( 1 )「湯桶読み」の語が江戸中期以降に頻出するのに対し、「重箱読み」は挙例の「東牖子」の例が近代以前の孤例とされる。
( 2 )「東京教育大本下学集」(室町中)、「文明本節用集」(室町中)などでは音訓の順序にかかわらず混読語を一括して「湯桶文章」と呼び、江戸前期の「かた言‐五」(一六五〇)などでは「湯桶言葉」としている。
( 3 )音訓の順序を考慮した区別が記述されるようになるのは明治以降か。
重箱のように漢字2個(または2個以上)の連結で書き表される熟語の,上半(または頭部)を音(おん)で,下半(または脚部)を訓(くん)で読む場合,その読み方を〈重箱読み〉といい,逆の組合せを〈湯桶(ゆとう)読み〉(または湯桶文章,湯桶ことば)という。重箱読みの型の例としては〈一(いち)羽(わ)〉〈碁(ご)石(いし)〉〈台(だい)所(どころ)〉〈毎(まい)年(とし)〉〈懐中(かいちゆう)物(もの)〉など,湯桶読みの型の例としては〈言(いい)分(ぶん)〉〈大(おお)勢(ぜい)〉〈敷(しき)金(きん)〉〈手(て)本(ほん)〉〈庭(にわ)下駄(げた)〉などがある。上の例のようにその読み方による語形が正しい語と認められているものが少なくないが,一方に誤った認識による通用しない語形の現れることがあるのは(たとえば〈遂(すい)行〉を〈ついこう〉,〈唯物(ゆいぶつ)論〉を〈ただものろん〉),主として日本における漢字の性質の複雑さによるもので,これは,別に〈百姓読み〉(〈獰(どう)猛〉を〈ねいもう〉,〈遵(じゆん)守〉を〈そんしゅ〉と読むようなものをも含めていう)ともいって,軽侮の対象になる。語構成の面からみると,漢語と和語との混種hybridismの一種で,外来語と固有語との交渉の間に起きる現象の一つとして説明できる。近代までは,湯桶読みまたは同系の用語で,重箱読みの型をも一括して呼ぶことが多く,熟語としては例外またはなまったものという意識で扱われてきたが(ロドリゲス《日本文典》,《伊京集》,元和版《下学集》など),また許容すべきこととも考えられた(安原貞室《かたこと》)。和漢混合は《万葉集》の〈女(め)餓鬼(がき)〉などを初めとし,座(ざ)敷(しき)牢(ろう),見(み)本(ほん)市(いち)など2次的発生のものまであるが,漢字漢語の日常語への浸透にともなって増加し,現今ではありふれた,抵抗の少ない造語法となったので,重箱読み・湯桶読みの称呼は本来の字音語の誤読に現れる音訓混合の現象をとくにさすことが多い。
執筆者:山田 俊雄
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漢字2字による語を、「重(じゅう)・箱(ばこ)」のように、上の1字を音で、下の1字を訓で読む読み方(およびその語)をいう。「湯(ゆ)・桶(とう)」のように上を訓で、下を音で読むものは、湯桶読みといわれて区別される。古くは平安初期から例があるが、中世にその数が増加して現代に至っている。重箱読みという名称は中・近世に発生したものであるらしいが、現代語では、あまりにもその例が増加しているために、実質的には意味をもたないほど意識されない存在である。「気持(きもち)」「駅売(えきうり)」「一時(いちどき)」「借家(しゃくや)」「縁組(えんぐみ)」などは、ごく一般的に用いられている例である。
[近藤泰弘]
『山田孝雄著『国語の中に於ける漢語の研究』(1940・宝文館)』
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…室町時代には贈答用の酒を入れることも多く,江戸時代になると葬式のあとなどに湯桶に酒を入れてふるまうのを〈湯桶酒(ゆとうざけ)〉と呼ぶこともあった。〈ゆとう〉は上の字を訓,下の字を音で読むもので,こうした読み方を湯桶読みといい,上を音,下を訓で読む重箱読みとともに,〈儒者などは甚笑う事なり〉と伊勢貞丈は書いている。【鈴木 晋一】。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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