地形学(読み)チケイガク

デジタル大辞泉 「地形学」の意味・読み・例文・類語

ちけい‐がく【地形学】

地理学の一部門。地表形態およびその成因・発達史などを研究する。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「地形学」の意味・読み・例文・類語

ちけい‐がく【地形学】

  1. 〘 名詞 〙 自然地理学の一分野。地表の形態(地形)とその性質・作用・変化・形成過程などを研究する科学。〔五国対照兵語字書(1881)〕

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「地形学」の意味・わかりやすい解説

地形学
ちけいがく

地表の起伏形態を対象とし、その特徴、成因、発達過程などを研究する自然科学。英語のgeomorphologyは、geo(earth=土地)、morphe(form=形態)、logos(discourse=論述)のギリシア語に由来し、地表の形態に関する論説を意味する。地形は地域の構成要素であり、人間活動の環境要素の一つとして重視され、ヨーロッパでは地形学は地理学の一部門として発達した。地形は岩質や地質構造を反映することが多く、また、約200万年の短時期で、気候変化の著しかった第四紀の地史の研究には、進化の遅い生物の化石や、小事変では変化が認知しがたい地質事象よりも、段丘地形の発達が有力な資料となる。アメリカ合衆国では地形学は地質学の一部門とみなされて発達した。

[壽圓晋吾]

地形学の歴史

地形学が発達したのは、イギリスのライエルが「現在は過去の鍵(かぎ)である」とする斉一説(せいいつせつ)(同一過程説)を確立した19世紀後半以降である。アメリカではパウエルJ. W. PowellやギルバートG. K. Gilbertなどが地形学の発達に貢献し、デービス侵食輪廻(りんね)を提唱して地形学の発達を階梯(かいてい)、すなわち地形の発達段階の概念で系統的に説明した。ドイツではフンボルトリッターリヒトホーフェンに次いでA・ペンクが現れ、彼が著した『地表の形態学』(全2巻、1894刊)は地形学を地形発生論的見地から論じるものであった。また、地理学者・気候学者であったブリュックナーとともに『氷期時代のアルプス』(全3巻、1901~1909刊)を著して、新生代更新世(洪積世)に四氷期を認めた。A・ペンクの子であるW・ペンクは、地殻運動の性質を、知ることを主題とする『地形分析』(1920刊)を著し、とくに斜面地形研究の発達に寄与した。フランスではマルトンヌがデービス地形学の影響を受けながらも、地形プロセス(地形を改変する諸作用とその過程)を重視する地形学を打ち立て、動地形学géomorphologie dynamique(フランス語)や気候地形学の発達への道を開いた。

 これら歴史的な成果を引き継いだ現在の地形学では、(1)地史的な時代順に地形の発達を考察する発達史的研究、(2)河川・海岸・斜面などでみる地形プロセスを計測的・実験的に研究し、地形変化の規模や速さを定量的に把握しようとする営力的研究、(3)前記(2)の成果のうえに地形災害の防止対策や土地開発を計画する応用地形学の研究、(4)地形を統計的あるいは理論的に究明しようとする理論地形学の研究、などが行われ、気候地形学や動地形学のいっそうの発展が期待されている。

[壽圓晋吾]

『A・L・ブルーム著、榧根勇訳『地形学入門』(1970・共立出版)』『F・マハチェック著、松尾新一郎監訳『地形学』(1975・技報堂出版)』『H・ウィルヘルミー著、谷岡武雄・北野善憲訳『地形学Ⅰ・Ⅱ』(1978・地人書館)』『H・ウィルヘルミー著、谷岡武雄・北野善憲訳『気候地形学』(1979・地人書館)』『町田貞著『地形学』(1984・大明堂)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「地形学」の意味・わかりやすい解説

地形学 (ちけいがく)
geomorphology

自然地理学の一分野で,地表の形態すなわち地形を研究する学問。地形学ではおもに地形の分類,記載を行うが,一つの地形が形成される要因を考察するにあたっては,流水,氷雪,波浪などの地形に働く諸作用および地盤運動の性質を知る必要がある。その場合,ある地域内の地形を説明的に記載する分野と,一般的な法則を追求する分野とがある。前者は地形誌,地形発達史の記載および地形区分を行う場合であり,後者の場合には数量的な計測が重視される。地形学が独立した学問の形をそなえたのは19世紀末であるが,その準備時代は18世紀後半から始まっている。イギリスにはハットンJames Hutton(1726-97),プレーフェアJohn Playfair(1748-1819),C.ライエルら創始期の地質学者の書物に地形学の芽生えがみられ,ラムゼーAndrew Crombie Ramsay(1814-91),ギーキーArchibald Geikie(1835-1924)らも地形に関心をもっていた。一方,オーストリアの地質学者E.ジュースが《地相論》の大著で,大地形の系統的な記載を試みた。またドイツのF.vonリヒトホーフェンは,地質学から転じてベルリン大学の地理学教授となり,《中国》《探検旅行者の手引》の中に地形の解説をしている。リヒトホーフェンの後を継いだA.ペンクは《地表形態学》を著し,ドイツ派の地形学に基盤をおいた。少し遅れてフランスでは地質学者のラパランAlbert Cochon de Lapparent(1839-1908)と地理学者のE.deマルトンヌが,ジュースとペンクのような関係で,フランス学派の建設者となり,マルトンヌは地形学の教科書のほかに,中部ヨーロッパやフランスのすぐれた地形誌を著している。アメリカではヨーロッパとは別に地形学が発達した。ダットンClarence E.Dutton(1841-1912),パウエルJohn W.Powell(1834-1902),ギルバートGrove K.Gilbert(1843-1918)らによるロッキー山脈,コロラド高原などの地質調査から多くの資料を得てW.M.デービスが総合・集成して今日の地形学の基礎を作り上げた。デービスの半世紀にわたる活動の後を受けて,コロンビア大学のジョンソンDouglas W.Johnson(1878-1944),ストレーラーArthur Newell Strahler(1918-2002),フリントRichard Foster Flint(1902- )らが現れ,新分野の開拓に努めた。デービスの地形学説は整然とした論理をもった体系を構成し,細部の点では訂正の余地があるが,現在の地形学の骨組みを形づくっている。
地形
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「地形学」の意味・わかりやすい解説

地形学
ちけいがく
geomorphology

地表面の形態の実態をとらえ,その形成過程,形成機構などを追究する学問。 19世紀末から 20世紀初頭にかけて主として W.デービスが体系化し基礎を築いた比較的新しい学問。デービスの浸食輪廻説,A.ペンクの地表形態学や氷河地形の研究,W.ペンクの地形分析などによって発展した。日本では地理学の分科として扱われることが多いが,本来は地球科学の一分野であると考えられる。地表面の形態は地球内部の営力と山を削って平らにする風,雨その他の外力の総和であるので,その成因,形成機構を問題にするかぎり,気象学,地質学,地球物理学など地球科学の各分野と密接な関係をもっている。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「地形学」の意味・わかりやすい解説

地形学【ちけいがく】

地表の凹凸(地形)の成り立ちを研究する学問。地学または自然地理学の一分野。19世紀末―20世紀初頭にW.M.デービスの浸食輪廻(りんね)説などによって独立発展。変動地形学,浸食地形学,気候地形学,微地形学などに分類。地殻変動の激しい日本では,地形の成り立ち,現地形の変位などから過去の地殻変動の様式を推定しようとする変動地形学的な研究が盛んである。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内の地形学の言及

【地形】より

…地球表面の形態をいう。地形学geomorphology(〈土地の形態学〉の意)は,海面上の土地すなわち陸地の形を研究対象として扱ってきたが,最近は海底の地形の知識が増してきたため,これらを含めて対象とせざるをえない状況にある。月や火星,金星など固体の表面をもつ天体の地形の細部が,人工衛星の探査の結果知られるにつれて,地形学の知識により,これらについても適当な解釈が試みられるようになった。…

【自然地理学】より

…地質学と自然地理学との関係は最も密接で,地理学者の中にも火山や地質構造にもとづく地表の形態を論じた人が多い。地質学と地理学の両方にまたがる地形学は19世紀末から急に発達して,地形学が自然地理学の最も重要な部分であるとみなされた時代もある。この状態は現在でもまだ幾分かつづき,ドイツ,オーストリア,フランスの地理学界では,F.vonリヒトホーフェン,A.ペンク,E.deマルトンヌらのすぐれた学者の影響でこの傾向が強い。…

【辻村太郎】より

…地理学者。日本における地形学と景観地理学の事実上の創始者。小田原の生れ。…

※「地形学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

仕事納

〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...

仕事納の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android