誘電加熱
ゆうでんかねつ
交番電界中に誘電体を置き、加熱させること。誘電体に電界を加えると分極する。水のような有極性の分子では、電界を加えると電界の向きに極をそろえて整列する配向分極が生ずる。交番電界の場合は、電界の向きが絶えず変わるため分子が回転するが、周囲の分子との粘性抵抗に打ち勝つ必要から熱エネルギーを発生する。このため、交番電界のもつ電気エネルギーが熱エネルギーに変換され、誘電体物質の温度が上がり加熱される現象を誘電加熱とよぶ。誘電加熱を利用した身近なものは電子レンジで、交番電界は2450メガヘルツのマイクロ波を家庭用では400~600ワット、業務用では1~2キロワットのマグネトロンで発生している。
工業用として、木材の乾燥や接着には3~20メガヘルツ、ビニル加工には10~60メガヘルツ、ロープなどの繊維製品加工には10~40メガヘルツを用いる。木材の接着では、接着剤を塗布した木材を電極で強く挟み交番電界を加えると、接着剤が選択的に急速に加熱されて短時間で大きい強度の接着が得られるので、合板や、スキーなどのスポーツ用具、楽器などの製造に用いられる。このほかプラスチックスの加硫、塩化ビニルやポリエチレンフィルムなどの高周波ウエルダ、登山用や船舶用の合成繊維ロープの連続ヒートセッティングなど、用途は広い。短波帯を利用するこれまでの方法は、1950年代に始められたが、70年ころからマイクロ波を利用したものが現れている。これには5~100キロワットのマイクロ波を利用して、菓子類の防黴(かび)、米菓の膨化、冷凍肉の解凍用のベルトコンベヤー式装置などがあり、ゴムの連続加硫、農産物中の殺虫、塗料の乾燥などへの応用も試みられている。
誘電加熱は誘電体物質が均一な場合は加熱も均一に行いやすく、内部でも温度上昇は速い。また、内部にある電気エネルギーを吸収しやすい誘電体だけを急速に加熱することもでき、加熱の制御が比較的に簡単で、加熱効率は高い。欠点としては設備費が高く、材質や形状によっては均一加熱が困難なことがあげられる。
[岩田倫典]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
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誘電加熱 (ゆうでんかねつ)
dielectric heating
誘電損失を利用した高周波加熱方式。高周波電場中に電気の絶縁物(誘電体)を置くと,誘電物質を構成する電気双極子が回転運動を起こし相互の摩擦によって内部発熱する。これを誘電損失という。熱源となる電源の周波数として1MHz以下も使用されるが,おおよそ1~数百MHz帯の特定の周波数および2450MHzが日本では多用され,アメリカでは915MHzも,また一般にさらに高い周波数も利用される。通信分野で2000MHz以上をマイクロ波と呼ぶところから,2450MHzなどの場合はマイクロ波加熱ともいわれ発振管マグネトロンからの放射が利用され,家庭の台所用に普及している電子レンジがこれに相当する。誘電加熱は,木材乾燥,ベニヤ板の接着,ビニル布の縫着(高周波ミシン),プラスチック材の接着(高周波ウェルダー),薬品・電気機器の乾燥,食品の加温・乾燥・殺菌など多方面に利用される。電源は真空管あるいは半導体の高周波電力発振器,電源につながれたふつう平板状あるいは格子状などの両電極間に被熱物が置かれる。電極の構造および形状,被熱物の形状,その電気的・熱的性質上の内部構造などを利用して,均一加熱も不均一加熱も可能となる。人間の手などが電場にさらされぬよう取扱上注意を要する。
執筆者:市川 真人
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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誘電加熱
ゆうでんかねつ
dielectric heating
電気を通しにくい物体 (すなわち絶縁体) を強い高周波電界の中に置いて,誘電損失による発熱を利用して物体を加熱する工業的方法。加熱速度が速い利点がある。加熱が物体の内部から起るので,均一に加熱する必要のあるもの,たとえば木材や合板の接着加工の乾燥,プラスチックの成形などに,広く用いられている。この技術を応用したものの一つに,電子レンジがある。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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誘電加熱(高分子の)
ユウデンカネツコウブンシノ
dielectric heating
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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世界大百科事典(旧版)内の誘電加熱の言及
【電気加熱】より
…(3)交流の電磁誘導によって生ずる被熱導体中の渦電流損(ヒステリシス損も)による発熱を利用する[誘導加熱]。(4)高周波電界中に置かれた被熱誘導体(電気の絶縁物)中の誘電損に基づく発熱による[誘電加熱]。(5)赤外線放射による[赤外線加熱]。…
【誘電損失】より
…誘電正接は複素誘電率ε=ε′+iε″の虚部と実部の比(ε″/ε′)に等しい。 誘電損失は,電力損,音響回路における音のひずみなどのデメリットがあるが,一方,高周波電場を加えて,誘電体の内部から発熱させて加熱([誘電加熱])するのに応用される。結晶育成の目的で原料を融解させるための加熱,家庭の電子レンジなどがその例である。…
※「誘電加熱」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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