微生物の生育活動によって生じる腐敗,変質などから商品を守るために用いられる薬剤の総称。広義には,それ自身に殺菌作用のあるなしにかかわらず,結果として上記の効果を生じるものを防腐剤といい,微生物を死滅させるのを目的とする薬剤である殺菌剤を含む概念である。しかし殺菌剤は細胞毒であることから当然人体に対しても有害なはずであるので,微生物の増殖および生理活性を抑制させることを目的とする薬剤に限定して防腐剤と呼び,殺菌剤とはいちおう区別するのが狭義の用法である。この項目では狭義の用法に限定して記述するが,使用薬剤の種類によってはその違いが明確でない場合もあるので注意されたい。〈防菌剤〉〈防カビ剤〉は意味の似た言葉である。動植物由来のものを含む商品が対象となり,目的により薬剤の種類,量が異なる。
食品の場合,薬剤は食品の風味,香りを損なわずにその品質を保持し,なおかつ人体に対して無害でなければならない。使用できる薬剤は食品衛生法で認可されたものに限られ,使用した場合はその旨表示しなければならない。たとえば,果実にはパラオキシ安息香酸エステル,食肉にはソルビン酸およびそのカリウム塩,乳製品にはデヒドロ酢酸およびそのナトリウム塩などが多く用いられる。その使用量も,人間の摂取状況を勘案して商品ごと,薬剤ごとに規定されている(たとえばソルビン酸は食品1kgについて2g以下)。
医薬品,化粧品にもパラオキシ安息香酸,デヒドロ酢酸は使われる。繊維,皮革などの場合,使われる薬剤はまったく違い,硫酸銅や有機スズなどであり,防カビ剤と呼ばれることが多い。木材の場合には,屋外や地下など微生物の働きが活発で,風雨にもさらされがちな場所で使われるので,薬剤には強い効力とともに安定性,木材への吸着性が求められる。古くから使われているクレオソートや,銅・クロム・ヒ素化合物(CCA)はこの目的に合っている。しかし後者は人体に有害であるため,処理した木材は使用場所が限られる。代わるものとしてフェノール・無機フッ化物(PF)などがある。
→合成保存料 →防腐木材
執筆者:善本 知孝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
微生物の増殖によっておこる物質の腐敗を防ぐことを防腐といい、その目的で使用される薬物を防腐剤という。微生物、とくに腐敗菌の発育を抑制するか、または殺菌する作用をもつもので、殺菌消毒剤のうち、作用の弱いものが含まれ、食品や医薬品に用いる防腐剤は保存剤ともいわれる。食品には、とくに毒性の少ないことが求められ、使用できる防腐剤の種類と濃度が制限されている。医薬品では液剤、シロップ剤、軟膏(なんこう)剤、分割使用の注射剤などに配合されるほか、コーティング剤などにも入れられる。また、尿路感染症の治療に用いられる化学療法剤を尿路防腐剤とよんでいる。そのほか、木材などの保存にも防腐剤が用いられる。
[幸保文治]
細菌やかびなどの微生物の増殖を抑制して腐敗を防止する物質.食品,化粧品,ならびに医薬品の防腐剤,さらに木材,繊維,皮革などの工業用防腐剤などがある.保存したい物品に添加して微生物の生理的活動を抑制し,生育を阻害することにより,物品の変質を防ぎ,保存をはかる目的で使用される.多くの防腐剤は多少とも毒性を有しているので,食品,化粧品,医薬品などの防腐剤はヒトに無害な状態で使用することが必要であり,法律で防腐剤の使用範囲および使用量が規定されている.食品用防腐剤としては,安息香酸,安息香酸ナトリウム,ソルビン酸,デヒドロ酢酸ナトリウムなどが,化粧品や医薬品には,パラベン(p-ヒドロキシ安息青酸エステル),フェノキセトール(2-フェノキシエタノール)などが広く用いられている.木材用としては,クレオソート油などがある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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