日本大百科全書(ニッポニカ) 「シャミセンガイ」の意味・わかりやすい解説
シャミセンガイ
しゃみせんがい / 三味線貝
触手動物門腕足綱無関節目シャミセンガイ科Lingulidaeの動物の総称、およびそのなかの1種。浅海の砂泥中にすむ小動物で、肉質棒状の肉茎の先に長方形の1対の殻を支える形を三味線に見立てて名づけられた。メカジャ(女冠者)の別名もある。
シャミセンガイLingula jaspideaは、青森県陸奥(むつ)湾から九州の有明(ありあけ)海にかけての内湾に産し、潮間帯の有機質に富む泥に穴を掘ってすむ。殻は黄緑色で長さ約3センチメートル、肉茎は長さ4~5センチメートル。軟体動物の二枚貝類に似ているが、2枚の殻は体の背腹に位置し、靭帯(じんたい)もない。また、殻はリン酸石灰でできていて、各殻は左右対称である。体は外套膜(がいとうまく)に包まれた内臓と、複雑な形に伸びた腕とからなる。腕には触手が列生し、口を囲む触手冠を形成する。腎管(じんかん)と閉鎖血管系を有し、血液は無色。平衡器をもつ。雌雄異体で体外受精を行う。
幼生も殻を2枚もち、海中を遊泳する。初め円形であった殻が楕円(だえん)形に変わり、後部から肉茎が突出するころ、海底へ定着する。成体は深さ20センチメートルほどの垂直の穴の中に、殻を上に肉茎を下にして定位し、泥の塊を付着した肉茎の先端が錨(いかり)の役目を果たす。潮が満ちているときは、殻の先端が海底面に届くくらいに肉茎を伸長し、開いた殻の中へ繊毛運動で海水を取り込んで、餌(えさ)をとると同時にガス交換を行う。干潮時には肉茎を縮めて穴の中へ潜っている。掘り出した成体を泥の上へ置くと、2枚の殻をこすり合わせる運動を行って泥の中へ潜る。
日本からはシャミセンガイのほかに、殻長4センチメートルほどのミドリシャミセンガイL. unguisなど現生シャミセンガイ属約10種が記録されている。食用となる種もあるが、近年、海岸砂泥底の干拓や汚染が進み、ほとんどの種がまれになった。シャミセンガイ科は、古生代オルドビス紀以来多くの化石種が知られ、標準化石とされているものも多い。現生種はその殻の形がほとんど変わっていないため「生きている化石」として有名である。
[馬渡峻輔]