デジタル大辞泉
「餓鬼」の意味・読み・例文・類語
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が‐き【餓鬼】
- 〘 名詞 〙 ( [梵語] preta の訳語。薜茘多と音訳 )
- ① 「がきどう(餓鬼道)」の略。
- [初出の実例]「在生の時、財を貪(むさぼり)しが故に、餓鬼の中に堕(おち)たり」(出典:今昔物語集(1120頃か)六)
- 「地獄・餓鬼・畜生・修羅等のなかにしても」(出典:正法眼蔵(1231‐53)身心学道)
- ② 仏語。六道(りくどう)の一つの餓鬼道に落ちた亡者。
- (イ) 生前犯した罪の報いによって、餓鬼道に落ちた亡者。さまざまなものがいるとされ、やせこけて腹だけふくれた姿をし、のどが針のように細く、しかも飲食しようとする食物はたちまち炎に変わるため飲食することができなくて、常に飢えと渇(かわ)きとに苦しんでいるとされるなど。
- [初出の実例]「相思はぬ人を思ふは大寺の餓鬼の後(しりへ)に額(ぬか)つくごとし」(出典:万葉集(8C後)四・六〇八)
- [その他の文献]〔大智度論‐三〇〕
- (ロ) 後世を弔う者もなく、苦しんでいる無縁の亡者。
- ③ ( 比喩的に ) ②のような状態にある者。
- (イ) 飢えてやせ、または異様な姿をしている人。
- [初出の実例]「Gaqi(ガキ)〈訳〉比喩。飢えてやせ衰え形を崩し、青ざめた人」(出典:日葡辞書(1603‐04))
- (ロ) 飲食をむさぼったり、物惜しみしたりする人。転じて、人を卑しめ、ののしる語として用いる。
- [初出の実例]「Gaqi(ガキ)〈訳〉人を叱り、おとしめることば。例、アノ gaqimega(ガキメガ)」(出典:日葡辞書(1603‐04))
- ④ ( 食物をむさぼるところから ) 子供を卑しめていう俗語。
- [初出の実例]「口のすぎたがきとてにらむ」(出典:咄本・軽口あられ酒(1705)四)
- 「がきのじぶんよりわるさ許りして」(出典:夢酔独言(1843))
- ⑤ 「がきやみ(餓鬼病)①」の略。
- ⑥ 楊弓、大弓で銭を賭け物にするとき、一銭をさす隠語。
- [初出の実例]「かけものは檀紙をも、すきはらをも、たんざくをも用ゆる也。さて銭のときは、一銭を餓鬼(ガキ)、二銭を地といひ」(出典:随筆・一時随筆(1683))
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餓鬼 (がき)
preta[サンスクリツト]
peta[パーリ]
仏教においては,最高の境界である仏から最下位の地獄までを十位に分かち,餓鬼はその下から2番目の悪趣(あくしゆ)(悪い境界)の住人である。絶えず飢えと渇きに苦しみ,咽喉はきわめて細く,腹部はふくれた姿で表されている。飲食物を口に近づけるとすべて炎となり,口に入れることはできないのである。天,人,修羅(しゆら),畜生(ちくしよう),餓鬼,地獄を六道とも六(悪)趣とも言い,行いの善悪によって六道の中で生死を繰り返すのが輪廻(りんね)である。この人生において物質上の,とくに食物についての欲望の強い人,むさぼりの心のつよい人は死後,餓鬼道に落ちるのである。このことから他人をいやしめて餓鬼と呼んだり,生きながら餓鬼道に落ちると言ったり,また,子どもは普通,食欲が旺盛であるので,子どもを餓鬼と呼んだりする。
→餓鬼草紙 →施餓鬼(せがき)
執筆者:井ノ口 泰淳
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餓鬼【がき】
サンスクリットpretaの漢訳。鬼とも訳す。六道,三悪道の一つ。前生の悪行や貪欲(どんよく)な性質の報いとして餓鬼道に生まれるといい,飲食に苦しみ,食う物が得られないものを無財餓鬼,膿血を食べたり,残り物や施し物を食べることができるものを有財餓鬼という。→施餓鬼
→関連項目鬼|餓鬼草紙
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餓鬼
がき
サンスクリット語プレータpretaの訳で、悲惨な状態にある死者をさす。原語は単に「逝ける者」を意味し、死者の霊をさす漢語「鬼(き)」に相当したが、仏教世界観において、迷いの生存形式である六道(ろくどう)の一つ(餓鬼道)となった。そこに住む者は絶えず飢餓に苦しめられるので「餓鬼」の熟語を生じ、咽(のど)は針のごとく細く、腹は山谷のごとくに膨れているなどと形容される。施餓鬼会(せがきえ)や盂蘭盆会(うらぼんえ)などでは彼らへの供養(くよう)が行われる。なお、俗に子供を餓鬼と称するのは、彼らが絶えず腹をすかせている存在だからである。
[定方 晟]
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餓鬼
がき
preta
仏教で説く六道の一つの餓鬼道に住むもの。あるいは人間とともに住む餓鬼もいるといわれる。常に飢えと渇きに苦しみ悩まされ,餓鬼の腹は出て皮と筋と骨ばかりで,長い間食物について聞くことも見ることもなく,たとえ見たとしても食べることはできない。また食べようとして口のところにもってくると炎となってしまうこともあるといわれる。さらに子供の貶称に用いることもある。
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普及版 字通
「餓鬼」の読み・字形・画数・意味
【餓鬼】がき
梵語pretaの訳。六道の一、亡者の世界。〔理趣六度経、三〕
鬼、身は太山の如く、頭は穹廬の如く、咽喉の細きこと針の如し。字通「餓」の項目を見る。
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餓鬼
ちばてつやによる漫画作品。北国の山奥で両親をなくし、村から追われた主人公が心を病んだまま成長し、数々の凶悪犯罪に手を染めていく物語。『ぼくらマガジン』1970年第6号~第36号に連載。講談社少年マガジンKC全2巻。
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世界大百科事典(旧版)内の餓鬼の言及
【ペタ】より
…ある量を表すときの単位につける接頭語で,1015倍の意味。記号にはPを用いる。国際単位系(SI)でSI接頭語の一つとして採用されている。例えば,光が1年間に進む距離,すなわち1光年は9.46×1015mであるが,これは9.46Pm(ペタメートル)と表せる。【大井 みさほ】…
【鬼】より
…【中村 茂子】
[鬼と仏教]
〈おに〉の観念に仏教が及ぼした影響は小さくない。仏教では〈死者〉([プレータ]preta)の漢訳語に〈鬼〉の字を使っている。ただし,この死者は六道輪廻(りんね)のうちにあり,絶えず飢えているので,〈[餓鬼]〉という熟語で呼ばれている。…
【プレータ】より
…古代インドの宗教に現れる死者霊。〈去った者〉〈死者〉を意味する語で,バラモン教では,とくに死亡してから1年間,つまり火葬をはじめとするさまざまな儀礼と,最後に行われるサピンディー・カラナ(合霊祭)によってピトリpitṛ(祖霊)の列に加えられるまでの間の死者霊を指す。祭祀の対象となる祖霊に昇格する前の不浄の死者霊である。ところが死者に対し上述の一連の儀礼が,子孫が絶えてしまうなどの理由で行われない場合,死者霊は不浄のまま,さらに攻撃的になってさまようことになる。…
【鬼】より
… 地獄で亡者を責める役柄の鬼は,千葉県匝瑳(そうさ)郡光町の広済寺で行われる[鬼来迎](きらいごう)に登場するが,この鬼に責めてもらった病弱な者は,鬼の持つ霊力によって健康になるという信仰もある。地獄の鬼は京都市の壬生(みぶ)寺に伝承されている大念仏狂言の《賽の河原》《餓鬼角力(がきずもう)》にもみられる。この他,鬼は田楽や能・狂言にも登場する。…
【プレータ】より
…さらに,このような儀礼による供物を絶たれた霊は飢渇にさいなまれ,あさましい物を食し,あさましい姿をとると考えられた。プラーナに現れるこのプレータの姿は,仏典にみられるプレータ([餓鬼])の姿に等しい。ただし,ヒンドゥー教のプレータは祭祀を絶たれた者であるのに対し,仏教のそれは,前世で食物に対するむさぼりの心の強かった者が餓鬼道に落ちるというように,業と輪廻の世界観で合理化されているのが特徴である。…
【無縁仏】より
…また家族とは無関係であるが,自己の屋敷地にかつて住んでいた他人の霊を屋敷先祖,屋敷ボトケとなかば家族的に扱いながらも,これを無縁仏視してまつることもある。台湾の漢族にみられる中元節の餓鬼は横死した人,恨みを残して死んだ人,夭折した人,死後の世話をしてくれる子孫をのこさずに死んだ人などの霊であるが,無縁仏の性格を考えるうえに参考となる。ホカドン,トモドン,お客ボトケなどのいい方も無縁仏の概念に一つの規定を与えている。…
※「餓鬼」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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