翻訳|snow line
氷河を涵養(かんよう)域と消耗域とに分ける線(均衡線)の長期間にわたる平均的な位置をさす。涵養域では降雪量が融雪量より多く,消耗域では融雪量が降雪量を上回る。したがって,冬の降雪によって涵養されている氷河では,氷河の表面を覆った積雪は夏になると低いほうからしだいにとけていき,夏の終りには涵養域だけが積雪に覆われ,消耗域では氷河の氷が直接露出することになる。このように積雪の下限を連ねる線を雪線とよぶこともある。とくに,夏の終りに積雪の下限すなわち氷(氷河氷)と雪(フィルン)との境が最も高くなったとき,これを年的雪線annual snowlineまたはフィルン線firn line(limit)という。均衡線は氷河の質量収支(涵養と消耗のバランス)を計算しないと決定できないが,年的雪線は肉眼で識別できるので,均衡線の近似する位置を求めるために用いられることが多い。しかし両者は必ずしも一致しない。
氷河の均衡線の位置は,氷河のまわりの地形や氷河の分布形状によって大きく変わるので,それぞれの氷河の均衡線にもとづいて決められた雪線は地形的雪線orographic snowlineとよばれる。これに対して,ある地域全体の氷河の平均的な雪線の代表値は広域的雪線regional snowlineまたは気候的雪線climatic snowlineとよばれ,いくつかの近似法が考案されている。たとえば,ある地域で氷河をもつ山の高度と,氷河をもたない山の高度との中間高度を代表値とする方法(山頂法)はその一つである。
雪線は,地球上の気候帯や植生帯,地形を区分する上で重要であり,一般に雪線の高さは,極地から赤道へ向かうほど,また湿潤地域から乾燥地域へ向かうほど高くなる。第四紀の氷期には,雪線の高さが現在よりも1000~1500mほど低くなっていたことが知られている。
執筆者:小野 有五
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氷河の涵養(かんよう)域と消耗(しょうもう)域の境界(均衡線)の長期間にわたる平均的な位置をさす。氷河の涵養域では降雪量が融雪量を上回り、消耗域では逆に融雪量が降雪量を上回る。したがって、氷河の上で降雪量と融雪量が等しい点を連ねた線が雪線であるといってもよい。これに対して、氷河のない山地でも、夏になると上昇していく積雪の下限線を雪線とよぶことがある。氷河の分布は周りの地形や方位によって影響を受けるので、雪線の位置(高さ)は氷河によって異なる。このように実際の雪線は地形の影響を強く受けているので、これを地形的雪線ということもある。一方、ある地域全体にわたる地形的雪線の平均値を広域的雪線という。広域的雪線はその地域の気候を示す手掛りになるので、これを気候的雪線とよぶこともある。雪線の高さは一般に極地方から赤道に向かって、また湿潤な地域から乾燥地域に向かって上昇する。第四紀の氷期には、雪線の高さがいまより1000~1500メートルも低下していたことが知られており、現在では雪線を越える山岳のない日本でも、氷河が発達していた。
[小野有五]
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…二つの区域を分ける線を平衡線という。平衡線は雪氷学の用語で,自然地理学では古くから雪線snow lineという用語が用いられている。ただし概念はやや異なり,空間的にも時間的にも平均化した状態の境界線という意味が強く,その位置は観測により定めるのではなく景観的に,あるいは近似法で推定する。…
…以前はフィルンのことを万年雪と呼んだこともあるが,現在ではフィルンを積雪の物理的性質を表す名称とし,万年雪はフィルンからなる越年性雪渓を指すというふうに両者を区別して用いるのがよいとされている。万年雪の下限,すなわち年間の雪の堆積量と融解などによる消耗量とが等しい点を連ねた線を雪線snow lineという。その高度は降雪量,気温などの気候因子に支配されるので気候的雪線とも呼ばれ,一般に高緯度地方ほど雪線高度は低くなる。…
…二つの区域を分ける線を平衡線という。平衡線は雪氷学の用語で,自然地理学では古くから雪線snow lineという用語が用いられている。ただし概念はやや異なり,空間的にも時間的にも平均化した状態の境界線という意味が強く,その位置は観測により定めるのではなく景観的に,あるいは近似法で推定する。…
…以前はフィルンのことを万年雪と呼んだこともあるが,現在ではフィルンを積雪の物理的性質を表す名称とし,万年雪はフィルンからなる越年性雪渓を指すというふうに両者を区別して用いるのがよいとされている。万年雪の下限,すなわち年間の雪の堆積量と融解などによる消耗量とが等しい点を連ねた線を雪線snow lineという。その高度は降雪量,気温などの気候因子に支配されるので気候的雪線とも呼ばれ,一般に高緯度地方ほど雪線高度は低くなる。…
※「雪線」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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