仏教においては,最高の境界である仏から最下位の地獄までを十位に分かち,餓鬼はその下から2番目の悪趣(あくしゆ)(悪い境界)の住人である。絶えず飢えと渇きに苦しみ,咽喉はきわめて細く,腹部はふくれた姿で表されている。飲食物を口に近づけるとすべて炎となり,口に入れることはできないのである。天,人,修羅(しゆら),畜生(ちくしよう),餓鬼,地獄を六道とも六(悪)趣とも言い,行いの善悪によって六道の中で生死を繰り返すのが輪廻(りんね)である。この人生において物質上の,とくに食物についての欲望の強い人,むさぼりの心のつよい人は死後,餓鬼道に落ちるのである。このことから他人をいやしめて餓鬼と呼んだり,生きながら餓鬼道に落ちると言ったり,また,子どもは普通,食欲が旺盛であるので,子どもを餓鬼と呼んだりする。
→餓鬼草紙 →施餓鬼(せがき)
執筆者:井ノ口 泰淳
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…ある量を表すときの単位につける接頭語で,1015倍の意味。記号にはPを用いる。国際単位系(SI)でSI接頭語の一つとして採用されている。例えば,光が1年間に進む距離,すなわち1光年は9.46×1015mであるが,これは9.46Pm(ペタメートル)と表せる。【大井 みさほ】…
…【中村 茂子】
[鬼と仏教]
〈おに〉の観念に仏教が及ぼした影響は小さくない。仏教では〈死者〉(プレータpreta)の漢訳語に〈鬼〉の字を使っている。ただし,この死者は六道輪廻(りんね)のうちにあり,絶えず飢えているので,〈餓鬼〉という熟語で呼ばれている。…
…古代インドの宗教に現れる死者霊。〈去った者〉〈死者〉を意味する語で,バラモン教では,とくに死亡してから1年間,つまり火葬をはじめとするさまざまな儀礼と,最後に行われるサピンディー・カラナ(合霊祭)によってピトリpitṛ(祖霊)の列に加えられるまでの間の死者霊を指す。祭祀の対象となる祖霊に昇格する前の不浄の死者霊である。ところが死者に対し上述の一連の儀礼が,子孫が絶えてしまうなどの理由で行われない場合,死者霊は不浄のまま,さらに攻撃的になってさまようことになる。…
… 地獄で亡者を責める役柄の鬼は,千葉県匝瑳(そうさ)郡光町の広済寺で行われる鬼来迎(きらいごう)に登場するが,この鬼に責めてもらった病弱な者は,鬼の持つ霊力によって健康になるという信仰もある。地獄の鬼は京都市の壬生(みぶ)寺に伝承されている大念仏狂言の《賽の河原》《餓鬼角力(がきずもう)》にもみられる。この他,鬼は田楽や能・狂言にも登場する。…
…さらに,このような儀礼による供物を絶たれた霊は飢渇にさいなまれ,あさましい物を食し,あさましい姿をとると考えられた。プラーナに現れるこのプレータの姿は,仏典にみられるプレータ(餓鬼)の姿に等しい。ただし,ヒンドゥー教のプレータは祭祀を絶たれた者であるのに対し,仏教のそれは,前世で食物に対するむさぼりの心の強かった者が餓鬼道に落ちるというように,業と輪廻の世界観で合理化されているのが特徴である。…
…また家族とは無関係であるが,自己の屋敷地にかつて住んでいた他人の霊を屋敷先祖,屋敷ボトケとなかば家族的に扱いながらも,これを無縁仏視してまつることもある。台湾の漢族にみられる中元節の餓鬼は横死した人,恨みを残して死んだ人,夭折した人,死後の世話をしてくれる子孫をのこさずに死んだ人などの霊であるが,無縁仏の性格を考えるうえに参考となる。ホカドン,トモドン,お客ボトケなどのいい方も無縁仏の概念に一つの規定を与えている。…
※「餓鬼」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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