投球動作の主にアクセレーション期(加速期)に、肘関節が屈曲位で過度の外反(外側に反る)を強制されることにより、内側には引っ張りストレス、外側には圧迫ストレス、後方には衝突や引っ張りストレスが繰り返し加わることによって発生する肘の障害です。とくに、肘の
はじめは、肘の外反が強制されることにより内側の
後方にストレスが加わることによって起こる障害は、主に上腕三頭筋の収縮が肘頭を繰り返し引っ張ることによって起こる骨端線の離開に代表されます。その他、
関節内の障害は進行すると変形性肘関節症となり、日常生活に支障を来すことになるので、早期発見・早期治療が重要になります。
自覚症状はどの部位の障害も疼痛で始まります。はじめは投球時にのみ局所に疼痛があり、安静時には無痛か
X線撮影で各部位の骨の異常を調べます。内側は骨端核(成長線の外にある骨)の離開、分節化、硬化、不整、肥厚など、外側は上腕骨小頭の透明巣(黒く抜けて見える病巣)、分離、欠損など、後方は肘頭の骨端核の離開、硬化、不整などの所見が認められることがあります。遊離体や骨棘はX線像でもわかる場合もありますが、CT撮影でより詳細に描き出されます。MRIはX線、CT像でまだ現れていない骨軟骨変化や、
障害部位とその進行程度、さらには年齢や個人の事情によって治療方針は異なりますが、原則は早期発見・早期治療です。内側の障害は、早期であればほとんどが投球中止などの保存療法で治ります。しかし、この段階で放置すると外側の障害が進行することになるので注意を要します。
外側の障害についても、程度が軽ければ損傷が修復するまで投球を中止することによりよくなりますが、骨軟骨病変の分離が進んだり、遊離体ができてしまった場合などには手術が必要になります。
手術方法としては分離や欠損を起こしている部位へのドリリング(穴をあける)や
成長期の野球肘の発生要因としては、骨、軟骨、筋肉の未発達、投球技術の未熟などがあげられます。予防・再発予防として、投球前後のウォーミングアップとクールダウン、ストレッチング、筋力トレーニング、投球フォームの改善などを行います。また、最大の要因は投球過多と考えられるので、投球数の制限(50球/日、300球/週以内)を行う必要があります。
加藤 公
野球肘とは、ボールを投げる動作が繰り返されることにより生じる肘関節周囲の故障です。一連の投球動作において、肘の内側(小指側)は引っ張られ、外側(親指側)は圧迫が加わり、肘の後ろにはボールリリースの際にぶつかる力が加わります。そのような力が繰り返し肘に加わり、故障が発生します(図31)。
成長期では、軟骨(関節軟骨:関節部の表面の輪郭をなす軟らかい組織、成長軟骨帯:関節近くにある軟骨で骨が伸びる部位)が傷みやすいため、その部位に故障を生じます。内側では、
ボールを投げる際の肘の痛みが特徴的です。普通の生活には困ることはほとんどないのですが、関節ねずみ(関節内遊離体)ができると、肘が動きにくくなったり、激痛が走ったりすることがあります。
特徴的な痛みの部位やX線検査で診断は可能です。必要に応じて、MRI検査やCT検査を行うこともあります。
手術による方法と手術によらない方法がありますが、手術が必要なものは少ないようです。ボールの投げすぎによる故障ですので、十分に治るまで投げることをやめ、肘や手関節周囲の筋力アップを行います。離断性骨軟骨炎や肘頭疲労骨折では、早期復帰目的で外科的治療を選択する場合もあります。治っても、“投げすぎにより生じた肘の故障”ということを念頭におき、投球数の制限やフォームの改良などの予防対策も極めて重要です。
一口に「野球肘」といってもいろいろな病態があります。安易な自己診断はやめて、必ず整形外科専門医の診察を受け、X線検査などにより正確な診断をつけ、治療計画を立ててもらってください。診断や治療が手遅れになると肘の動きが悪くなって、一生障害が残る場合もありますので、十分注意してください。
堀部 秀二
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
野球の投球によるひじの痛みを野球ひじと呼んでいるが,とくに熱心に練習に励んだ人にひじの障害がみられることはよく知られており,一種の使過ぎ症候群である。一般には野球の投球による各種のひじの障害を総称しているが,そのなかの一つ離断性骨軟骨炎という関節面の一部が遊離した状態になったものをchipped elbowとかbaseball elbowと呼び,野球ひじを限定した疾患のみに用いる人もある。
野球の投球という動作は,立ち上がり期から加速期を経てフォロースルー期となる,かなり複雑で無理な運動であるが,とくに加速期ではひじの内側に引張り力が働き,内側を傷めやすい。逆に外側には上腕骨と橈骨頭とが圧迫される力が働くので,上腕骨小頭の関節軟骨に傷を受けやすい。もう一つは投球動作の最後にひじを過度に伸ばすので,ひじの後側に障害がくるというぐあいで,主としてストレスがどのように加わるかでひじの関節の損傷が変わるわけである。
障害が重度となるのは旺盛な成長期における野球ひじである。痛みを訴える少年のひじの関節面は各種の程度に荒廃し,骨には骨化の異常が生じている。軽い時期に野球を中止させると元に戻りうるが,無理して続けると,先に述べた離断性骨軟骨炎といった関節面の一部が脱落するような状態をはじめ,強いひじの障害を起こしてしまう。こうした少年野球によるものをとくにlittle leager's elbowと呼んで,強い警告を発している人もいる。少年野球では投球数の制限,球種の制限(カーブを投げてはいけない)などの厳重な規制で,成長期の脆弱(ぜいじやく)なひじを守ってやる必要がある。野球のセンスと身体の生まれつきの頑丈さの両者をもつ人はまれで,現実には多くの少年が無知な監督や親のためにひじをこわしている。本格的な投球練習は成長期が終わる高校に入ってから始めるべきだとの意見が強い。使過ぎ症候群だから安静にしていれば治まるが,再発はきわめて多い。
執筆者:山本 真
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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