ライチョウ(読み)らいちょう(英語表記)ptarmigan

翻訳|ptarmigan

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ライチョウ」の意味・わかりやすい解説

ライチョウ
らいちょう / 雷鳥
ptarmigan

広義には鳥綱キジ目キジ科ライチョウ亜科に属する鳥の総称で、狭義にはそのうちの1種をさす。この亜科Tetraoninaeは7属16種からなる。短く頑丈な嘴(くちばし)と、先が丸い短い翼をもつ。尾は長くない。キジ目のほかの鳥とは、とくに足に違いがあり、第1趾(し)(後趾)の位置が高くて短い、けづめがない、足指の全部または一部まで羽で覆われていることなどが特徴で、少数の種を除いて冬期に足指に櫛(くし)状の付属物ができる。鼻孔は羽で覆われている。羽色はじみで、褐色、白、黒などである。北半球に分布し、日本には種のライチョウのほか、北海道にエゾライチョウTetrastes (Bonasa) bonasiaがいる。おもに地上で生活し、あまり飛ばない。ほとんど渡りはしないが、寒帯や高山のものは、やや移動して越冬する。木の実、葉など植物質をおもに食べる。最大種はヨーロッパからシベリア西部に分布するキバシオオライチョウTetrao urogallusで、全長は雄で約86センチメートル、雌は約60センチメートル、雄の体重は4キログラムを超える。嘴は黄色。雄は翼が濃褐色、体と尾は黒く、雌は褐色のまだらである。シベリアにはやや小形のオオライチョウTetrao parvirostrisが分布している。嘴は黒い。両種は、春になると尾を扇形に立て、やかましく鳴く雄のディスプレーで有名である。ほかにクロライチョウLyrurus tetrixなどがいる。

 種のライチョウLagopus mutusは、北半球北部に広く分布するが、ヨーロッパのアルプスピレネー山脈アイスランドスコットランド北米ニューファンドランド、日本と、生息地は散在する。季節によって羽色が変わる鳥として知られ、日本では本州の中部地方の2400メートル以上の高山地帯に限り分布し、特別天然記念物に指定されている。全長約36センチメートル。雄のほうがやや大きい。雄は目先が黒く、目の上に赤い半円形の裸出部がある。雌の目の上の裸出部は小さく、夏の間だけ赤い。翼、足指の先まで生えている足の羽、下尾筒および尾の中央2枚は白く、黒いほかの尾羽とともに、晩夏に一度の換羽をするだけで一年中同じ色であるが、ほかの部分は、晩夏、初秋、初春に換羽し、それぞれ羽色が異なる。冬羽は全身ほぼ白い。夏羽は雄が黒褐色、雌が黄褐色、秋羽は雄が灰褐色、雌が黄褐色で、それぞれ濃淡の複雑な斑紋(はんもん)をもつ。ハイマツ帯とお花畑にすみ、歩き回りながら、葉、芽、花、種子など植物質のものを採食する。4月ごろ、雄は繁殖のための縄張りテリトリー)を構え、そこに入った雌とつがいになる。雌雄でハイマツの下に巣をつくり、5~7月に4~8卵を産み、雌だけが21~23日間抱卵する。雄は孵化(ふか)まで縄張りを守り、その後は雄だけの小群をつくる。繁殖期の雄はしばしばグァーと低い声で鳴く。

[竹下信雄]

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改訂新版 世界大百科事典 「ライチョウ」の意味・わかりやすい解説

ライチョウ (雷鳥)
rock ptarmigan
Lagopus mutus

キジ目ライチョウ科の鳥。ユーラシア大陸,北アメリカ北部,本州中部の山岳地帯などに広く分布し,25亜種に分けられる。日本に生息するライチョウL.m.japonicusは,国の特別天然記念物に指定されており,飛驒・赤石山脈と,新潟県の火打山,焼山などの高山帯に生息している。体長約36cm。顕著な保護色をしており年3回羽色が変わることでよく知られる。すなわち,春から初夏にかけては,全体に黄褐色と灰色のまだら模様で,翼と腹が白い。夏から秋にかけては,羽色が灰色みをおびてくる。冬季になると,黒褐色の尾羽を除いて純白となる。一年中羽色の変わらないのは白色の風切羽と黒褐色の尾羽である。

 冬の間集団で生活していたライチョウは,4月になると群れの中でつつき合いが始まる。雄どうしの争いが激しく,追いつ追われつの争いの後に,強い順によい場所になわばりが決定する。雪がとけて,植物が芽ぶくとライチョウは盛んに植物の芽を食べる。このほか,小枝,種実なども食べる。6月中旬の産卵の時期になると,雌はハイマツの根もとなどのくぼ地に巣をつくる。1腹の卵数は3~7個で,最後の卵を産み終えると雌のみが抱卵を行い,約23日で孵化(ふか)する。雛は孵化後まもなく雌親につれられて巣を離れる。クーとかグーとか鳴く。霧のまいているような日にはハイマツの外によく出てくる。日本には他に北海道に近縁種のエゾライチョウBonasa bonasiaが生息する。

 ライチョウ科Tetraonidaeには16種が含まれ,キジ科に近縁の科とされ,学者によっては,キジ科の1亜科として分類することがある。北半球の中・北部に分布し,森林(エゾライチョウ,オオライチョウなど)に生息する種,高山に極限されて(ライチョウ)生息する種,あるいは高原地帯(カラフトライチョウ)に生息する種などがある。ニワトリのチャボ大の小型のものからシチメンチョウの雌くらいの大型のものがあり,雄は雌よりも大きい。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ライチョウ」の意味・わかりやすい解説

ライチョウ
Lagopus muta; rock ptarmigan

キジ目キジ科。全長 37cm。夏羽(→羽衣)では,頭,背,胸部は褐色(雄のほうが雌より濃い)で,黄白色と黒色の細かい横斑が密にある。腹部とは白色,尾羽は黒い。冬羽では,尾羽が黒く,体のほかの部分は純白で,雄には黒い過眼線がある。夏羽,冬羽とも,眼の上に皮膚の裸出した赤い肉冠があり,雄のほうが雌より大きい。北半球の高緯度地域と北極圏一帯,イギリス北部,ピレネー山脈アルプスの高山帯,ロシアのシホテアリン山脈,日本の高山帯に繁殖分布している。日本では,北アルプス南アルプスなどの標高 2000~3000mの高山のハイマツ帯にのみ繁殖し,冬季も,少し標高の低いところに降りるくらいで雪の世界にすみついている。氷河時代遺存種で,温暖化が進むと寒冷な高山に取り残されて北方へ移動できなかった鳥である。なお,ライチョウ類は 19種に分類され,すべて北半球に分布している。全体的な形態はキジに似ている。キジ目の他科の鳥と異なる点は,鼻孔が羽毛で隠れていること,趾(あしゆび)の後ろを向いた第 4指(後趾)が前を向いた 3指よりかなり高い位置についていること,脚の一部あるいは全部に羽毛が生えていること,がないことなどである。日本には本種とエゾライチョウが分布している。

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百科事典マイペディア 「ライチョウ」の意味・わかりやすい解説

ライチョウ(雷鳥)【ライチョウ】

ライチョウ科の鳥。翼長18cm。冬羽は全体白色。夏羽は黄褐色,暗褐色,白などの斑。世界の寒帯,亜寒帯,ヨーロッパアルプスなどに広く分布し,日本が繁殖地の南限。北アルプス,南アルプスなどの高山帯に留鳥としてすむ。昼間は主としてハイマツのやぶの中に潜み,朝,夕あるいは霧の深い時などに草原に出る。高山植物の実や葉,昆虫などを食べる。特別天然記念物。絶滅危惧IB類(環境省第4次レッドリスト)。近縁のエゾライチョウは日本では北海道の林にのみすむ。
→関連項目遺存種

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