日本大百科全書(ニッポニカ) 「電子ビーム加工」の意味・わかりやすい解説
電子ビーム加工
でんしびーむかこう
electron beam machining
細く絞った電子ビームを物質に当て、照射部分を局所的に加熱し、溶接・切断などの加工をすることをいう。電子ビームを物質に当てると、そのエネルギーのほとんどは熱に変換される。しかも電子レンズを使って小さく絞ることができるため、局所的に大きなパワー密度が得られ、ときには6000℃にも達する。通常は数万ボルトから15万ボルトの加速電圧の電子ビームが使われている。電子ビームを使うために、加工を行う対象物は真空中に入れる必要がある。このため作業性が悪くなるが、その反面、酸化や汚れが少ないという利点がある。
実際に使われている装置としては、電子ビーム溶接機、電子ビーム加工機、電子ビーム蒸着装置、電子線描画装置などがある。なかでも電子ビーム溶接機は高融点金属、活性金属にも利用できる精密溶接用として広く用いられている。装置は、電子銃で発生した電子ビームを細く絞る電子レンズの部分と、偏向コイルで任意の位置に偏向して被溶接物に当てる部分からなる。被溶接物は移動できる駆動テーブルの上に置かれている。これらは通常真空に排気された空間で行われるが、生産性を高めるために被溶接物を真空外に置く装置も開発されている。この場合、電子ビームは小さなオリフィス(穴)を通して大気中に取り出され、そこで溶接が行われる。電子ビーム加工機の原理は溶接機とほぼ同じである。電子ビームを当てることによって局所的に高温にして、蒸発させる。電子ビームが小さく絞れる特徴を生かして、微細な穴あけや溝切りなどに利用されている。通常数十マイクロメートル程度の穴や溝の加工が行われる。電子線描画装置は、半導体集積回路用の細かいパターンを描くために用いられる。詳細は電子線リソグラフィーの項目を参照されたい。
[外村 彰]
『日本学術振興会第132委員会編『電子・イオンビームハンドブック』第2版(1986・日刊工業新聞社)』▽『吉村長光・岡野達雄著『マイクロ・ナノ電子ビーム装置における真空技術』(2003・エヌ・ティー・エス)』