改訂新版 世界大百科事典 「造血薬」の意味・わかりやすい解説
造血薬 (ぞうけつやく)
hematopoietics
貧血の治療に用いられる薬剤。貧血にも種類があり,おもなものに鉄欠乏性貧血,悪性貧血(巨赤芽球性貧血),再生不良性貧血,溶血性貧血などがある。貧血の種類に応じて造血薬も選ばれる。
血液成分として重要な赤血球中の血色素,ヘモグロビンは1分子中に鉄を4原子含んでおり,人体に含まれる鉄の約60%がそれに相当する。食物から摂取され吸収される鉄が,体内から失われる鉄を補充できなくなると鉄欠乏性貧血の原因となる。鉄を補って血色素量を増やす目的で各種の鉄剤が投与される。内服用鉄剤として硫酸鉄,グルコン酸鉄,フマール酸鉄などの製剤が使われる。2価の鉄イオンは小腸上部で吸収され,3価の鉄に変わって特殊のタンパク質と結合したのち骨髄に分布し,ヘモグロビン合成に使われる。鉄剤を内服する前後でタンニン酸を含む飲物(茶,コーヒー,紅茶など)を飲むと,鉄の吸収を妨げるので避けるべきである。注射用鉄剤としては,デキストラン鉄,ソルビット鉄などの製剤がある。
鉄剤の無効な悪性貧血の治療に肝臓エキス製剤が有効なところから,有効成分の追跡が行われ,1944年に葉酸,48年にビタミンB12(シアノコバラミン)が発見された。ビタミンB12と葉酸のどちらが欠乏しても,DNA合成に支障をきたし,赤血球生成が障害されて貧血を起こす。経口投与したビタミンB12が腸管粘膜から吸収されるためには,胃の壁細胞から分泌される内在性因子と呼ばれる糖タンパク質とまず結合する必要がある。胃粘膜萎縮あるいは胃切除などによって内在性因子が不足し,そのためにビタミンB12の吸収が悪化する場合もある。そのような場合にはビタミンB12の注射剤が使われる。葉酸はビタミンB12と協力して悪性貧血の際の赤血球生成を促進するが,多量の葉酸がビタミンB12欠乏性貧血を悪化させることもあるので注意を要する。
再生不良性貧血や溶血性貧血などに対する治療には特効的な薬は見いだされていない。腎で産生される造血因子エリスロポエチンは骨髄での赤血球産生を促進する腎不全に伴う貧血の治療に遺伝子組換えによって生産したエリスロポエチンが使われている。免疫抑制や骨髄機能促進の目的で副腎皮質ホルモンやタンパク質同化ホルモンを使うことがある。
→貧血
執筆者:粕谷 豊
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報