電子線と光を用いた2段階の結像法。電子線で物体のホログラム(物体波と参照波との干渉縞(じま))をつくり、ついでホログラムフィルムにレーザー光をあてて、電子の波面を光の波面で再現する。10万ボルトの電子線の波長は、光の波長の10万の1と短いので、電子の波面の様子が10万倍に拡大されて立体的に再現されることになる。レンズも使わずに像が結ばれるのは不思議だが、干渉と回折という波の基本的な性質を利用して結像が行われている。このため、電子線にも光にも波面のそろった干渉性のよい波が必要になる。最近では、計算機を用いて像再生が行われることが多い。
電子線ホログラフィーによって、電子線の像がそっくり光に置き換わるため、光の画像処理技術を用いて電子顕微鏡のなかではできなかったさまざまな機能を実現することができる。1948年にD・ガボールがホログラフィーを考案した目的は、電子顕微鏡のレンズの収差を光学再生段階で光学的に補正し、電子顕微鏡の分解能の壁を破ることにあった。ガボールが考案した当時には、波面のそろった波は、電子線にも光にも存在しなかったため、ホログラフィーの有用性は世に認められなかったが、1960年にレーザー光が発明されるや、立体観察などの目的で光ホログラフィーが発展した。電子線ホログラフィーも事情は同じである。1969年に干渉性の高い電界放出電子線の出現によってホログラフィーならではの応用が開け始めた。
高い倍率で像を観察すると、対物レンズの球面収差の影響が現われる。レンズ収差がない場合には、物体の一点からどの方向に発した電子線も像の一点に結ばれる。球面収差があると、大きな散乱角の電子線はレンズの周辺部を通り、ずれた位置に到着するため、正しい像を与えないことになる。ホログラム再生時に光学的に、あるいは計算機を用いて球面収差の補正を行うとすべての電子線が本来の位置にくるようになり、物体を正しく表す像が得られるようになる。
電子線ホログラフィーの応用は高分解能観察にとどまらず、電子線の位相を観察する干渉顕微鏡で新しい展開をみせつつある。ホログラフィーならではの手法を用いると、100分の1波長に至る位相変化をとらえることができる。この手法によって、電子顕微鏡写真の上に、厚さ分布、磁力線の分布、電界分布などが定量的に描けるようになった。強磁性体粒子の観察例を に示す。電子顕微鏡写真(再生像)では粒子の輪郭しか見えないが、干渉顕微鏡像にすると、内部に干渉縞が現れる。三角形の三辺に沿って見られる密な干渉縞は厚さの等高線であり、内部の干渉縞は磁力線を直接示している。この磁力線は定量的で隣り合う縞の間には、一定の微小磁束h/e=4×10-15Wbが流れている。最近は、半導体の局所的な電場の観察にも関心が集まっている。
[外村 彰]
『外村彰著『電子波で見る世界――電子線ホログラフィー』(1985・丸善)』▽『外村彰著『電子線ホログラフィー――ミクロの情報をつかむ新技術』(1985・オーム社)』▽『外村彰著『量子力学を見る――電子線ホログラフィーの挑戦』(1995・岩波書店)』▽『大津元一・荒川泰彦編『量子工学ハンドブック』(1999・朝倉書店)』
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