改訂新版 世界大百科事典 「選挙争訟」の意味・わかりやすい解説
選挙争訟 (せんきょそうしょう)
選挙に関係する争訟には,選挙争訟と当選争訟の2種がある。選挙争訟は選挙の効力に関する異議の申出,審査の申立て,訴訟の総称であり,当選争訟は当選の効力に関する異議の申出,審査の申立て,訴訟の総称である。俗に両者をあわせて選挙争訟ということもあるが,選挙争訟は選挙そのものの効力を争う争訟であり,当選争訟は個々の当選人の当選の効力を争う争訟であり,区別されなければならない。選挙に関係する争訟のうち裁判所に提起されたものを,とくに選挙訴訟,当選訴訟と呼ぶ。選挙に関係する争訟の提起があったときは,選挙の規定違反があり,かつそのために選挙の結果に異動を及ぼすおそれのある場合に限って,選挙はその全部または一部が無効とされる。また,選挙の効力をなるべく早く確定させる必要から争訟の処理は迅速になされるべきことが要請されている(公職選挙法205,209,213条)。
選挙争訟
市町村の議会議員および長の選挙の効力に関して不服がある選挙人または候補者は,まず選挙の日から14日以内に当該市町村の選挙管理委員会に対して異議を申し出ることができ,その決定に不服のある場合は,決定のときから21日以内に都道府県の選挙管理委員会に審査を申し立てることができるが,その審査の申立てに対する裁決に不服がある場合には,裁決のときから30日以内に当該都道府県の選挙管理委員会を被告として高等裁判所に出訴することができる。都道府県の議会議員および知事の選挙の効力に関して不服がある選挙人または候補者は,まず選挙の日から14日以内に当該都道府県の選挙管理委員会に異議を申し出ることができ,その決定に不服のある場合は,決定のときから30日以内に当該都道府県の選挙管理委員会を被告に高等裁判所に出訴することができる(202,203条)。衆議院議員および参議院議員の選挙の効力に関して異議がある選挙人または候補者(小選挙区選出衆議院議員の選挙においては候補者または候補者届出政党,比例代表選出議員の選挙においては名簿届出政党等)は,選挙の日から30日以内に,小選挙区選出衆議院議員および選挙区選出参議院議員の選挙においては当該都道府県の選挙管理委員会を,比例代表選出議員の選挙においては中央選挙管理会を被告として,直接に高等裁判所に対して訴訟を提起できる(204条)。
当選争訟
市町村の議会議員および長の選挙における当選の効力に関して不服がある選挙人または候補者は,まず当該市町村の選挙管理委員会に対して,当選人決定の告示または当選人がない場合等の告示の日から14日以内に異議を申し出ることができ,その決定に不服のある場合は,決定のときから21日以内に都道府県の選挙管理委員会に審査を申し立てることができるが,その審査の申立てに対する裁決に不服がある場合には,裁決のときから30日以内に当該都道府県の選挙管理委員会を被告として高等裁判所に出訴することができる。都道府県の議会議員および知事の選挙における当選の効力に関して不服がある選挙人または候補者は,まず当選人決定の告示または当選人がない場合等の告示の日から14日以内に当該都道府県の選挙管理委員会に異議を申し出ることができ,その決定に不服のある場合は,決定のときから30日以内に当該都道府県の選挙管理委員会を被告として高等裁判所に出訴することができる(206,207条)。衆議院議員および参議院議員の選挙において当選しなかった者で当選の効力に関して不服がある者(小選挙区選出衆議院議員の選挙においては候補者届出政党,比例代表選出議員の選挙においては名簿届出政党等を含む)は,当選人決定の告示または当選人がない場合等の告示の日から30日以内に,小選挙区選出衆議院議員および選挙区選出参議院議員の選挙においては当該都道府県の選挙管理委員会を,比例代表選出議員の選挙においては中央選挙管理会を被告として,直接に高等裁判所に対して訴訟を提起できる(208条)。
選挙に関係する争訟は,衆議院議員および参議院議員の当選訴訟を除けば,当該選挙の候補者のみならず選挙人にも争訟を提起する権能を認めており,選挙の適法を確保することを目的とするものであり,いわゆる民衆争訟(民衆訴訟)の性格を有する。
執筆者:日比野 勤
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報