日本大百科全書(ニッポニカ) 「防火構造」の意味・わかりやすい解説
防火構造
ぼうかこうぞう
fire protection construction
slow-burning construction
防火構造
建築物の外壁または軒裏の構造のうち、周辺火災からの延焼を30分以上抑制する防火性能をもつモルタル塗り、漆喰(しっくい)塗りその他の構造をいう。周囲で発生する通常の火災により30分間加熱されたとしても、構造上支障のある変形や破壊を生じない、またその裏面が出火に至る危険温度に上昇しないことが要件である。これに適合する構造として、塗厚さが2センチメートル以上の鉄網モルタル塗りや木ずり漆喰塗り、裏返し塗り(表と裏を連続して塗ること)をした真壁(しんかべ)造などが例示されている。例示された仕様の構造以外でも前述の要件を満足することが確認されれば、防火構造として認定される。
なお、外壁については防火構造より一段階劣るものとして準防火構造が定められている。防火性能を20分以上維持できれば、準防火構造と認定される。防火構造が市街地における準防火地域内の建築物を対象として用いられるのに対し、準防火構造は市街地外の建築物を対象として用いられる。
[室崎益輝]
耐火構造
壁、柱、床その他建築物の部分の構造のうち、通常の火災が終了するまでの間、建築物の倒壊および延焼を防止する耐火性能をもつ鉄筋コンクリート造、煉瓦(れんが)造その他の構造をいう。防火構造と異なり耐火構造では、内部における火災に対しても倒壊防止および延焼防止の性能をもつことが要求される。また火災の終了までその性能が維持されることが要求される。耐火構造については、外壁、間仕切り壁、柱、床、梁(はり)、屋根、階段のそれぞれについて、それらが用いられる階数ごとに、要求される耐火時間が基準として示されている。たとえば20階建の1階部分の柱は3時間の耐火性能が必要であり、20階部分の柱は1時間の耐火性能が必要となる。なお、耐火構造についても防火構造と同様に、基準に適合する構造仕様が、たとえば8センチメートル以上のラスモルタルで覆った鉄骨造は3時間耐火の性能があるというように細かく例示されているが、例示されていない構造でも基準に示された耐火性能を有していれば、耐火構造として認められる。
耐火構造に要求される倒壊防止と延焼防止の二つの性能のうち、延焼防止性能を有していれば、準耐火構造と認められる。準耐火構造は、3階建共同住宅など準耐火建築物であることが要求される場合の床や壁の構造に義務づけられる。なお耐火構造は準耐火構造の一部であり、準耐火構造のなかでより高い性能をもつものが耐火構造だということができる。
[室崎益輝]
耐火建築物
建築物のうち、内部で発生する火災および周囲で発生する火災が終了するまで、その主要構造部において構造的な損傷を生じない、また炎や熱を遮断し火災の拡大を許さない、といった性能をもつものを耐火建築物という。主要構造部が耐火構造で、かつ延焼のおそれのある開口部に遮炎性のある防火戸などの防火設備が設置されているものは、耐火建築物とみなされる。なお、主要建造部が耐火構造でなくても、前述した性能基準を満たしていることが科学的に検証されれば、耐火建築物とみなされる。また、耐火建築物以外の建築物で、延焼のおそれのある部分に遮炎性のある防火設備を設けたもののうち、主要構造部が準耐火構造であるもの、または梁や柱を不燃材料として準耐火構造に準じる措置を講じたものを準耐火建築物という。
[室崎益輝]
建物の規模・用途に応じた規制
建築物の構造は、その大きさや用途、あるいはそれが建設される地域での防火地域の指定状況に応じて、主体構造部、外壁、軒裏、間仕切り壁などの構造の制限を受けるが、この制限の目安として耐火構造、準耐火構造、防火構造などが用いられる。建物の規模が大きくなると、構造はより高度な防火性能が要求される。延べ床面積が3000平方メートルを超えると、その主体構造部分を耐火構造にすることが義務づけられる。また、劇場、病院、学校、百貨店などの特殊な用途に供せられる建築物も、人命保全の見地からより高度な規制がかけられる。こうした特殊な建築物は耐火建築物もしくは準耐火建築物としなければならない。
防火地域または準防火地域に建設される建築物も、一般的に定められる水準以上の防火性能が要求される。たとえば防火地域では、階数が3以上あるいは延べ床面積が100平方メートルを超える建築物はすべて耐火建築物としなければならない、などの制限がある。また準防火地域では、住宅のような小規模建築物に対し、延焼のおそれのある部分の外壁や軒裏を防火構造にすること、開口部に防火性のある戸を設置することを義務づけている。
さらに大規模な建築物にあっては、建物内部での火災の拡大を防ぐ目的で、防火性をもつ壁や床で区画することが要求されている。大規模な木造建築物においてこの延焼防止のために設けられるのが防火壁である。この防火壁は建物を垂直にくぎる壁で、1000平方メートル以内ごとに設けられる。一方、耐火建築物において用いられるのが防火区画である。防火区画は垂直な壁と水平な床によって立体的に建築物を区画するものである。この防火壁および防火区画は耐火構造としなければならない。
この防火壁とはすこし異なるが、同じような目的で建築物の界壁や間仕切り壁、あるいは隔壁を防火性のあるものにしなければならない場合がある。長屋や共同住宅では、住戸間の界壁を小屋裏または屋根裏まで立ち上げ、準耐火構造にすることが要求される。また、学校、病院、ホテルなどにあっては、居室間をくぎる間仕切り壁について同様の措置をとらねばならない。さらに建築面積が300平方メートルを超える建築物の小屋裏が木造であるときは、小屋裏に準耐火構造の隔壁を設けることが義務づけられている。
[室崎益輝]
『建設省住宅局木造住宅振興室監修、日本住宅・木材技術センター編『これからの木造住宅6 防火計画の手引き』(1998・丸善)』▽『建設省住宅局建築指導課・日本建築主事会議防災研究部会編『建築物の防火避難規定の解説』(1999・ぎょうせい)』▽『高木任之著『建築基準法防火規定アタック講座』(2000・近代消防社)』