宮崎県北西部,熊本県境にある東臼杵郡の村。耳川上流の九州山地中心部にあり,村の周辺には市房山(1721m),国見岳(1739m)などの急峻な山々が連なる。人口3092(2010)で,1980年までの10年間に約2200人減少した。村の面積537km2は,平成の大合併以前の九州の市町村のなかでは最大であり,人口密度7.8人/km2は県内最低で典型的な過疎地である。耳川が山地を浸食し,谷底に近い部分はV字形をなすが,峰に近い標高700m付近から傾斜が緩くなっている。したがって古い道路,集落,畑などは深い渓谷の上部の緩斜面に立地している。源平の争いに敗れた平家の落人たちがこの地に逃れ住み,これを追って来た源氏の那須大八郎と平家の鶴富姫との間の恋物語の伝説は民謡《稗搗(ひえつき)節》にうたわれて,全国的に有名になった。上椎葉にある那須家住宅(鶴富屋敷。重要文化財)は19世紀前半の建築で,大家族制のなごりをとどめ,一部に寝殿造がみられる。藩政時代は肥後の人吉藩領であった。1955年に上椎葉の耳川に日本最初のアーチ式ダムである九州電力の上椎葉ダム(有効貯水量7600万m3,最大出力9万kW)が建設され,これを契機に周辺の道路,住宅,学校などの近代化が進んだ。村域の99.5%は山林で,木材やシイタケ,肉牛の生産が多い。
執筆者:下村 数馬
耳川の水は太平洋斜面に注ぐが,政治・文化の面では山をこえた西の熊本県側と交渉が深かった。1930年代まで焼畑にヒエ,アワ,豆類を作り,いもなどにたよる生活がいとなまれ,木材,木炭,シイタケなどの林産が多くなったのは谷底に道路が開かれた比較的新しい時期である。
住民には那須(奈須),椎葉姓が多く,平家の落武者の伝説があり,神楽や民謡の伝承されたものも多く,ことにイノシシ,シカを対象とした狩猟習俗は柳田国男の《後狩詞記(のちのかりことばのき)》(1909)に報告されて西日本の山村民俗研究の扉を開くものとなり,焼畑耕作に伴う民俗とともに稲作文化に属さない日本人の生活をあとづける上で高く評価される資料を保持してきた。しかしながら歴史的には中世末まで小土豪の内部抗争が激しかったために,江戸幕府の成立後武力討伐をうけて多くの住民が刑死または離散しているので,社会組織や信仰の面では必ずしも古い伝承がそのまま維持されてきたとは認められない。椎葉という地名の由来は明らかでないが,柳田国男は名字となっている〈ナス〉とともに,山間の特殊な地形を指す呼称ではなかったかと考えていた。
執筆者:千葉 徳爾
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
宮崎県北西部、東臼杵郡(ひがしうすきぐん)にある村。村名はこの地域が古くから椎葉山(しいばやま)とよばれたことによる。九州山地の中心部にあたり、国見岳(くにみだけ)(1739メートル)や市房山(いちふさやま)(1721メートル)などがそびえる。また、耳川(みみがわ)、一ツ瀬(ひとつせ)川もここに発する。椎葉の九州山地は壮年期山地で、河谷は急斜面の峡谷のため集落は山腹の緩斜面に点在、分布する。国道265号、327号、388号が通る。村の起源は中世の隠田(おんでん)集落といわれ、平家の落人伝説(おちゅうどでんせつ)が伝わり、源氏の那須大八郎(なすのだいはちろう)と平氏の鶴富(つるとみ)姫との哀話が残る。江戸時代は幕領であったが、人吉藩(ひとよしはん)がこれを預かった。山村のため水田はほとんどなく、林業、畑作が中心で肉用牛の生産も行われている。かつて村内に広く分布した焼畑は今日ほとんど姿を消した。耳川には上椎葉(かみしいば)、岩屋戸(いわやと)の2発電所があり、各9万、5万キロワットの出力がある。前者はアーチ式ダムで、人造湖日向(ひゅうが)椎葉湖がある。上椎葉には伝統的民家で鶴富屋敷ともよばれる那須家住宅(国指定重要文化財)があり、隣接して日本初の民俗芸能を専門的に取り上げた椎葉民俗芸能博物館がある。また、十根川(とねがわ)地区は1998年(平成10)に重要伝統的建造物群保存地区に選定された。民謡「ひえつき節」の里としても知られ、椎葉神楽(かぐら)は国指定重要無形民俗文化財である。面積537.29平方キロメートル、人口2503(2020)。
[横山淳一]
『石川恒太郎編『椎葉村史』(1960・椎葉村)』
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…棟端に〈みんのす〉と呼ばれる独得の飾りをつける。(4)椎葉の民家 宮崎県東臼杵郡椎葉村を中心とする阿蘇山の南東の山間部には,土間が狭く,3室の居室が一列に並び,前面1間通りを座敷縁とし,背面に戸棚や床の間を備えた細長い平面の民家が多い。このような平面の民家は,奈良県の十津川や静岡県の井川などにも見られる。…
※「椎葉」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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