仏教関係の和歌。仏菩薩(ぶつぼさつ)や高僧を賛嘆するなど、仏教信仰を表白した歌、経典の思想内容を表現した歌、法会(ほうえ)の際の歌、仏菩薩の示現の歌などの総称。上代の仏足石歌(ぶっそくせきか)のような歌謡もその古い例とみなしうる。『拾遺(しゅうい)和歌集』の「哀傷」の部には行基(ぎょうき)の詠と伝える「霊山(りゃうせん)の釈迦(しゃか)のみまへに契りてし真如(しんにょ)朽ちせずあひ見つるかな」など、実質的に釈教歌とみられる作が含まれている。ただし、勅撰(ちょくせん)集の部立(ぶだて)としては『後拾遺和歌集』雑(ぞう)六に「釈教」として「神祇(じんぎ)」「誹諧歌(はいかいか)」とともにみえるのが最初。『千載(せんざい)和歌集』で一巻として独立し、以後の勅撰集はすべて20巻のうちの1巻をこれにあて、中世和歌では重要な部分を占めている。選子(せんし)内親王、寂然(じゃくねん)、慈円(じえん)、明恵(みょうえ)などは釈教歌の代表的作者である。叙情的な傾向の著しい和歌では、たとえば法華経(ほけきょう)二十八品(ほん)和歌や維摩十喩(ゆいまじゅうゆ)の歌など、思想性に富む作品が多い分野であるといえる。表現に漢語などの仏教用語が取り込まれることも多く、和歌的表現という点ではなだらかでない作品も少なくない。
[久保田淳]
…《拾遺和歌集》以後の勅撰集に37首入集し,家集《大斎院前の御集》《大斎院御集》《発心和歌集》を残す。《大斎院前の御集》《大斎院御集》は,選子個人の家集ではなく,定子や彰子の後宮を《枕草子》や《紫式部日記》が記録するように,斎院サロンのありさまを伝え,《発心和歌集》は,斎院でありながら仏教に帰依し,《法華経》の法文を題にして詠んだ釈教歌55首を収めているが,釈教歌としても初期の作品に属し,家集は,みな文学史上特異な作品として注目されている。【上野 理】。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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