閉鎖性腎・尿路疾患

内科学 第10版 「閉鎖性腎・尿路疾患」の解説

閉鎖性腎・尿路疾患(その他の腎・尿路疾患)

概念
 腎において生成された尿が尿路を通過し体外に排泄される過程で,尿流を妨げるような閉塞が発生すると,その上流に尿流停滞が起こり,腎および尿路に形態的,機能的変化が生じる.このような状態を閉塞性腎・尿路疾患という.尿流停滞は水腎症を引き起こし,尿路感染症,尿路結石形成の原因となる.上部尿路(腎杯・腎盂・尿管),特に腎盂尿管移行部より下流での上部尿路閉塞は,閉塞側の腎に形態的,機能的影響を及ぼす.また上部尿路閉塞に尿路感染症が合併すると,患側の腎機能に対して重大な障害を与える.下部尿路閉塞によっても水腎症をきたすことがあるが,その場合両側性であることが多い.尿路閉塞は急性に起きるものと慢性に経過するもの,閉塞の程度から部分性や完全,一側性,両側性,先天性や後天性,その閉塞部位から下部尿路閉塞,上部尿路閉塞などに分けられる.
病理・病態整理
 閉塞性腎・尿路疾患の原因を表11-13-2に示す.
 これらの原因により腎盂内圧が上昇し,腎盂腎杯の拡張,いわゆる水腎症(hydronephrosis)が起きる.腎盂内圧の上昇により,尿生成は停止し,腎実質を圧迫すると腎虚血を引き起こす.その結果,レニン-アンジオテンシン系の活性化が起こり,腎血流の減少,および尿細管障害を生じる.また腎間質では組織の線維化が起こり,腎虚血と相まって腎萎縮を引き起こす.不完全閉塞では,腎盂内圧が尿の生成を停止するまで上昇せず,大きな水腎症が形成される.水腎症をきたした腎では,糸球体濾過率の低下,抗利尿ホルモンに対する反応性の低下などにより腎濃縮力低下や,酸排泄能障害がみられる.このような水腎症が一側のみの場合には,対側腎の代償性肥大がみられ,総腎機能は正常であることが多い.急性の閉塞では,腎に不可逆的な変化が起こる前に閉塞を解除すれば,腎機能は回復する.
臨床症状
 尿管結石の嵌頓のような急性尿路閉塞では激しい側腹部から下腹部にかけて疝痛とよばれる激痛を生じる.この痛みは尿管の走行に沿って放散し,肉眼的血尿や悪心,嘔吐といった消化器症状を伴うこともある.また腎盂腎炎を併発すれば発熱,悪寒を伴い,糖尿病などに罹患している場合は敗血症などへの進展に注意が必要である.慢性の不完全閉塞では徐々に水腎症が生じ,疼痛がなく,漫然とした背部不快感がみられるだけで特に症状を訴えないこともある.下部尿路閉塞の場合,頻尿,尿線細小がみられ,進行すると残尿感も出現する.排尿を準備してから尿が出始めるまでの時間の延長(遷延性排尿)がみられ,排尿の開始や継続に腹圧をかける必要が出てくる.アルコール飲酒や感冒薬の内服などを契機に急に閉塞が増悪すると,膀胱内に尿があっても排尿できない状態,急性尿閉を生じる.膀胱内に尿が運び込まれなくなる無尿との鑑別には注意が必要である.また尿閉のとき,膀胱内に充満した尿が少量ずつ尿道より漏れる,溢流性尿失禁の状態となることがある.ときに血尿もみられ,尿路感染症や結石を合併することもある.
身体所見
 下部尿路閉塞の最も代表的な疾患である前立腺肥大症では,直腸診で均一に肥大した弾性硬の前立腺を触れる.また直腸診は前立腺癌の鑑別にも有用である.糖尿病などに罹患している場合,神経因性膀胱による排尿障害を疑うが,直腸診にて肛門括約筋の緊張低下の所見などを認めることがある.上部尿路閉塞による水腎症をきたしている場合,側腹部に腫大した腎臓を触知することがある.急性尿閉では下腹部痛を伴う下腹部の腫瘤,膨満を認める.急性閉塞や腎盂腎炎の合併時には同側の肋骨脊柱角部に圧痛,叩打痛を認める.このように閉塞の原因疾患によりさまざまな徴候が出現する.
検査成績
1)血液検査:
血液生化学上,一側の上部尿路閉塞では腎機能障害は軽度もしくは正常なことが多い.両側の水腎症がみられる場合にはさまざまな程度の腎機能障害,腎濃縮力障害がみられ,いわゆる腎後性腎不全の状態で,緊急に尿路閉塞の解除が必要となる場合もある.
2)画像検査:
 a)超音波検査:上部尿路閉塞では拡張した腎盂腎杯を中心部エコーの解離として認める.ときに閉塞を起こしている結石が音響陰影を伴う高輝度陰影として認められる.また腫瘍陰影をとらえることもある.下部尿路閉塞では膀胱壁の肥厚や,排尿後に膀胱内の残尿を認める(図11-13-2).本検査は腎機能低下のある患者にも安全かつ簡便に施行でき,かつ閉塞性腎・尿路疾患の鑑別に有用のため,最初に行う画像検査となる.
 b)X線検査:
 ⅰ)排泄性尿路造影法:上部尿路閉塞では拡張した腎盂腎杯尿管を認め,閉塞の部位も明らかになることが多い(図11-13-3).ただし完全閉塞の場合や高度に腎機能低下がある場合には造影剤の排泄を認めない.単純撮影とあわせて閉塞の原因となる尿路結石を明らかにすることができる.下部尿路閉塞では肉柱形成や憩室が明らかになる.前立腺肥大症では膀胱底部に陰影欠損を認める.腎機能障害や喘息などの患者には施行できない. ⅱ)逆行性腎盂造影法:膀胱鏡下に尿管にカテーテルを挿入し造影剤を注入し,尿管,腎盂,腎杯の評価が可能である.腎機能が悪化していても閉塞部位を描出できることと,閉塞側の分腎尿を採取し,尿細胞診を行える利点がある.通常,逆行性腎盂造影法は麻酔管理下に行い,腎盂腫瘍や尿管腫瘍の診断には,軟性尿管鏡を用いた画像診断を行う. ⅲ)順行性腎盂造影法:経皮的に超音波ガイド下で腎杯を穿刺し造影剤を注入する.腎機能が悪化していても閉塞部位を確実に診断でき,また尿細胞診も施行できる.さらに水腎症をきたしている場合,腎瘻チューブを留置することにより腎機能の回復が期待できる.腎盂腫瘍などの悪性腫瘍を疑う場合は通常行われない. ⅳ)CTスキャン:尿路の閉塞部位や範囲,原因と水腎症や腎実質の萎縮の程度を評価できる.症例によっては,CT尿路造影による評価も可能であり,超音波検査に続いて行われることが多い. ⅴ)逆行性尿道造影法: 従来前立腺肥大症の診断に多用されていたが,疼痛を伴い,尿路感染を引き起こすこともあるため,近年実施されることは少ない. ⅵ)MRI:MRIを利用したMR尿路造影(MRU)は腎機能障害があっても,非侵襲的に閉塞の部位を容易に診断できる.T2強調像を用いたMRUでは腎機能に依存することなく拡張した上部尿路を明瞭に描出でき,尿路拡張の程度と閉塞部位を明らかにできる.ガドリニウム製剤を造影剤として用いた場合には,T1強調像で排泄性尿路造影と同様の像を得ることができる.ただし結石の描出には不適当である. c)内視鏡検査:上部尿路閉塞では腎盂尿管鏡検査が治療的目的も兼ね行われる.腫瘍病変の場合には生検や電気切除,レーザー切除も行われ,結石の場合にはレーザーや空気圧を用いた砕石が同時に行われる.下部尿路閉塞では尿道狭窄や前立腺肥大症に伴う尿路閉塞の程度などが膀胱尿道鏡で診断される.
治療・予後
 閉塞性腎・尿路疾患の治療は外科的に閉塞を取り除くことが必要である.他臓器の癌の浸潤ないし転移によって上部尿路閉塞が起こっている場合など,上部尿路閉塞の場合,腎機能改善を目的とした閉塞の解除のために,尿管ダブルJカテーテルの留置や超音波ガイド下に経皮的腎瘻造設術を行う.尿管結石や尿管腫瘍などの場合には原因疾患の治療が必要である.下部尿路閉塞による尿閉の場合には経尿道的にバルーンカテーテルを留置する.ときに尿道カテーテル留置が困難な場合,膀胱瘻をおき,全身状態の改善を待って原疾患の治療を行う.腎後性腎不全をきたしている場合,尿路閉塞の解除に伴い,腎尿細管におけるナトリウム再吸収の低下により,利尿を生じるため脱水に注意し,適切な輸液を行う.急性閉塞の場合,腎機能障害が残らずに回復する場合も多い. 残尿を伴う神経因性膀胱の場合には,残尿を減らすため間欠的自己導尿を指導する.[井手久満・堀江重郎]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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