九州の中央部を北東~南西方向に走る脊梁山地。四国山地,紀伊山地に続く西南日本外帯の一部で,北部は西南日本中央構造線にあたる臼杵-八代線,南部は宮崎平野に接する線と出水(いずみ)山地の南縁で限られている。その範囲は大分,宮崎,熊本,鹿児島の4県にまたがっており,長さ約150km,幅は広いところで約80kmに達する。地質は古生層,中生層,第三紀層が北から南へかけて山地と同方向に帯状に分布している。部分的には宮崎県北部や中央部の市房山付近などに花コウ岩が貫入し,また祖母山付近には火山岩の噴出もみられる。この山地の屋根となっている山々は標高1700m前後のものが多く,同じ外帯の四国山地,紀州山地よりいくぶん低いが,形態的にはこれらの山地と同様に壮年期の山地であり,北の祖母・傾(かたむき)山塊,中央部の国見・市房山塊,南の白髪(しらが)・国見山塊に分かれる。大分・宮崎両県境に位置し,ほぼ東西の方向をとる北部の祖母・傾山塊には九州山地の最高峰祖母山(1756m)が位置している。北は臼杵-八代構造線をへだてて竹田盆地に面しており,遠方まで眺望がきき登山者が多い。宮崎・熊本両県境に位置し,ほぼ南北方向をとる中央部の国見・市房山塊は最も急峻で九州の屋根とも呼ばれ,宮崎県の椎葉,米良荘(めらのしよう),熊本県の五家荘など,かつては平野部から隔絶されていた山村が位置している。熊本県と宮崎・鹿児島両県境に位置しほぼ東西方向をとる南部の白髪・国見山塊は高度が1000~1400mと低くなり,その幅も他の山塊と比較すると狭くなっているが,低い鞍部がみられないため,南北交通の大きな障害となっている。
九州山地全域にわたって標高約500mと1000m前後に小起伏平たん面が残存しており,このことは2回の間欠的な隆起があったことを示している。また北東部の豊後水道に面する海岸線,南西部の八代海に面する海岸線はともにリアス海岸をなし,山地の隆起が曲隆であったことを示している。祖母山,傾山,市房山など大きな山は針・広葉樹の原生林におおわれ,その中の動物相も豊富であり,ニホンカモシカ,ヤマネ,キュウシュウムササビなどもかつては生息していたが,現在では確認されていない。
南部に位置する人吉盆地は九州の代表的な盆地で,その南縁の断層崖下には九州地方としては例外的に大規模な扇状地が形成され,球磨川沿いには数段の段丘が発達している。また,盆地内には北からの阿蘇山の噴出物と南からの姶良(あいら)カルデラの噴出物が堆積しており,両者の関係を知ることができる。この山地を流れる河川はいずれも峡谷をなし,特に五ヶ瀬川によって形成された高千穂峡は高さ100mにも達し,人吉市街地から下流,八代平野に出るまでの球磨川は最上川,富士川とともに日本三急流の一つとして知られている。
執筆者:赤木 祥彦
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九州の中部を、北北東から南南西の方向に走っている九州の脊梁(せきりょう)山地。紀伊山地、四国山地に続く西南日本外帯山地の一部で、古生層と中生層からなり、幅は広い所で約80キロメートル、長さは約200キロメートルに達する。北西側は中央構造線にあたる祖母山(そぼさん)断層崖(がい)や日奈久(ひなぐ)断層崖などで中九州火山地域に接し、南東側は宮崎平野と南九州火山地域に接する。北東部と南西部はそれぞれ豊後水道(ぶんごすいどう)・日向灘(ひゅうがなだ)北部と、八代海(やつしろかい)・東シナ海に終わり、とくに豊後水道に終わる所は標式的なリアス海岸をなしている。壮年期の山地の内部は、場照山(ばてるやま)(661メートル)、佩楯山(はいだてさん)(754メートル)、大崩山(おおくえやま)(1644メートル)、行縢山(むかばきやま)(830メートル)、祖母山(1756メートル、最高峰)、傾山(かたむきやま)(1605メートル)、国見岳(くにみだけ)(1739メートル)、市房山(いちふさやま)(1721メートル)、白髪岳(しらがだけ)(1417メートル)、国見山(くにみやま)(969メートル)などのブロックに分かれるが、高所に平頂峰が分布し、隆起準平原の存在を思わす。南西部には人吉(ひとよし)の断層盆地があり、球磨(くま)川は盆地の水を集めて山地の一部を横切って、八代海に注ぐ。中部では一ツ瀬(ひとつせ)川、耳(みみ)川、五ヶ瀬(ごかせ)川などが山地を横切って日向灘へ流れるが、五ヶ瀬川上流では、谷を埋める阿蘇(あそ)溶岩を侵食して高千穂峡(たかちほきょう)の名勝をつくっている。また、緑(みどり)川が西流して島原湾に注ぐ。そのほか、北部は大野川、南部は大淀(おおよど)川、川内川(せんだいがわ)の水源となっている。
祖母傾山地は古生層、中生層を基底とし、見立礫岩(みたてれきがん)層や祖母火山岩類が主体を構成し、一部に花崗(かこう)岩の貫入があって錫(すず)鉱を含み、木浦(きうら)、見立、尾平(おびら)、豊栄(ほうえい)などの鉱山が開発されていた。古生層山地には石灰岩を挟み、交通の便のよい津久見(つくみ)などで採掘されている。年降水量2000~3200ミリメートル、森林がよく繁茂し、林業が一般的な産業となり、シイタケ栽培も盛んである。諸河川は水量豊富で、西日本最大の電源地帯となっている。海岸地域は水、電力、交通などの条件に恵まれて、八代、水俣(みなまた)、津久見、佐伯(さいき)などの工業都市が発達している。
その交通遮断性は大で、南北両九州を分かち、南九州の近代化の大きな妨げとなり、五家荘(ごかのしょう)、椎葉(しいば)、米良荘(めらのしょう)などの隔絶山村を含んでいる。大分県と宮崎県、宮崎県と熊本県、熊本県と鹿児島県の各県境をなしており、自然的境界の意義も大きい。
[兼子俊一]
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