マイクロ波の性質を利用して食品を加熱する調理器具。1955年アメリカのレイセオン社で初めて商品化され、日本では61年(昭和36)東京芝浦電気(現東芝)で国産1号機がつくられた。マイクロ波は電磁波の一種で、ガラス、紙などを透過し、金属によって反射されるが、食品、水などには吸収されやすい性質をもっている。吸収された電磁波エネルギーは熱に変わり、その物質を発熱させる。電子レンジで使われている電波は、国際的に割り当てられた2450メガヘルツという高い周波数で、マグネトロンで発生させる。マグネトロンは従来レーダーや通信に用いられていた超高周波用の真空管で、加えられた高圧直流電力の60%以上をマイクロ波電力に変換できて効率が高い。マグネトロンで発生させたマイクロ波は、食品にできるだけ均一に当て、加熱むらが生じないように金属製の攪拌(かくはん)翼を設けるか、食品をのせ加熱中回転させるようにくふうされている。一般に食品はマイクロ波の吸収が多く、内部で熱に変換されるが、この現象に寄与しているのは、食品の中に60~96%含まれている水である。電子レンジは、加熱品目に応じてその出力を可変できるものがあり、弱い出力は卵料理やなま物の解凍に使われている。
人間が考え、行ってきた調理法は、食品の外部から熱を加え、熱伝導によって内部まで加熱調理する方法であった。ところが食品は一般に熱伝導が低いために、短時間で中心まで急速に加熱して調理しようとすれば、表面と中心との温度勾配(こうばい)が大きくなる。そのため、表面は過熱して組織が破壊し、焦げなどを生じて栄養分が失われる結果となる。これに反し、マイクロ波による加熱調理は、ガラス、陶磁器、プラスチックなどの電波を通しやすい容器を使って加熱すると、食品自体が内部から加熱するので、調理品目によってはほかの加熱方法より効率が高く、調理時間が短縮され、ビタミンの残存率も高くなる。また電波を通しやすい材料の容器やシートで包んだまま加熱する方法、冷凍食品の解凍、温め加熱、殺菌効果の利用なども、電子レンジの特徴を生かした利用方法といえる。
[慶野長治]
通信にも利用されるマイクロ波帯の電磁波を使って食品を加熱調理する器具。1955年アメリカのレーセオン社が商品化,日本では61年国産1号機が作られた。当初はレストラン,列車食堂などもっぱら業務用であったが,65年に家庭用が発売されて普及し始め,81年には37.4%(経済企画庁調)の普及率に達している。
マイクロ波を発生するマグネトロンとその電源と冷却装置,調理物を入れるオーブン,マイクロ波をオーブンに導く導波管,マイクロ波を乱反射させる可動の金属板,タイムスイッチなどからなる。電子レンジに利用されるマイクロ波の周波数は国際的に2450MHz(波長約12cm)が割り当てられている。1000~3000MHzのマイクロ波は空気,ガラス,陶磁器,プラスチックなどは透過し,金属では反射されるが,水には吸収されやすい。マイクロ波は食品中の水分に作用し,まず水分子を分極させて+-極を持つ電気双極子を作り出し,それを高い周波数で振動,回転させることによって分子間に摩擦熱をおこさせ,その熱を利用して食品を発熱させる。加熱速度が速い,食品だけを加熱するのでむだがない,栄養価の損失が少ない,殺菌効果が高いなどの長所がある反面,高価格,金属製容器やアルミホイルが使えない,熱効率が低い,焦げめがつかないなどの短所もある。発売初期において電波漏れが問題となり,1970年に電波漏洩技術基準が制定,実施された。
執筆者:佐々田 道子
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[加熱]
加熱の際の媒体として水を利用するのを湿熱と呼び,水を利用しない加熱を乾熱と呼ぶ。火を使用せずに加熱する新しい方法として出現したのが,マイクロ波を照射する電子レンジである。(1)乾熱 食料を直接火の上にかざす直火焼きは人類最古の加熱法であり,くし焼き,網焼きはその延長上にある。…
※「電子レンジ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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