難民保護制度(読み)なんみんほごせいど

日本大百科全書(ニッポニカ) 「難民保護制度」の意味・わかりやすい解説

難民保護制度
なんみんほごせいど

難民の基本的人権を保障し、庇護(ひご)するための制度。日本での「難民保護」は、広くとらえれば、日本政府による国連難民高等弁務官事務所UNHCR)への資金協力や難民キャンプ(パレスチナ・ガザ地区など)に対する支援活動なども含まれるが、ここでは日本国内で難民を保護する仕組みを解説する。

[坂東雄介 2023年3月17日]

難民の受入れ

条約難民の受入れ(難民認定)

難民条約および難民議定書を日本国内で実施するために、「出入国管理及び難民認定法(入管法)」61条の2~61条の2の14では難民条約上の難民(条約難民)の認定手続を定めている。難民認定を求める者の申請に基づいて、法務大臣権限のもと、難民条約が規定する要件に該当するかどうかを審査する。審査の手引きとして、UNHCRは難民認定基準ハンドブックやガイドラインなどを公表している。

 以前の入管法には、日本に上陸後60日以内に難民申請を行わなければならないという60日ルールが設けられていた。しかし、難民条約には存在しない新たな要件を設けているのではないかという批判を受けて、2004年(平成16)にこれを撤廃した。

 また難民不認定処分に不服がある場合、申請者は法務大臣に対して審査請求を提起することができる(入管法61条の2の9)。かつては入国管理局(現、出入国在留管理庁)自身が異議申立て(2014年行政不服審査法改正により異議申立てから審査請求に変更)を審査していたが、難民認定手続の公正性・中立性を高める観点から、2004年の法改正により、難民審査参与員が第三者の立場から審査を行い、法務大臣が参与員の意見を尊重して最終的な判断を下す仕組みに改められた。

 同じく2004年の法改正では、難民認定申請中の者の法的地位の安定化を早期に図ることを目的として、難民認定申請中の者に対して仮滞在許可制度を新設するとともに、送還を一時的に停止する仕組み(送還停止効)が導入された。

 しかし、送還停止効の導入により、明らかに難民に該当しないにもかかわらず、日本に在留することを目的とした難民認定申請が急増し、難民認定業務が逼迫(ひっぱく)した。そのため、難民認定審査および不服申立て遅延・長期化が生じた。これを受けて、難民認定申請を誤用した可能性が高い者には、在留・就労制限を課す、簡易迅速な審査ですますなどの対応をとるようになった。

 2021年(令和3)には、難民申請で3回以上難民認定申請を行った者、重大な犯罪を犯した者に対して送還停止効を解除する改正法案が提出された。しかし同年3月、入管施設に収容されていたスリランカ国籍の女性が死亡した事故に対する批判が高まり、改正案は廃案になった。実はこの法案に対しても、ノン・ルフールマン原則(迫害を受ける国・地域への強制送還を禁止する原則)に重大な例外を設けることになるのではないか、難民認定制度が適切に整備されていることが前提になるのではないか、難民である可能性が高い者の申請をためらわせる要因になってしまうのではないかと、批判が寄せられていた。

[坂東雄介 2023年3月17日]

条約難民以外の難民受入れ

条約難民の対象範囲が限定されていることから、難民条約上の難民には該当しないが同様の状況にある者を保護する必要性も高い。したがって、条約難民としての難民受入れ以外の保護ルートの構築も求められている。

 たとえば、条約難民としては認定されないが人道的な観点から保護の必要性が高いと判断された場合には、在留特別許可が認められることがある(入管法61条の2の2第2項)。また、祖国から逃れて難民キャンプや一次庇護国などにいる難民を、受入れに合意した第三国が受け入れる第三国定住制度もある。日本はこの制度を2010年(平成22)から実施し、日本社会に適応する能力がある者を、その家族とともに受け入れている。これらの対応は政治的判断に基づくものであり、条約難民と同等の地位が保障されるとは限らないことが問題となっている。

 2021年(令和3)には補完的保護として「難民条約の適用を受ける難民の要件のうち迫害を受けるおそれがある理由が難民条約第1条A(2)に規定する理由であること以外の要件を満たす」者を保護する入管法の改正法案が提出された。しかし、本来の補完的保護とは各種国際人権規範が定めるノン・ルフールマン原則に該当する者を保護する仕組みであり、かならずしも「迫害」要件を必要としない。さらに、この改正法案は、一定の難民認定申請回数を超えれば送還停止効を解除し、送還可能にするなど、ノン・ルフールマン原則に重大な例外を設ける点もあわせて、UNHCRが求める制度と乖離(かいり)していると批判されていた。

[坂東雄介 2023年3月17日]

難民支援・受入れ後の生活保障

難民を国内に受け入れた後の生活保障も求められる。難民条約や国際人権規約が定める権利保障や処遇以外にも、難民が日本社会に適合するための日本語の習得や生活習慣への理解などの支援、難民が抱く疎外感の解消のための社会的なつながりも必要となる。とくに就労支援は、生計を維持するだけでなく、経済的・社会的自立の促進、社会的なつながりの形成に役だつものであり、支援の中核となる。

 難民は出身国の状況が改善すれば自主的に帰還することが望ましいが、受入れ国で新たに家族関係が形成されるなど社会的つながりが生まれ、受入れ国で定着するようになると、出身国への帰還も困難になる。あるいは難民本人が帰還を望んでいても出身国の状況が改善されず、帰還が困難な場合も想定される。そのような場合に、難民が受入れ国で定住する選択が否定されてはならない。

 日本ではインドシナ難民の受入れを契機に、難民救援施設としてアジア福祉教育財団の内部に難民事業本部(RHQ)が1979年(昭和54)に設置された。それ以外にもさまざまなボランティアによる難民支援組織があり、難民の生活保障は政府機関だけでなく民間の支援組織による貢献も大きい。

[坂東雄介 2023年3月17日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例