遺伝相談(読み)イデンソウダン

デジタル大辞泉 「遺伝相談」の意味・読み・例文・類語

いでん‐そうだん〔ヰデンサウダン〕【遺伝相談】

遺伝カウンセリング

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

家庭医学館 「遺伝相談」の解説

いでんそうだん【遺伝相談】

 遺伝相談は、遺伝性疾患発現について心配をもつクライアント(相談に訪れた患者さんや家族の総称)に必要な情報を与え、側面から援助することを目的に行なわれています。
 相談所では、クライアントやその家族を助けるための専門家たちによる診断、病因の検索、家系分析、危険率の推定、リスクへの対処法の工夫などが行なわれています。
 遺伝相談の基本姿勢は、「生活や生殖において遺伝的に不利な立場にある人たちを、できるだけふつうに、かつ責任をもって支援する」ことです。
◎遺伝相談で取り扱うことがら
 遺伝相談の場でカウンセラーにもちこまれるおもな問題をまとめると、つぎのようになります。
(1)先天異常のある人について、①遺伝性の有無とその診断、②治療の有無と予後、③遺伝性がある場合、その同胞再現率(近親者に発現する割合)と、次世代に同一の異常が現われる可能性とその予防法について。
(2)保因者(ほいんしゃ)である可能性のある人について、①保因者か否かの判定、②保因者である場合は、その近親者に発現する可能性とその予防策。
(3)近親婚の問題
(4)妊娠中の健康管理、胎芽(たいが)・胎児(たいじ)に悪影響をおよぼすおそれのあるできごと(感染、放射線被曝(ひばく)、薬品服用など)があった場合の危険性とその対策。
(5)親子鑑定
◎遺伝相談の場で行なわれる診断
●保因者診断
 保因者とは、表現型(からだへの現われ方、見た目)には異常がなく、健常者とほとんど変わらないが、病的遺伝子(劣性遺伝ヘテロ)や相互転座染色体をもつ個体(人)のことです。
 保因者発見の意義は、遺伝性疾患の早期発見・早期予防にあります。保因者診断には、生化学的検査、染色体検査、病理学検査、DNA診断などの分子生物学的検査が行なわれます。
●出生前診断
 遺伝性疾患や各種先天奇形などの診断を、出生前に行なうのが出生前診断です。染色体異常や遺伝子病の診断は妊娠の比較的早期に、形態異常の多くは妊娠中期から後期にかけて画像分析を中心に行なわれますが、すべての先天奇形を包括しているわけではありません。出生前診断の実施にあたっては、倫理的側面にも十分配慮すべきことはいうまでもありません。
◎遺伝相談で配慮されるべきことがら
 遺伝相談の場で配慮されなければならないことがらは、つぎのとおりです。
(1)患者さんとその家族への敬意
(2)家族の「絆(きずな)」の保持
(3)相談者の健康にかかわるすべての情報の提供(たとえ不利な情報でも)
(4)相談者のプライバシーの保護
(5)親族内にいるハイリスクの人への対応と配慮
(6)カウンセラーの指示的助言の回避

出典 小学館家庭医学館について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「遺伝相談」の意味・わかりやすい解説

遺伝相談 (いでんそうだん)
genetic counselling

結婚や妊娠・出産に際して遺伝病や先天異常について相談に応じたり説明すること。これらの問題に対して具体的な心配を抱いている人は少なくない。たとえば,いとこどうしで結婚しようとする場合や,おじ,めいなど近親者に先天異常患者がいる場合,あるいはすでに出産した子どもに先天異常があった場合などである。このような問題をもった個人または個々の家族に対し,訓練を受けた臨床遺伝学の専門の医師が,その専門的知識を背景として,遺伝病や先天異常の起こりうる可能性(その結婚,妊娠によって出産する児の何%くらいが問題の疾患に罹患しうるかなど)を説明し,相談に応じている。日本で遺伝相談が普及しはじめたのは1970年代に入ってからであるが,欧米では第2次世界大戦前後からの歴史をもつ。現在日本でなんらかの形で遺伝相談に応じることのできる施設は100近い。しかし遺伝性疾患や先天異常の種類が複雑多岐にわたるため,一つの施設ですべての疾患の相談には応じられない。そこで,日本人類遺伝学会や厚生省研究班の手で,施設間の連携ネットワークづくりが進められている。

 遺伝相談は,国家を主体とした優生政策とは本質的に異なるものである。優生政策は,優秀なものの結婚や産児を政策として奨励するもので,極端な例としてナチス・ドイツが挙げられる。一方,遺伝相談は,あくまで医療の場における個人または個々の家族への遺伝医療サービスの一環として行われるものである。したがって遺伝相談の結果としての産む,産まぬの選択は,あくまで個人または個々の家族にゆだねられる。遺伝相談が広く普及し,その結果社会全体として先天異常の発生が防止できるかもしれないが,これはあくまで遺伝相談の二次的な目的である。
先天性代謝異常
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の遺伝相談の言及

【先天性代謝異常】より

…近年発展した診断法にヘテロ保因者診断法と新生児マススクリーニング法がある。前者は,劣性遺伝子の保因者を検出するもので,優生学的見地から重要であり,羊水診断法とともに遺伝相談に活用されるが,まだ診断可能な疾患が少ないことが難点である。後者は,早期診断・早期治療開始の原則に沿って新生児の血液をろ紙に採取し,有効な治療法の確立している数疾患を集団的に診断する方法である。…

【羊水診断】より

…したがって,それらが羊水診断の可能な疾患である場合には,胎児の状態について正確な情報を得ることができる意義は多大である。遺伝相談を行ううえで重要な武器となっている。【中村 了正】。…

※「遺伝相談」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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