地質時代に全盛期を迎え,現在はその系統の末裔が,基本的な性質をあまり変えないまま,細々と生きている動植物の通称。広義の遺存種(残存生物)に含まれるが,ふつうレリックまたはレリクトと称されるものは,氷河時代に寒冷種が南下して分布していたのに,後氷期となって大勢は北上したにもかかわらず高地などに残存し,隔離分布の形をとるようになったグループを指すので,生きている化石の典型ではない。生きている化石の典型とは,例えば中生代以後のように,かなり長い年代を存続しているグループのことであり,したがって体制としてもより原始的な構造を多くとどめているのが特徴といえる。代表的な生きている化石の例を,その系統の出現した時代,現在の分布範囲を付して表に示した。
生きている化石が珍重されるのは,系統上原始性を帯びた“古代型”生物であると同時に,現在は分布もせまく絶滅の危機にあるとされるからでもある。しかし,生きている化石の多くの生態はまだよく調べられていない。化石では軟体部や生活様式が推定しにくいので,生きている化石を研究することによって,化石の世界の情報に代える斉一主義的な発想の研究に役立つ。
生きている化石のうち,海生生物については,その分布様式にかなり著しい特色がある。それは,浅海泥底型と深海型との2型しかなく,しかも生物分類群に関係なく分かれることである。いま前者をs型,後者をd型と仮称し,表の代表例に適用してみよう。d型については,しばしば,深海に生態学的領域を移したことによって長い地質時代を生き抜いてきたと説明される。その理由は,生きている化石に対応する化石の古生態については,それを含む堆積物の性質や随伴する諸化石の解析などから推定することになるが,オキナエビス類やウミユリの仲間などでよくわかるように,古生代や中生代における相当古生物の生態は,ほとんどむしろs型に近い浅海性を示しているからである。このような生息域の移行の原因や効果について,今後詳しい研究をすすめる必要がある。さもなければ,生きている化石のもつ情報を単純に古生物へ適用することは慎む必要があろう。s型のものは,いずれもそれほど特殊な環境とはいえない生息圏に今でも順応しているから,これらについては,逆になぜ他のグループと異なって原始性を永らく保持できてきたのか,十分な説明はなされていない。
生きている化石の仲間は,分布が限られてきているという意味で,大局的には確かに絶滅に瀕(ひん)している。しかしながら,人為の加わらない自然の中であれば,これまでも数億年,数千万年という長い時代を生き抜いてきたのであるから,むしろかなり生存力のあるグループであるという見方も成り立つ。事実オウムガイ類をはじめ,いくつかの飼育例の示すところによれば,現在の自然生息条件をうまく再現してやりさえすれば,相当に強い生物であることが判明してきている。日本周辺は,世界でも有数の生きている化石動物の分布地である。陸上ではムカシトンボ,オオサンショウウオ,イリオモテヤマネコ,海ではs型のシャミセンガイ類,カブトガニ,d型の各種オキナエビス,クラニア類,トリノアシなどがある。ただしイチョウの自生地は知られていない。
執筆者:浜田 隆士
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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(小畠郁生 国立科学博物館名誉館員 / 2007年)
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…すべて海産で,古生代のオルドビス紀に出現して以来,非常に繁栄したが,中生代から衰え,現在では少数種のみが生き残っている。したがって〈生きている化石〉ともいわれる。全体の形が植物のユリに似ているところからこの名がある。…
…なお育種の方法として交雑を行った場合,雑種の脳の様相は両親の中間型である。 一般に〈生きている化石(遺存種)〉といわれる種の脳は,新しい地質時代に現れた仲間の脳と比べると,相対的に発達は悪い。たとえば,サメのなかで古代的なラブカの終脳と小脳は,現代の攻撃的なサメなどのものより扁平で萎縮し,小脳にはしわがみられない。…
※「生きている化石」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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