出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
漢字の意味にあてた日本語のことで,〈よみ〉ともいい,〈音(おん)〉に対する。たとえば〈天〉の音はテン,訓はアマ(またはアメ),〈空〉の音はクウ,訓はソラ。元来日本語には文字がなく,漢字が輸入されて文字をはじめて学んだが,漢字は表意文字で一字一字意味があり,また,中国語としての音をもつ。その音のかわりに漢字の意味にあたる日本語を固定的にあててよみならわしたものが訓である。5~6世紀ころすでに行われ,7世紀初めの推古遺文の中には〈小治田〉の字を〈ヲハリダ〉にあてているから,〈小〉にヲ,〈治〉にハリが固定的に連想される地盤がすでに存在したし,《古事記》の漢字にも固定的な訓をつけるべきものもあるが,その訓注が万葉仮名で付されてあるのは,漢字の訓がまだ固定せず,2,3とおり存在したことを示す。《万葉集》の仮名には訓を用いたものがある(〈思努櫃〉をシノヒツ(偲ひつ)にあてるのは,〈櫃〉の訓ヒツを,シノフという動詞活用語尾のヒと助動詞ツにあてたもの。〈櫃〉の音はキ)。このような仮名を訓仮名という。漢文に訓を書きこんだ例は,《新訳八十巻華厳経音義私記》《四分律音義》など,奈良時代末期から平安初期に現れる。当時の漢籍・仏典につけた訓を集大成したものが《類聚(るいじゆ)名義抄》(平安末期成立)だが,その観智院本では字数3万2000,訓4万,訓の種類1万で,訓を欠く文字が全体の1/3,1字で30以上の訓をもつものもある。それは漢字の多義であることにもよるが,当時漢字の訓のつけ方が比較的自由であったことにもよる。平安中期以後訓はしだいに固定的になり,1字の訓は一つか二つに限定されてくる。これは漢字を日本語の表記に常用するようになってきた結果であり,室町末期ころには1字で数多くの訓をもつ字は少ない。今日,普通の漢字は常用漢字1945字と限定されたが,その訓は未整理である。〈怠〉を〈おこたる〉とも〈なまける〉ともよむようにするか,あるいは一方を制限するかというような音訓整理の意見がある。
→字音
執筆者:大野 晋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
漢字の原義に対応する日本語で、それがある程度固定化したものをいう。本来は、漢字のもつ意味、字義をさし、字義を解釈すること「訓詁(くんこ)」をも訓と称したが、さらに転じて、日本における漢字の読み方のうちの一種をよぶようになった。たとえば「山」についていえば、「やま」がその固定化した日本語にあたる。漢字を中国語の原音(またはそれに近い音)で読んだもの、すなわち音(おん)(字音)と対立するもので、字訓、和訓ともよぶ。わが国に漢字が伝来してのち、ある程度時間が経過して和訓が固定化すると、今度は逆にその和訓に対応する漢字を並べて、日本語の文章を漢字によって表記するようになる。『古事記』(712)はその典型である。しかし、種々の漢字について、その和訓を万葉仮名や片仮名で示すことが一般化するのは平安時代に入ってからで、漢文の行間に仮名などにより読み方を示した資料(訓点資料)の存在しない奈良時代以前については、一つ一つの漢字の和訓を確定することはかならずしも容易ではなく、平安時代以降の和訓から類推することも多いのが現状である。平安時代以降、訓点資料などの和訓を集めて辞書がつくられた。『新撰字鏡(しんせんじきょう)』(900ころ)、『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』(931~938ころ)、『類聚名義抄(るいじゅうみょうぎしょう)』(12世紀初頭)などがある。訓は漢字1字に1語が対応することが多いが、「七夕(たなばた)」のように漢字2字に一つの訓が対応したり(熟字訓)、「将(まさに~んとす)」のように漢字1字に二つの訓が対応することもある。
[月本雅幸]
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…ハングル以前には漢字をもって朝鮮語を表すのにも用いていた。新羅時代の金石文や歌謡には漢字の訓読が行われ,とくに助詞・助動詞の類を示すために漢字の音読および訓読を複雑に利用している。その趣は日本の宣命(せんみよう)などに類する。…
…日本の〈国字〉(中国には元来存在しない日本製漢字)の字音も,この字音体系に反しない形をとる(働(ドウ),鱇(カウ)等)。
[日本漢字音]
日本語での漢字の〈読み〉には,漢字音である〈音〉以外に〈訓(クン)〉がある。例えば〈東〉の音はトウ,訓はひがし。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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