日本大百科全書(ニッポニカ) 「集団移転」の意味・わかりやすい解説
集団移転
しゅうだんいてん
災害の発生により、居住が困難になった地域または重大な危険が予想される地域から、安全な地域へ住民を移住させること。その原因としては、地震、噴火、津波、台風、豪雨などの自然災害、疫病、大規模火災、原子力事故などがあげられる。政府による強制移転と居住者合意による任意移転がある。近隣の安全な地域へ移転させるケースが多いが、遠方地域へ移転する場合もある。
日本政府は1972年(昭和47)から、被災危険地区からの移住を促すため、住民合意を前提に、移転費を補助する防災集団移転促進事業を始めた。原則は10戸以上であるが、新潟県中越地震と東日本大震災では特例で5戸以上から適用されている。1972年の九州豪雨による熊本県龍ヶ岳(りゅうがたけ)町(現、上天草(かみあまくさ)市)の329戸の移転をはじめ、1983年の三宅島(みやけじま)噴火(移転戸数301戸)、1991年(平成3)の雲仙普賢岳(うんぜんふげんだけ)噴火(同124戸)、1993年の奥尻(おくしり)島津波(同55戸)、2000年(平成12)の有珠山(うすざん)噴火(同152戸)、2004年の新潟県中越地震(同115戸)などで集団移転を実施し、2011年までに全国35市町村の1834戸が同事業を活用して集団移転した。東日本大震災の被災地(岩手・宮城・福島県)では、2013年6月末時点で、24市町村の3万1237戸が高台などへの集団移転を計画している。しかし同時点で、用地取得は4割程度しか進んでおらず、実際に移転を希望する世帯もほぼ半数にとどまっている。日本の集団移転は任意移転のため、先祖代々の地に住み続けたいという住民を含めた地元の合意形成がむずかしいほか、原則、私有財産である自宅の建設などに公的補助がでないため、移転負担が過大になりがちという問題がある。また、南海トラフ地震に備え、静岡県沼津市内浦重須(うちうらおもす)地区が集団移転を検討しているが、災害の予防措置として集団移転した事例はこれまでにない。
[編集部]