農民がその存在を隠して耕作し,年貢などを納入せずに作取りとしている田地。畠の場合は隠畠(かくしばた)という。古代から近世に至るまで,支配者側からすれば重大な違法行為であった。古代では成文化された罰則は見いだしえないが,隠田は没官(もつかん)(没収)されて公廨(くがい)田,職田,口分田に充てられた。中世では,正検注,内検注などの際に隠田の摘発が行われ,隠田の罪科が発覚した場合には隠田者は追放処分を受け,隠田は没収されるのが通法であったと思われる。しかし,そのような措置は荘園領主などにとって必ずしも得策ではなかった。検注の際にしばしばとられたのは,一定額の勘料米,銭(伏料)を納めさせて,隠田畠などを合法的に検注帳への記載漏れ,すなわち免租地扱いとする措置である。この措置を〈伏せる〉といい,その田畠を伏田,伏畠といった。勘料はたとえば東大寺領伊賀国黒田荘では段別1石,東寺領若狭国太良荘では段別500文である。荘園領主は,勘料徴収によって財源確保を志向したのであるが,かえってこうした合法的な検注除外田の増加によって荘園の定田数の減少を招いた例もみえており,結果的には,その荘園の支配権を弱体化させていったとみることができる。
執筆者:黒田 日出男 近世では,別に隠し田,隠し畑,隠し田畑,隠し地ともいい,厳密には,検地施行に際し,村側が故意に案内をせず,検地後も持主が上申しないで耕作を続けるのを隠田,また故意なくして検地の対象外となり,その後上申した土地を落地(おちち)という。近世に至り,開発の進行とともに隠田がふえ,領主は法令をもってつねに厳禁し,違反に対しては厳罰に処した。1613年(慶長18)信濃国松本藩石川氏が豊後国佐伯に流罪となるが,その一因は新開地を幕府に上申せず,隠田としたためである。農民の隠田には古くは磔刑が行われたが,幕府では《御定書百箇条》で中追放と定めた。大名の場合,たとえば伊勢国亀山藩松平氏は,当人は田畑を取り上げ村払い,庄屋は追込み,肥後国熊本藩細川氏は,隠田1~5畝は笞50,5畝以上は田没収で1畝ごとに一等を加えた。隠田は地租改正後消滅した。
執筆者:神崎 彰利
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「かくしだ」ともいい、隠地(おんち)、隠没田(おんぼつでん)、院田(いんでん)、忍田(しのびた)などともいう。畑の場合は隠畑(かくしばた)という。農民が隠れて耕作し、租税を納めず作取りをする田畑のこと。古くは律令(りつりょう)時代からみられ、絶戸の田や死亡者の田、新規開発の土地を隠田にする例があり、政府は巡察使を派遣し、密告を奨励して摘発に努めた。中世になっても荘園(しょうえん)などで広くみられ、鎌倉幕府も発見しだい没収した。戦国時代から江戸時代にかけて、戦いに敗れた落武者などによって、隠田村として開発される例もあり、太閤(たいこう)検地や江戸時代の検地では、その摘発が一つの目的であった。江戸時代には、発見しだい没収し、磔(はりつけ)や追放に処し、村役人も処罰したが、根絶できなかった。
[上杉允彦]
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…正検注は大検注,実検注などとも称せられ,領有地全域を対象として行われ,すべての検注の基本をなし,領有地支配の根底をなした点できわめて重要な意味をもつ。その目的は上記のごとくであるが,そのほかに隠田の摘発,斗代すなわち段当り租税額の増額なども併せ行われた。正検注は元来領主の代替りや,その他必要に応じて施行されるべきであるが,これによって納税の面や接待の面などで多大の損失を被る農民側の拒否のために,実施が困難になる場合が少なくなかった。…
…その結果を記した帳簿を地押帳または地詰帳といい,記載様式は検地帳と同様である。地押は隠田(おんでん)の告訴があった場合,事故があって村方から願い出があった場合,あるいは論争となった土地を実検する必要が生じた場合などに行われた。その場合1~2耕地程度の小規模であれば廻り検地(惣まわりを絵図にうつし反別を改める方法)ですませた。…
※「隠田」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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