(読み)ジュ

デジタル大辞泉 「呪」の意味・読み・例文・類語

じゅ【呪】[漢字項目]

常用漢字] [音]ジュ(慣) [訓]のろう まじなう まじない
のろう。のろい。「呪詛じゅそ
まじなう。まじない。「呪術呪文じゅもん
[補説]「咒」は異体字

じゅ【呪】

他人に災いが生じるように神に願うこと。のろい。呪詛じゅそ
自分の災いを取り除くために神仏に願うこと。呪術じゅじゅつ。まじない。
仏語。陀羅尼だらに真言しんごん

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精選版 日本国語大辞典 「呪」の意味・読み・例文・類語

じゅ【呪・咒】

  1. 〘 名詞 〙
  2. のろい。呪詛。
  3. まじない。呪文
    1. [初出の実例]「汲水採薪。若不命、即以呪縛之」(出典:続日本紀‐文武三年(699)五月丁丑)
    2. 「袖の内にて印を結びて、ひそかに咒をとなふ」(出典:宇治拾遺物語(1221頃)一一)
  4. ( [梵語] mantra の訳 ) 仏語。本来、真言の意であるが、陀羅尼などの意にも用いる。区別するときは真言を密呪、陀羅尼を総持呪という。
    1. [初出の実例]「孔雀王咒をならひ行じて霊験をあらはしえたり」(出典:観智院本三宝絵(984)中)

まじ‐ない‥なひ【呪】

  1. 〘 名詞 〙 ( 動詞「まじなう(呪)」の連用形名詞化 )
  2. 神仏や神秘的なものの威力を借りて、災いや病気を取り除いたり、他人に災いを与えたりすること。また、その術。禁厭(きんよう)。符呪(ふじゅ)。まじないごと。
    1. [初出の実例]「わらはやみにわづらひ給てよろづにまじなひ、加持など参らせ給へど」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若紫)
  3. ごまかすこと。うわべをうまくとりつくろうこと。また、相手の機嫌を巧みにとること。まじくない。
    1. [初出の実例]「まじないの利く婆嫁を可愛がる」(出典:雑俳・折句大全(1803))

ず【呪】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 呪文(じゅもん)。となえごと。
    1. [初出の実例]「東(やまと)の文の忌寸部(いみきべ)の横刀(たち)献る時の呪」(出典:延喜式(927)祝詞)
  3. 仏語。まじないのことば。呪文。密呪。→じゅ(呪)
    1. [初出の実例]「やくしのずをかへすがへすよみ給ふに、御もののけあらはれいでて」(出典:有明の別(12C後)二)

かしり【呪】

  1. 〘 名詞 〙 ( 動詞「かしる(呪)」の連用形の名詞化 ) 呪文を唱えて、神仏に祈り、福や災いについて願うこと。また、それをする人。
    1. [初出の実例]「厳呪詛、此をば怡途能伽辞離(いつのカシリ)と云ふ」(出典:日本書紀(720)神武即位前)

のろわのろはし【呪】

  1. 〘 形容詞シク活用 〙のろわしい(呪)

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改訂新版 世界大百科事典 「呪」の意味・わかりやすい解説

呪 (のろい)

神秘的手段を用いて特定の個人や社会集団に病気や死などの災厄を生じさせようとする邪悪な行為。呪詛ともいい,黒呪(魔)術や邪術も類似のものである。古今東西を問わず,のろいは世界の各地で行われており,人間の本性のありさまの一端をよく示しているものといえよう。

日本でも古代から現代まで絶えることなく,のろいの伝統はひそかに守り続けられてきた。呪詛の記述はすでに記紀神話にみえ,磐長姫(いわながひめ)が妹の木花開耶姫(このはなのさくやびめ)を恨んでその腹の中の子どもに花のように移ろいやすい命を与えるように,とのろったという話はその一例である。のろいのしかたにはいろいろあったようであるが,古代から現代まで人々にもっとも好まれた方法は,相手に見たてた人形(にんぎよう)(形代(かたしろ))や相手の所持品,髪や爪など身体の一部を責めるというものであった。近世には著名な寺社に特別な衣装をつけて〈丑の時参り〉をすれば,その神仏がのろいの願いを聞き届けてくれるという信仰が広く流布したが,この丑の時参りにものろい人形が用いられた。平安時代以降には調伏法を伝える密教系の僧や呪禁(じゆごん)・陰陽道系の宗教者たちに依頼してのろってもらう方法も社会の各層に浸透した。彼らの方法は複雑な形式をもっているが,謡曲《調伏曾我》などにみられるようにやはりその中心的要素としてのろい人形が用いられていた。明治時代に制定された法律に〈丑の時参り〉などの行為を罰する条項があった。このことは当時ではのろいをめぐってのトラブルがまだ深刻であったことを示している。
執筆者:

のろいは,典型的には,他人を災厄がおそうことを願う強い気持ちを定式化された言葉や動作によって表現することである。直接に言葉や動作で表現しなくても,そのような気持ちをもつだけでも効果があると考えられている社会もある。また,のろいは自動的に作用するのではなく,神や祖霊の罰を誘発するという形で効果を発揮するのだと考えられている場合もある。いずれにしてものろいの背後には,他人に対する攻撃的な感情がもつ力,ことにそれが定式化した表現をとった際にもつ力に対する信念がある。

 のろいは,社会関係ともしばしば密接に関連している。南スーダンの牧畜民ヌエル族のように,人間関係が近いほどのろいの効きめが強いと考える民族や,権威の大きさや年齢とのろう力の強さが比例していると考える民族が多い。のろいは,のろう者が不当な害をこうむっていて,のろうべき根拠がある場合にだけ効きめがあると考える社会も多く,この場合には正当性のないのろいは妖術とみなされる。

 一般的にいって,のろいは他に適切で正当な方法がない場合に,不当な被害を受けている人物(不当な虐待を受けている者や,無実の罪を着せられた者)が,怒りや恨みの感情を表出しそれを攻撃の力に転化する文化的な装置である。それはまた,個々人の怒りを共同体の問題に転化する装置ともなる。これをよく示しているのは,タンザニアのニャキューサ族の例である。彼らによれば,ある人物の不幸を願う発言を彼の隣人たちがすると,それは〈人々の息〉と呼ばれる冷え冷えとした風を生じさせる。神秘力をもつヘビを腹に宿している村長が隣人たちのその発言を支持し公認すると,はじめてこの風は力を得て,その人物が病気になったりすると考えられている。

 のろいは,換言すれば,人間関係を操作したり,権威を守ったり,秩序を維持したりする機能を果たす制度でもあり,世界中に広くみられる。なんらかの形で制度化されたのろいをもたない民族の数はきわめて少ないといってよいだろう。次に一例として,西ケニアのルオ族ののろいを紹介する。年齢,系譜上の位置,権威などの点で上位にある者が下位の者をのろうことが多いが,対等者間でのろいをかけることもある。親が子を,母方のおじがおいを,夫婦のいずれかが相手を,長老が若者をのろうケースがもっとも代表的である。臨終ののろいはとくに恐れられている。のろったまま解除の儀礼を行わないで死んだ者は,もっともたちの悪い怨霊となって生者を苦しめる。

 のろいの定式化された言葉や動作は,のろう者とのろわれる者との社会関係によって決まっている場合が多い。また,のろいの言葉は,〈もしお前(私)が~ならば〉という条件法の形をとるのが普通である。たとえば,父は息子に自分の性器を見せて,〈もしお前が私の子でないのだったら,お前は幸せな生涯をおくるだろう〉という。また妻は夫に向かって裸の股(もも)を手でたたきながら,〈もしお前が,再びここにのるようなことがあったら何が起こるか見ようではないか〉といったりする。

 のろわれた者は,適切な儀礼的措置を受けないかぎり不幸に見舞われる。しかし,のろいをかけた者も,もはや幸せで平穏な生活を送れないばかりか,周囲の人々にとって危険な存在に転化したとみなされる。したがって,のろいがかけられると,軋轢(あつれき)は当事者間にとどまらず,共同体全体の問題となる。それゆえ,のろいを解除する儀礼を行うよう世論の圧力が加わることが少なくない。解除のための儀礼は,のろった者とのろわれた者が共に参加する和解と浄化の儀礼として行われる。解除されないのろいが共同体を分裂に導くこともある。争っている兄弟の,〈今後私の子孫がお前の子孫と食事を共にしたら,どちらも死ぬ〉というのろいが,出自集団の分裂の原因となったという伝承も多い。

 誓約ものろいの一種とみなされている。それは,〈もしも私が犯人であれば,私はこの薬のせいで死ぬだろう〉というぐあいに,条件つきで自分自身をのろうことなのである。
悪態 →呪術 →呪文
執筆者:


呪 (まじない)

呪術,呪法ともいい,英語のmagicに相当する。まじないは,人間がある特定の願望を実現するために直接的または間接的に自然に働きかけることをいうが,その願望を実現するために事物に内在する神秘的な力,霊力を利用するのである。科学が客観的に事物に存在する力や法則を使うのに対し,まじないでは主観的に内在すると信じられている霊力を動員し利用する。呪力は事物の中に存在し,そこから独立できないでいると信じられる超自然的な力である。〈くわばらくわばら〉という雷よけの呪文,〈あした天気になーれ〉という子どもの呪文や,〈成れ成れ,成らねば切るぞ〉という成木責めの呪文は,自然や果樹の精霊に言葉のもつ呪力(言霊(ことだま))によって直接語りかけるものである。成木責めなどが直接果樹に働きかけるのに対して,同じ予祝儀礼でも小正月の模擬田植や粟穂稗穂(あわぼひえぼ),繭玉(まゆだま)などのモノツクリ行事では,むしろ望ましい結果を模擬的に表現することで間接的に自然にかくあれかしと働きかけている。男女の性的所作をすることで豊穣多産のまじないとする予祝儀礼は多いが,こうすることで動植物に内在すると信じられている霊威へ働きかけ,波及効果をねらったものであろう。フレーザーは,自然に直接働きかけるのを〈接触呪術〉と呼び,間接的に模擬することで働きかけるのを〈類感呪術〉と称した。いずれにしろ,まじないは事物に神秘的な力が内在することを前提とした行為であるといえる。まじないはいわば目に見えない世界との交渉であるから,それを可視的なものに転換するために呪物がよく用いられる。民俗信仰においては,箕,ほうき,櫛,草履,臼,石,豆,米,針などの日常生活に深いかかわりをもつものが,その機能や形などの一部を抽象化して象徴的に利用されることが多い。穀物と塵芥をふり分ける箕は,この世と異界をふり分けるものであり,また塵芥を掃き出すほうきは赤子をこの世に出す呪物や長居の客を家の外へ出す呪物として使われ,さらに魔よけにも使われる。

 まじないには,虫送り,雨乞い,天気祭,厄病神送りのような村の共同の行事となっているものと,民間療法や願戻し,厄落しなどのように個人的な性格の強いものとがある。まじないには迷信として根拠のないものが多いが,しかしなかには科学的に合理性をもつものもある。宗教が抽象的な神の力を媒介として自然に働きかけるのに対し,まじないは主観的とはいえ直接自然に働きかけるという点では科学により近いといえよう。ただ,まじないは科学と異なり事物に超自然的な霊力が宿るという世界観を前提にしているのである。
呪術 →魔術
執筆者:

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普及版 字通 「呪」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 8画

[字音] ジュ・シュウ(シウ)
[字訓] いのる・のろう

[字形] 会意
もと(祝)に作る。に祝頌と呪詛の両義があり、のち呪詛の字に呪を用いる。口+兄。兄は祝の器である(さい)を奉じて祈る人。その呪祝することを呪という。〔説文〕にみえず、後漢以後に呪を用いる例がある。隋に呪禁博士があり、〔日本書紀、敏達紀六年冬十一月〕に、呪禁師(じゆこむのはかせ)がわが国に渡来した記事がみえる。

[訓義]
1. いのる、のろう、まじないごとをする。
2. うらなう、のろいうらなう。

[古辞書の訓]
〔名義抄〕呪 ノロフ・ウタフ/呪咀 クロヒトゴフ 〔字鏡集〕呪 ウタヘ・イノル・ノロフ

[語系]
呪・tjiukは同声。呪はより分岐した字。tjiu、tiu、diuも同系の語で、みな祝し呪詛することをいう。

[熟語]
呪延・呪厭・呪禁・呪訣・呪語・呪殺・呪師・呪術・呪誦・呪水・呪誓・呪説・呪詛・呪念・呪罵
[下接語]
印呪・禁呪・譴呪・持呪・誦呪・神呪・善呪・詛呪・秘呪・巫呪・符呪・密呪

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「呪」の意味・わかりやすい解説


じゅ

密教における三密のなかの口密(くみつ)(語密)に相当する重要な実践要素で、「しゅ」ともいう。同類の語に真言(しんごん)、陀羅尼(だらに)、密語(みつご)、密言(みつごん)、明(みょう)、神呪(しんじゅ)、密呪(みつじゅ)、密号(みつごう)などがある。真言、呪文といえば、なにか神秘的なまじないを連想するが、本来は仏菩薩(ぶつぼさつ)の秘密語である。古くはインドの『リグ・ベーダ』聖典における神々への賛歌も一種の呪文である。中国においては道教の呪禁の法との融合もみられる。

[小野塚幾澄]

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百科事典マイペディア 「呪」の意味・わかりやすい解説

呪【のろい】

相手に禍害を及ぼすことを思念してなされる呪術的行為。呪詛(じゅそ)ともいう。効験は行為者または言葉(呪文)の神秘的な力によるが,神霊が招換されることもある。古今東西を問わず存在する。日本でも古くから行われ,密教の仇敵折伏(きゅうてきしゃくぶく)の法,丑の時(うしのとき)参りなどがあった。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「呪」の意味・わかりやすい解説


まじない

禁厭,厭勝などともいう。神仏や神秘的な超自然力に頼って災厄を免れたり,それを負わせたりしようとする一種の呪術。科学技術の発展によって衰え,遊興の行事や俗信とみなされるものも多いが,地域や宗教によって多種多様な形態をもつ生活技術の一つともいえる。たとえば日本の虫送りや道切り,雨乞いなど,また一般に出産や収穫にまつわるものなどの多くは前者とみることができるが,啓示や技術を修得することによって病気に対応処置することなどは生活の知恵ともいえる。


じゅ
mantra; dhāraṇī; vidyā

福利をもたらしたり,災難を除いたりする場合に称えられる,魔術的な力をそなえた言葉。インド最古の聖典であるベーダ本集に集められている賛歌も,特定の祭式的状況のもとでは一種の呪文としての意味をもつから,呪の歴史は古代にまでさかのぼる。仏教でも特に密教の場合,重要なものとして行われている。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【陀羅尼】より

…しかし陀羅尼が普通の言葉ではその意味を分別するので,無念無想になれない。したがって意味不明な呪文(じゆもん)のほうがよいことになる。たとえば大日如来にはアビラウンケンとかアアーアンアクアーンク,オンアラハシャノーなどの真言があり,教理的解釈はあるけれども,実際の意味は不明である。…

【丑の時参り】より

…恨む相手をのろい殺すため丑の刻(午前2時ごろ)に社寺に参詣し,神木などに藁人形に五寸釘を打ちつけて祈願することを7日間つづけ,願いがかなうと相手が死ぬという信仰。頭に五徳を逆さにかぶり,その足にろうそくを立て,白装束を着て,人知れずこれを行うものとされた。…

【殺人】より

…かつて存在した首狩りの慣行も,その多くは犠牲者の生命力を個人の中に,あるいは社会の中に取り込もうとする儀礼的殺人だった。 部族社会では呪術的なのろいも現実に殺人効果をもたらす。W.B.キャノンの研究によれば,のろいをかけられたことによる極度の恐怖が交感神経系統の異常を招き,結果的に死に至るという。…

【医療】より

… 殷の時代には医療についての記録はないが,病気は祖先の霊のたたりによると考えられたから,霊をしずめるための祭祀が大きな比重を占めていたであろう。祈禱やまじないは,邪気を主要な病因と考えた周の時代にも巫医(ふい)と呼ばれる一群の医者によって盛んに行われた。巫医が単なる祈禱師であったか,薬物なども併用したかは,漢時代の方士などとの関係とともに明らかでない。…

【呪禁師】より

…日本古代の律令官制において,宮内省管轄の典薬寮に属した官人で,定員は2人。呪禁つまり〈まじない〉のことをつかさどったが,正八位上相当官である。呪禁は道教系統の方術とみられるが,呪禁師は呪文を唱え,一定の作法にしたがって悪気をはらい,病気や災難を除去した。…

【呪術】より

…また,一般に黒呪術とされるものに邪術sorceryと妖術witchcraftがある。邪術はさまざまなまじないを行って,意図的に相手に危害を加えようとする破壊的呪術であり,妖術は相手に危害を与えようという意図がなくても,嫉妬(しつと)や憎しみを感じると,その人が生得的にもっている霊力が発動し,相手に災いをもたらすというものである。両方が明確に区別されている社会と,はっきり分かれていない社会もあり,また一方しかない所もある。…

※「呪」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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