過失により火災を発生させ、公共の危険を生じさせる罪。失火罪は広義の放火罪の一種であり、基本的には、公共危険犯、すなわち、不特定または多数人の生命・身体・財産に対し危険を生じさせる罪であるが、同時に、財産犯的性格も考慮されている。現行刑法には大きく次の3類型がある。すなわち、(1)過失によって現住建造物または他人所有の非現住建造物を焼損する罪(116条1項)、(2)過失によって自己所有の非現住建造物を焼損する罪(同条2項)、(3)業務上の過失または重大な過失によって(1)、(2)の罪が行われる場合(117条の2)、がそれである。このうち、(1)および(3)の罪は、抽象的公共危険犯であり、目的物の焼損があれば公共危険の発生が擬制されるのに対して、(2)の罪では、目的物の焼損に加えて、公共危険が具体的に発生することを要するものと解されている(通説・判例)。
失火罪のうち、(1)、(2)は50万円以下の罰金であるが、(3)の業務上失火罪と重過失失火罪とは、とくに刑が重く(3年以下の禁錮または150万円以下の罰金)、なかでも、業務上失火罪における「業務」とは何かがしばしば問題となる。「業務」につき、判例は、火気を直接取り扱う業務のみならず、発火の危険を伴う業務や火災の発見防止の業務も、これに含まれると解している。ただ、家庭の主婦や喫煙者などは、日常的に火気を用いるが、「社会生活上の地位」に基づいて行っているわけではないから、ここにいう「業務」にはあたらない。
なお、ホテル、デパート、病院における火災にしばしばみられるように、業務上失火により多数を死傷させる場合、判例は業務上過失致死傷罪(刑法211条)のみの責任を問うにとどまるものがほとんどであるが、学説では、業務上失火罪も成立しうると解するのが一般である。
[名和鐵郎]
過失により火災を発生させ,建造物その他の物を焼く罪(刑法116条)。失火罪は客体の相違により成立要件を多少異にする。すなわち,現住建造物等を焼く場合または他人の非現住建造物を焼く場合は,いわゆる抽象的危険犯であり,公共の危険が発生したか否かを問わず失火罪が成立するが,自己所有の非現住建造物または他人のないし自己の非建造物を焼く場合には,いわゆる具体的危険犯であり,公共の危険が発生した場合にかぎり失火罪が成立する。失火罪は1000円--罰金等臨時措置法により20万円--以下の罰金に処せられる。業務上の過失または重大な過失によるときは,3年以下の禁錮または3000円--罰金等臨時措置法により60万円--以下の罰金に処せられる。なお,軽犯罪法1条9号は,建物等の可燃物の付近でたき火をした者,ガソリン等の引火しやすい物の付近で火気を用いた者を処罰し,本条を補充している。
→危険犯 →失火責任 →放火罪
執筆者:堀内 捷三
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