満期において、手形(または小切手)の支払いがないとき、または満期前においても支払いの可能性が著しく減じたときに、手形の所持人が、その手形を流通せしめた振出人(為替(かわせ)手形の場合)や裏書人などに対して、手形金額その他の費用の支払いを求めること(手形法43条以下・77条1項4号、小切手法39条以下)。償還請求ともいう。手形の信用を高め、その流通性を強化するために認められた制度。遡求できる要件としては、満期において支払人が支払い拒絶をしたこと、いわゆる手形の不渡りの場合のほか、満期前でも、為替手形における引受けの全部または一部の拒絶があった場合、支払人または約束手形の振出人の無資力状態が発生した場合に認められる。
前述のような遡求原因があっても、一定の形式的な手続(保全手続)を踏まなければ、現実に遡求権を行使できない。すなわち、適法な支払呈示や引受呈示と、支払いや引受けが拒絶されたことを証明する支払拒絶証書または引受拒絶証書の作成がそれである。この拒絶証書の作成は、遡求義務者のために、引受けまたは支払い拒絶があったことの事実を明確にするためのものであるから、遡求義務者がその利益を放棄する限りその効力を認めるべきであるばかりでなく、遡求義務者は拒絶証書の費用の負担を免れるほか、引受けや支払い拒絶の事実を公表せずにすむという実益もあるので、通常は「無費用償還」「拒絶証書不要」の文言を手形に記載し、拒絶証書作成免除の制度が利用されている。償還をなした遡求義務者は、自己の前者に対し再遡求をなしうる。
[戸田修三]
…所持人は法定の呈示期間(国内小切手の場合は振出日から10日。29条)内に支払を求めることを要し,これを怠ると遡求権(そきゆうけん)を失う。ただし支払人は,振出人から支払委託の取消しをうけないかぎり,呈示期間経過後でも支払をすることができる(32条)。…
※「遡求」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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