過失により行われる行為が犯罪となる場合をいう。「過失」とは、法的には注意義務を怠ることと説明される。犯罪は原則として故意犯であり、過失犯は、たとえば「過失により」といった特別の規定がある場合にのみ例外的に処罰される(刑法38条1項)。過失犯には、後述する刑法上の過失犯と道路交通法など特別法上の過失犯とがある。刑法上の過失犯は過失によって人の生命・身体を侵害する罪がその典型であり、従来から過失傷害罪、過失致死罪、業務上過失または重過失致死傷罪があったが、2007年(平成19)に業務上過失致死傷罪の特別類型として自動車運転過失致死傷罪が新設された(刑法211条2項)。それ以外の刑法上の過失犯としては、失火罪、過失激発物破裂罪、過失建造物等浸害罪、過失往来危険罪など、社会法益に対する罪のなかに多く規定されている。なお、結果的加重犯は故意犯と過失犯を結合した場合が一般的であるから、重い結果については過失犯の一種である。
ところで、従来、過失の処罰は例外的であるとされてきたが、科学技術の発達や危険社会(リスク社会)の到来によって、過失犯は「現代型犯罪」の典型とされるようになった。とりわけ交通事犯の増加に伴って、刑法犯のなかでは業務上過失致死傷罪が上位を占め、前述のように自動車運転過失致死傷罪が新設されるとともに、行政刑法の領域でも過失犯が故意犯と並んで幅広く処罰されている。さらに、たとえば公害や企業災害などをめぐって、法人企業やその役職者の過失責任の判断や認定について活発な議論が展開された。
このような社会の変化に対応して、「過失」をいかに理解するかにつき大きな対立が生まれてきた。「新旧過失論争」がそれである。この論争では、注意義務の要素とされる結果回避(防止)義務と結果予見義務(その前提としての予見可能性)について、いずれに重点を置くべきか、また、だれを基準として判断すべきかなどが活発に議論されてきた。しかし、今日では、いずれの立場においても、過失犯が成立するためには、故意犯の場合と同様に、客観的および主観的要素を満たすことが必要であるから、注意義務の要素として結果回避義務と結果予見義務とは必要不可欠であるとされる。このうち、結果回避義務については、道路交通など危険な活動が広く行われる場合には、道路交通法などの行政取締法規が一つの重要な判断資料となりうる。また、結果予見義務に関しては、行為から結果に至る因果経過において、どの程度の予見可能性を要するかが争われてきたが、今日の判例や多数説によれば、「基本的または重要な部分」について具体的な予見可能性を要するものと解されている。
[名和鐵郎]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…これらの問題に対する態度決定がこれからの課題である。【藤岡 康宏】
[刑法上の過失]
刑法では,民事責任の場合とは異なって,故意のない行為は処罰しないのが原則であり,過失犯を処罰するには特別の規定が必要である(刑法38条1項)。刑法典において過失犯が処罰されるのは,失火(116条,117条の2),過失激発物破裂(117条2項,117条の2),過失侵害(122条),過失往来危険(129条),過失致死傷(209~211条)の五つの場合にすぎない。…
※「過失犯」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
各省の長である大臣,および内閣官房長官,特命大臣を助け,特定の政策や企画に参画し,政務を処理する国家公務員法上の特別職。政務官ともいう。2001年1月の中央省庁再編により政務次官が廃止されたのに伴い,...
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