改訂新版 世界大百科事典 「隠田集落」の意味・わかりやすい解説
隠田集落 (おんでんしゅうらく)
室町時代から江戸時代初期にかけて,敗戦の落武者たちが追討を避けて一族郎党を引率し人里離れた人目につきにくい山間僻地に逃亡し,開墾して隠田を開き,定住した集落をさす地理学用語。あるいはまた農民が租税を逃れるために隠遁して開拓し定住した集落をもいう。いずれも当時の政治行政的体制から離脱した集落であり,隠田百姓村,隠遁百姓村ともいわれる。多くは山間部の段丘や,海岸部でも岩石海岸の断崖上などにあって,焼畑農耕によってヒエ,豆類,アワ,トウモロコシ,ソバなどを栽培した。山陰地方の海岸部などに散在する〈平家落人(おちうど)部落〉と呼ばれる集落もこの集落に類する。いずれも海からも平野部からも容易に近づけない地形的条件のため,現在なお交通の不便な隔絶した山村となっている。熊本県の五家荘(ごかのしよう),宮崎県の米良荘(めらのしよう),椎葉(しいば),徳島県の祖谷谷(いやだに),奈良県の十津川(とつかわ),富山県の五箇山(ごかやま)などの地域に含まれる山村や,岐阜県の白川郷は代表的な隠田集落とされている。
執筆者:山田 安彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報