犯罪についての責任を犯人本人だけでなく,犯人となんらかの関係をもつ一定範囲の他人にまで連帯責任として負わせる刑罰の形態。
すでに古代の律令には,四等官の一人に職務上の罪があったとき,他の官吏もこれに連なって従犯の罪に問われることが規定されており,これを〈公坐相連〉といった。ところで,犯人本人だけでなく,犯人の一定範囲の親族にその犯罪責任を及ぼす〈縁坐〉は,より古く《魏志倭人伝》に見え,それが律令や鎌倉幕府法などにおいて,刑罰の対象範囲を決める重要事項として立法されている。これに比べ,連坐は主従関係,家主と同居人の関係などの連坐の有無を除いて,法的にはほとんど問題となっていない。この縁坐,連坐が集団の中の個人という観念のもとでの刑罰形態であることからいえば,一般的傾向として縁坐から連坐への流れを指摘することができよう。すなわち氏族制的集団がなお社会の構成単位として存在した中世前期までは,縁坐が当然のこととして広く行われ,中世後期に村,町などの地縁的共同体,種々の職能団体などが登場すると連坐へ移行したといえる。室町時代に広くみられる〈郷質(ごうじち)〉〈所質(ところじち)〉などの慣行は,すでに実社会において村,町などの相互間に連坐制の前提をなす共同体連帯の原理ともいうべきものが形成されていたことを物語っている。そして戦国大名以降の権力が,このような村や町を支配単位として掌握していくにつれ,これらを単位とする連坐がしだいに確立されていった。織豊政権下においては,この連坐制を単なる犯罪予防の手段というより,統治手段として採用するに至り,刑事法上の連坐だけではなく,個人の租税の滞納,田地の荒廃などすべてを,共同体の連帯責任とすることが一般的となり,連坐制はこれら村,町を行政単位として成立した江戸幕府において,より整備されたかたちで継承されていった。
執筆者:勝俣 鎮夫 近世前期には戦国期の延長として,威嚇による犯罪の一般的予防を目的に過酷な連坐制が,縁坐制と並んで行われた。豊臣秀吉の身分統制令は,百姓が商い賃仕事に出,奉公人・侍・中間などが町人百姓になった者を隠しおいた場合,一村一町を死刑に処すと定めている。江戸時代に入ると,犯罪人の親族に刑事責任を負わせる縁坐については反対論が起こり,江戸時代前半にはなお厳しく行われていた縁坐制が,8代将軍徳川吉宗によって制限されるに至ったのに対して,同じく他人の犯罪について刑事責任を負うものながら,親族以外の者が処罰される連坐は,犯罪の一般的予防のためばかりでなく,不完全な公権力の警察事務を人民に分担させるためにも有用と考えられた。しかし幕府法上の縁坐は,博奕(ばくち)・隠鉄砲・隠売女・失火その他の犯罪に,名主・組頭・五人組・総百姓・家主・地主・両隣・町内などが,過料・手鎖・押込・叱などの刑に処せられるもので,刑罰が軽微であるうえ,連坐が科さるべき犯罪の種類も,連帯責任・相互監視によって犯罪を未然に防ぎ,犯罪摘発を容易にするのに適したものに限定されており,近世前期に比してかなり緩和されている。
執筆者:林 由紀子
前4世紀中ごろ,戦国時代の秦で,商鞅(しようおう)が什伍の組織をつくり,1人が罪を犯したとき,その他の人々を連坐する制度をつくったのが,連坐の語の初出の例である。しかし連坐制の起源はさらに古くさかのぼるとみられる。唐律では官吏の連帯責任による処罰が連坐として規定され,明清律にも踏襲された。また家族の連坐は,夷三族,族誅などと称されて古くから存在したが,唐律ではこれを縁坐と呼んで区別している。
執筆者:植松 正
個人責任の思想が確立された近代国家においては,連座制は原則として行われないが,例外として,選挙法上,候補者以外の者による選挙犯罪を理由に候補者の当選を無効にする制度が,広く世界の国々において採用されている。これは通常,候補者と一定の関係にある者による悪質な選挙犯罪は当該候補者の選挙運動が,全体として悪質な方法により行われたことを推測させ,当該候補者が当選しえたのは不正な手段によるものであることを推認させるからである,などと説明されるが,今日〈連座制〉というときには,この選挙法上の制度を指す場合が多い。
日本の公職選挙法において連座制が適用されるのは,選挙運動の総括主宰者等の選挙犯罪による場合と,公務員等の選挙犯罪による場合との二つがある。
第1に選挙運動の総括主宰者,出納責任者,地域主宰者が同法221条(買収および利害誘導罪),222条(多数人買収および多数人利害誘導罪),223条(候補者および当選人に対する買収および利害誘導罪),223条の2(新聞紙,雑誌の不法利用罪)に所定の罪により刑に処せられたときには,当該当選人の当選は無効になる。当選人の父母,配偶者,子,兄弟姉妹で,当選人自身または選挙運動の統括主宰者もしくは地域主宰者と意志を通じて選挙運動をした者が,前掲の犯罪により禁錮以上の刑に処せられ,その刑につき執行猶予の言渡しを受けなかったとき,および,出納責任者が同法247条(選挙費用の法定額違反)に所定の罪により刑に処せられたときにも同様である(公職選挙法251条の2)
第2に,国または地方公共団体の公務員および公社等の役職者等で,国会議員,地方議会議員,地方公共団体の長でなかった者が,その職を離れた日から3年以内に行われた選挙のうちで最初に立候補した選挙において当選した場合に,当該当選人と同一の職にある公務員等で,当該当選人から当該選挙に関し指示または要請を受けた者など,当選人と公選法251条の3に所定の関係にある公務員等が,当該当選人のために行った選挙運動によって,同法221条,222条,223条,223条の2のほか,225条(選挙の自由妨害罪),226条(職権濫用による選挙の自由妨害罪),239条1項1号・3号・4号(事前運動,教育者の地位利用,個別訪問等の制限違反),239条の2(公務員等の選挙運動等の制限違反)に所定の罪により刑に処せられたときには,当選は無効となる(251条の3)。
連座制の適用により当選が無効になる手続および時期は,かつては,当選人以外の物の選挙犯罪に対する有罪判決の確定後に検察官が当選無効の訴訟を提起することとされており,当選無効の判決が確定するときに当選が無効になったが,これでは訴訟の長期化などにより連座制の趣旨が十分に生かされなかったため,1975年の公選法改正において次のように改められた(251条の4)。すなわち,当選人の選挙運動関係者が前述の選挙犯罪により刑に処せられ,総括主宰者等と認定されて刑を加重された場合,および,出納責任者として247条違反で罰せられた場合には,裁判所から当該当選人にその旨の通知がなされる。これに対して当選人は,その者が自身の選挙運動の総括主宰者等ではないことを理由として,当選が無効にならないことの確認を求める訴訟を提起することができることになったが,この不服訴訟が提起されずに出訴期間が経過したとき,不服訴訟が取り下げられたとき,および原告(当選人)敗訴の判決が確定したときには,当該当選は無効となる(251条の4)。また,当選人の親族または公務員等が前述の選挙犯罪により刑に処せられた場合で,その者と当選人とが公職選挙法上連座制の適用されるべき一定の関係にあると認められる場合とか,当選人の選挙運動関係者で前述の選挙犯罪により刑に処せられた者が実質上総括主宰者等の地位にあったにもかかわらず,そのことが裁判において認定されなかった場合など,連座制の適用により当該当選人の当選が無効になると認められる場合には,検察官は当選無効の訴訟を提起することが必要であり,この訴訟について当選無効の判決が確定したときには,当該当選は無効になる。なお,不服訴訟は,前記通知を受けた日から30日以内に検察官を被告として,当選無効の訴訟は,前記選挙犯罪に関する有罪判定の確定した日から30日以内に当選人を被告として,それぞれ高等裁判所に提起されなければならない。(210条,211条)。
執筆者:日比野 勤
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…江戸時代,武士や公家に科せられた制裁。勤仕より離れ,自家に引きこもって謹慎する。門を閉ざすが,潜門(くぐりもん)から目だたないように出入りはできた。比較的軽い刑罰ないし懲戒処分として,職務上の失策をとがめたり,あるいは親族・家臣の犯罪に縁坐・連坐せしめる場合などに用いた。自発的にも行われ,親族中一定範囲の者または家臣が処罰を受けると,その刑種によっては差控伺(うかがい)を上司に提出し,慎んで指示を待った。…
※「連座」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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