純系またはそれに近い両親の間の交雑の第一代目(F1)からなる系統、またはそれを利用した品種をいう。雑種第一代目に著しく現れる雑種強勢を利用したり、両親の長所を組み合わせたりすることで、優れた性質を得ることができると同時に、個体どうしがよくそろった品種を得ることができる。しかし、このような利点は一代限りで、それからの第二代目以降には、たいてい雑種強勢が失われたり、遺伝的分離がおきて特性が不ぞろいになったりする。一代雑種をつくるためには、選ばれた両親系統の間で、かならず交雑を行わなければならないので、交雑の容易な繁殖構造をもつトウモロコシやニワトリなどの他殖性(他家受精)生物で広く実用化されたが、イネや飼料作物のモロコシ(ソルガム)などの交雑の困難な自殖性(自家受精)作物でも、自殖を妨げ交雑を容易に行わせる遺伝的性質を付与して、一代雑種の品種がつくられている。これらはF1品種ともよばれ、学術的には「1」を下部に小さく添える形で記述するが、一般には「F1品種」と表記されることも多い。
[井山審也]
生物で遺伝質の違う2個体の交配(かけ合せ)によってできる第1代目を雑種第1代first filial generationといい,記号をF1で示すが,一代雑種はこのF1の特別ないい方である。農業上利用価値が高いのでこのいい方が用いられている。雑種が両親よりも旺盛な生育を示す現象を雑種強勢というが,この雑種強勢は両親がかなり遠縁のとき効果が高い。また純系に近い生物間の交配でも雑種強勢が強くでる。単交配(1回だけの交配)ではF1での効果がきわだって高いので,農業面で一代雑種という採種法がよくとられている。農業に一代雑種を利用するときは大量の交配種子が必要であるが,自殖性作物では大量に他殖させるくふうが難しい。そこで,他殖性でしかも大量の交配種子のとれる動植物について,この方法がよく利用されてきた。日本ではカイコ(家蚕)について外山亀太郎が1906年に一代雑種の有利性を提唱,31年には実際の飼育の99.9%が一代雑種となった。作物でもトウモロコシの研究がアメリカで発展した。現在は多くの野菜類で一代雑種が用いられている。交配するときにはそれぞれの野菜の植物学的特性をうまく利用している。たとえばハクサイ,キャベツ,ダイコンは自家不和合性,キュウリ,スイカ,カボチャ,メロンは雌雄異花,タマネギ,ニンジンは雄性不稔を利用している。コムギ,オオムギなどの自殖性作物でも雄性不稔をうまく利用して一代雑種の実用化が図られている。
→雑種強勢
執筆者:武田 元吉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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