日本大百科全書(ニッポニカ) 「通航一覧」の意味・わかりやすい解説
通航一覧
つうこういちらん
近世末期、江戸幕府によって編纂(へんさん)された近世外交史料集成。林述斎(じゅっさい)の立案に係る徳川家創業を中心とする大規模な編纂事業の一環として、当時昌平坂(しょうへいざか)学問所内に設けられた記録所において林大学頭韑(だいがくのかみあきら)(復斎(ふくさい))の下で、宮崎次郎大夫成身以下11人の編纂員により、約4年の歳月を経て終了した。編纂の動機が当時日本をめぐる国際環境の急迫に対応するための修史事業であったことはいうまでもない。編纂開始の時期はかならずしも明瞭(めいりょう)ではないが、1850年(嘉永3)をさかのぼることあまり遠くない時期と考えられる。内容は、1566年(永禄9)三河国片浜浦に漂着した安南(アンナン)国船の事件に始まり、1825年(文政8)外国船打払令の公布までの対外交渉に関するおびただしい記録を、琉球(りゅうきゅう)、朝鮮、唐国、南蛮諸国、阿蘭陀(オランダ)、諳厄利亜(アンゲリア)(イギリス)、柬埔寨(カンボジア)、暹羅(シャム)、魯西亜(ロシア)、北亜墨利加(アメリカ)などの国別と長崎異国通商部とに2大別し、付録に海防などの史料を収めている。1825年をもってとどめたのは、凡例にみえる「これ彼船処置の一変せしによってなり」とあることにより察知できるが、編纂中、ペリー来航という衝撃的事件が発生したことで、続輯(ぞくしゅう)(これに対し以前のものを正編とよんでいる)の編纂の必要を生じたものと考えられる。そしてこの正編は1853年末か54年(安政1)の初めに完成し呈上したものと考えられる。本史料は収録史料名を明記しつつ、綱文をもってまとめるなど、きわめて良心的編纂であり、収録された史料のなかですでに散逸したものの多いことから、この分野の研究には第一級の史料として貴重なものである。全巻数は不明確であるが、現存のものは正編322巻、附録22巻、国書刊行会本は8冊よりなる。続輯は152巻、附録26巻、清文堂刊は5冊よりなる。
[箭内健次]