等しい関係位置にあるものをいい、市内ケーブル、市外ケーブル、搬送ケーブルなどがこれに属する。不平衡ケーブルには同軸ケーブルなどがある。同軸ケーブルは1本の円型の中心導体と、これを同心状に囲む円筒形の外部導体を配置したもので、長距離幹線用ケーブルとして利用されている。
[佐久間照夫]
導体は一般に軟銅単線で直径は0.32~0.9ミリメートルが使用され、絶縁には当初クラフト紙が用いられたが、現在製造されているものは大部分がプラスチックにかわってきている。撚(よ)り合わせには2本の心線を撚り合わせた対撚り、4本の心線をまとめてその切断面がそれぞれ正方形の頂点にあるように撚り合わせた星撚り(星形カッド)などがある。対またはカッドを所要数集め、層に配列して集合する。集合には普通型とユニット型がある。普通型は同心撚りで円筒形に集合する。ユニット型は100対または適当対数を集合して一ユニットとし、そのユニットを所要数撚り合わせる。外被には鉛被、アルミ被、スタルペス、LAP(ラミネートシース)などがある。スタルペスは、アルミニウムテープで包んだ上を鋼テープで縦に包み、合せ目をはんだ付けし、その上をポリエチレンで被覆したシースsheathである。LAPは、アルミニウムテープの片面に薄いプラスチックフィルムを張り付けたラミネートテープで縦に包み、その上にポリエチレンを被覆したとき、ラミネートテープのプラスチックが溶けてポリエチレンと一体となったシースである。
[佐久間照夫]
同一加入区域内で使用されるケーブルであり、加入者に配線する配線用ケーブル、それを電話局にまとめて収容する饋線(きせん)ケーブル、市内電話局相互の中継に用いる中継ケーブルに分けられる。配線用ケーブルに主として用いられているのは市内CCP(color coded polyethyleneの略)ケーブルで、全心線着色識別のポリエチレン絶縁、ポリエチレン外被ケーブルであり、星形カッドの10対ユニットを基準とし、400対のものもある。架空ケーブルとして用いる場合は、架空作業を簡単にするために吊(つ)り下げ用鋼線を添えた自己支持型が用いられる。饋線ケーブルに主として用いられているのは紙絶縁スタルペスケーブル、市内PEF(発泡ポリエチレン)ケーブルである。紙絶縁スタルペスケーブルは、軟銅単線に絶縁紙を重ね巻きして星形カッドに撚り、200対以下では所要対のカッドを層に配列し、各層反対方向に撚り合わせてケーブル心にし、400対以上では100対ユニットをつくり、これを所要数撚り合わせてケーブル心にし、スタルペス外被を施した構造である。市内PEFケーブルは、細心多対化を意図して開発されたケーブルで、0.32ミリメートルの軟銅単線にPEF絶縁し、星形カッドに撚り合わせてユニット型にし、スタルペスシースを施したもので、最大は4000対のものもある。中継ケーブルには中継PEF・LAPケーブルが用いられている。
大都市では加入区域が非常に広いので、ケーブルの長さが長くなり減衰量が増大する。これを補償するために一定間隔ごとに集中インダクタンスのコイルを挿入する。これを装荷コイルという。
[佐久間照夫]
主として市外PEF・LAPケーブルが使われている。構造は軟銅単線にPEF絶縁し、星形カッドに撚り、必要なカッド数を撚り合わせLAPシースを施したもので、短距離搬送に用いられる。回線需要が増大するとともに、従来は市外ケーブルの適用区間であったところに、4.4ミリメートル細心同軸ケーブルや9.5ミリメートル標準同軸ケーブルが使われている。
[佐久間照夫]
1932年(昭和7)松前重義(しげよし)らが遠距離搬送用に無装荷ケーブル方式を発表し、東京―奉天間の連絡はこの方式によって行われ39年に完成した。無装荷ケーブル方式は日本が世界に率先して実施したもので、これに使うケーブルを搬送ケーブルという。減衰量を小さくするため、導体上にコルデル(紙紐(ひも))を巻き、その上に紙テープを巻いて絶縁し、星形カッド撚りされている。しかし、その後の技術の進歩によって長距離搬送には同軸ケーブル方式が主体となっている。
現在では、通信回線の需要は、ますます拡大しており、大容量通信方式として新しい光ファイバーケーブルが脚光を浴びている。
[佐久間照夫]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
通信ケーブル (つうしんケーブル)
communication cable
電気通信において,情報を運ぶ信号は無線伝送路,あるいは有線伝送路を用いて伝送される。このうち,有線伝送路を形成する実体が通信ケーブルである。通信ケーブルは電力ケーブルと異なり,取り扱うパワーはきわめて小さいが,その周波数範囲の広い点が特徴であって,金属ケーブルと光ファイバーケーブルとに大別することができる。
金属ケーブル
金属導体を用いた通信ケーブルは従来から広く使用されており,構造的に,平衡型ケーブルと不平衡型ケーブルとに大別される。平衡型ケーブルは,構造的にも電気的にも対称な2本の導線から構成され,身近な例としては,電話の加入者ケーブルやテレビ受像用の平行線フィーダーなどがある。主として電話網で用いられる平衡型ケーブルとしては,直径0.32~0.9mm程度の銅線,もしくはアルミ線を心線とし,これを紙,または合成樹脂で絶縁して対にしたものが用いられている。表1に示すように,代表的な平衡型ケーブルの減衰量は,周波数1kHzにおいて,0.7~2.3dB/km程度であるが,周波数の上昇とともに増大し,100kHzでは,4~15dB/km程度に達する。これは,伝送エネルギーの一部が電磁波としてケーブルから放射されることに原因し,隣接ケーブルへの漏話,干渉も引き起こす。したがって,平衡型ケーブルの用途は,局内ケーブル,市内ケーブルおよび100km未満の市外ケーブルといった短距離,小容量の通信路に限られる。
一方,不平衡型ケーブルの代表である同軸ケーブルは,円筒状の外部導体とその中央にある内部導体とを往復線路として構成される。このように,同軸ケーブルは,外部に電磁波が漏れにくい構造となっているため,数百MHzまで使用でき,高周波伝送に適している。現在日本では,陸上用標準同軸ケーブルとして,口径9.5mmのものと4.4mmのもの(細心同軸ケーブル)とが用いられている。同軸ケーブルを用いた通信方式としては,C-60M方式が1974年以来商用化されており,電話1万0800チャネルを周波数分割多重し,9.5mm標準同軸ケーブルを用いて,中継間隔1.5kmで伝送している。なお,海底に敷設して,離島間,あるいは大陸間の有線伝送路を形成する海底同軸ケーブルとしては,さらに大口径のもの(25mmおよび38mmなど)が使用されている。表2にこれらのケーブルの特性を一部示している。
光ファイバーケーブル
通信の大容量化,高速化の要求に伴い,同軸ケーブルに代わる広帯域伝送路として注目を浴びているのが光ファイバーケーブルである。光ファイバーケーブルは,従来の金属ケーブルに比べて,次のような特徴をもっている。(1)低損失(1dB/km以下),(2)広帯域(帯域幅数GHz),(3)小型・軽量(1本当り直径約100μm以下,プラスチック保護層を入れても1mm程度),(4)本質的に電磁誘導を受けない。ただし,光ファイバーケーブルは,石英ガラスを材料としてつくられているため,金属ケーブルの場合と違って,ケーブル自体を通して中継器用の電力を供給することはできない。光ファイバーケーブルは,屈折率の大きいコア部(直径2~100μm)のまわりに屈折率の小さいクラッド部(直径100~200μm)をもつ2重円筒形の構造をしており,コア部の屈折率が一定である屈折率階段形ファイバーと,コア部屈折率が放物面をなす集束形ファイバーとがある。光ファイバーケーブルでは,光はコア部に閉じ込められた形で伝搬していくが,このとき,光の伝搬経路が多種類あるものを多モードファイバー,伝搬経路が1種類のものを単一モードファイバーという。多モードファイバーは,コア部径が比較的大きくてよいため,製造が容易である。ただし,屈折率階段形の多モードファイバーでは,モードによって伝搬距離が異なるため,受信光に分散が生じ,ファイバー長が長くなるに従い,受信パルスが大きく広がる。集束形ファイバーは,多モードであるが,コア部屈折率が放物面をなしているため,モード間の伝搬時間差を小さくすることができ,受信光の分散が少ない。単一モードファイバーは,屈折率階段形ファイバーの一種であり,コア部径を数μm以下にする必要があるため,高度の製造技術を必要とするが,モード分散がなく,大容量・高速伝送路としてもっとも適している。
→光ファイバー
執筆者:辻井 重男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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「通信ケーブル」の意味・わかりやすい解説
通信ケーブル【つうしんケーブル】
電話,電信,テレビ信号等の伝送に使用されるケーブル。取り扱う電力は少ないが,マイクロ波までの広い周波数域のものが含まれる。電力ケーブルに比べて電気的に高度の性能が要求され,一般に紙などで絶縁,2本を対に,また4本を十字に組んで一つにし,これをまた撚り合わせる仕組みがとられ,乾燥し被鉛される。小型の市内ケーブルは電話交換局と加入者間等を結び,市外ケーブルは大都市間や長距離多重通信等に使用される。なお数十kHz〜数千MHzなどの高周波用には同軸ケーブルや平行二線式ケーブルが,さらに短い波長用には導波管が使用される。通信の大容量化,高速化に応じうる光ファイバーケーブルが広帯域伝送路として,すでに実用化されている。→海底ケーブル
→関連項目装荷ケーブル|無装荷ケーブル
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通信ケーブル
つうしんケーブル
communication cable
有線通信における情報伝達用の電線。通信距離の遠近や伝送信号の周波数帯域幅など,使用目的によって構造,特性に多くの種類がある。比較的遠距離の多重通信には同軸ケーブルが,また大洋横断用には海底同軸ケーブル,光ファイバを用いた光ケーブルが使われる。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報