改訂新版 世界大百科事典 「合成保存料」の意味・わかりやすい解説
合成保存料 (ごうせいほぞんりょう)
synthetic preservative
微生物による食品の変敗を防ぐために添加される化学物質。食品防腐剤のこと。大昔は人類は自分で収穫したものを,自分で消費していたので,食物を保存する必要度は低かったが,現代は食物の生産地と消費地が地理的に離れ,流通をさせるために食物を変敗から防止する技術が必要である。また,種々の加工食品は食生活を変化に富むものにするとともに,従来廃棄されていた食物の食品化も可能にする。加工食品はとくに精製され,栄養価に富んでいるので,微生物の生育に好都合である。これらの食品の変敗を防止する化学的方法として,保存料の利用がある。
化学物質が微生物の生育を阻止することはすでに19世紀から知られており,1875年にサルコフスキーが安息香酸の微生物生育阻止効果を発見している。しかし,合成保存料が広く使われるようになったのは第2次世界大戦後で,1949年にアメリカのダウ・ケミカル社が,カビ,酵母,細菌いずれにも効果があるデヒドロ酢酸を製品化したのが契機であろう。
合成保存料は微生物の生育を阻止するものであるから,人体にとっても多かれ少なかれ影響があり,世界のどの国でも法規によってその使用を制限している。近年は発癌性に対して注意が払われるようになり,豆腐に広く用いられていたAF-2(2-(2-フリル)-3-(5-ニトロ-2-フリル)-アクリル酸アミド)が1974年に発癌性が実証され,使用禁止となった。そのため,最近ではアミノ酸,有機酸,アルコールなど防腐効果は弱いが安全性の高い化学物質が用いられるようになっている。合成保存料は,防腐効果があるといっても微生物の発育を完全に阻止する量は添加されず,過信をさけるとともに他の保存法と併用することが望ましい。日本では食品衛生法により,安息香酸およびそのナトリウム塩,デヒドロ酢酸,ナトリウム塩,パラオキシ安息香酸エステル類,ソルビン酸およびソルビン酸カリウム,プロピオン酸およびそのカルシウムおよびナトリウム塩,オルトフェニルフェノール(OPP)およびオルトフェニルフェノールナトリウム,イマザリル,ジフェニル,チアベンダゾール(TBZ)のみが使用基準を定めて許可されている。とくに後5者は,かんきつ類の表面のカビ防止にのみ許可されている。
執筆者:田島 真
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報