電気計測(読み)でんきけいそく(その他表記)electrical measurement

日本大百科全書(ニッポニカ) 「電気計測」の意味・わかりやすい解説

電気計測
でんきけいそく
electrical measurement

電気の諸量(電圧、電流、抵抗など)を測定する技術の総称で、電気測定ともよばれる。これに用いられる道具が電気計測器あるいは測定器である。

電気計測の発展

科学の発展は測定の進歩と切り離して考えることはできない。科学理論は測定によって確認されるまで無条件で受け入れられることはない。測定は科学的方法と知識の本質的な部分として欠くことのできないものなのである。物理科学の発展のなかで、電気の法則の発見のほとんどは18世紀の後半から約100年の間に集中しており、電気諸量の検出および測定の方法の発明とその進歩とに密接に関連している。この期間、この研究に携わっていた人々の多くは物理学者であり、その名前は電気や他の物理量の単位として用いられている。今日使用されている電気計測器の多くは、感度の高い計測器や信頼ある電源などない不利な条件下にあった当時の研究者たちによって考え出されたものと本質的に同じであるといってよい。19世紀の後半には多くの計測器とその使用法が発明された。一例をあげれば、検流計、熱電対型と整流型計器、可動鉄片型計器、電流力計型計器などの原型が現れ、ブリッジ、電位差計および他の零位法による測定法が考え出されていた。20世紀に入るとこれらの計測器は改良され、市販されて広く普及していった。この発展は信頼できる電源が利用可能となったことと密接な関連があるが、それによって多くの人々が電気諸量の測定をすることができるようになり、電気に関する新しい応用も発達していった。このような開発・研究の結果を広め比較するために、電気計測における共通の基盤が世界的に必要となり、電気単位および標準を確立するための国際協力が行われるようになってきた。20世紀中葉に始まった真空管からトランジスタの発明に至る電子回路技術の発展と回路部品および材料の改良・進歩とが相まって、電気計測器は急速に発展し、アナログ量のデジタル計測法が登場するに至った。さらに半導体技術の発達により、集積回路が広く利用されるようになった結果、デジタル計測技術はますます進歩し、電気計測器は小型化あるいは精密化へ向かった。マイクロコンピュータと組み合わされて、電気諸量の自動計測も行われるようになった。一方、極低温技術の進歩と量子力学に基づく基礎物理定数の電気計測への適用、たとえばジョセフソン効果による電圧の高精度測定や量子化ホール抵抗による抵抗標準の決定などにより電気計測の高精度化が推進された。

[山崎修快・井上正博]

電圧の測定

直流電圧の標準は、1900年代前半からほぼ一定の直流電圧を発生する標準電池が国際的に用いられてきたが、1900年代後半になり発見されたジョセフソン効果、すなわちジョセフソン素子の出力電圧がそれに照射されたマイクロ波周波数に比例する(その比例定数は二つの基礎物理定数、プランク定数と電荷素量の2倍との比である)ことを利用したジョセフソン電圧標準が実用化され、90年1月1日より世界的に直流電圧標準はこのジョセフソン電圧標準に基づいて維持供給されることになった。また、実用標準としては、温度係数が大きく、振動衝撃に弱いなど取り扱いがむずかしい標準電池に比べ、非常に取り扱いやすいツェナーダイオードを利用した電子式の電圧標準器が1980年代から広まり始め、用いられている。

 直流電圧の精密測定は、この電子式電圧標準器を基準とし、一定電流が流れているあらかじめ目盛りづけされた抵抗における電圧降下と未知電圧を比較する機能をもっている電位差計、あるいはさらに安定に精密な測定が可能な電流比較型の電位差計を用いた零位法によるのがもっとも基本的である。この方法は、標準電池の起電力(約1ボルト)付近の電圧以下しか測定できないが、それ以上の直流電圧を測定するためには、さらに抵抗を直列接続し、その比を利用した抵抗分圧器を併用して行っている。

 直流電圧計にはアナログ型(指針型)とデジタル型とがあり、前者は2.5級から0.2級まで5階級に分かれている。アナログ電圧計は一般に可動コイル型であって、その指針を駆動するため若干の電流が流れる。そのためトランジスタや演算増幅器を用いた電子回路によって電圧計に流れる電流をきわめて小さくし、電圧表示に指針型計器を用いた電子電圧計も用いられている。この電圧計はミリボルト以下の微小な電圧を測定するのに有用である。

 アナログ‐デジタル変換技術の向上に伴って登場したデジタル電圧計は、配電盤用の低精度のものから、マイクロボルトの分解能力をもつきわめて高精度のものまで広く利用されている。デジタル電圧計は未知電圧を数字で直読できる便利さに加えて、そのデジタル出力信号とコンピュータの利用により、単なる電圧の測定のみならず、計測の自動化、あるいはインテリジェント化にも用いられている。

 交流電圧の標準は、直流電圧を基準にして、熱電対により交流と直流を比較することで決定されている。

 交流電圧の測定は、一般に交流電圧計を用いて行うが、熱電対あるいは熱型半導体を用いた電圧交直比較器を用いることにより、高精度な測定が可能となる。また、アナログ電圧計には電流力計型、可動鉄片型、誘導型などがあるが、一般的には可動鉄片型が用いられている。高電圧測定用として二つの電極間の反発あるいは吸引力を利用した交直流両用の静電型電圧計なども用いられている。また電子回路や増幅器を用いた電子電圧計が直流電圧の場合と同様に交流微小電圧の測定に利用されている。

 交流デジタル電圧計は、交流入力を電子回路などによって直流電圧に変換して、直流デジタル計器に印加する方式をとっているのが一般的であるが、これには平均値指示型と実効値指示型とがある。交流入力を真空熱電対などによって直流に変換してから、基準直流電圧と突き合わせることによって、交流電圧を精密に測定しようとする交流差動電圧計といわれているもの、また、熱電型半導体を使用し、真空熱電対と同様に交流入力を直流に変換してからデジタル電圧計により交流電圧の測定を行う交流電圧測定器もある。

 交流電位差計は、原理的には直流電位差計と同じで、未知電圧と標準電圧を比較測定するものであるが、後者に比べて精度ははるかに劣るため、精密測定用としてではなく、測定回路から消費電力をとらずに測定できるという利点を生かして利用されている。

 交流高電圧を測定するには、一般に計器用変圧器によって普通の電圧に変えて測定し、その結果に変圧比を乗じて求める方法が用いられている。

[山崎修快・井上正博]

電流の測定

電流の単位アンペアは、国際単位系(SI単位)のなかで、長さ(メートル)、質量(キログラム)、時間(秒)などとともに七つの基本単位の一つである。しかし、その定義は「真空中に1メートルの間隔で平行に置かれた無限に小さい円形断面積を有する無限に長い2本の直線状導体のそれぞれを流れ、これらの導体の長さ1メートルごとに2×10-7(1000万分の2)ニュートンの力を及ぼし合う一定の電流」(日本規格協会刊『国際単位系(SI)日本語版』)であって、具体的に実現することは不可能に近い。そこで、電流天秤(てんびん)(これは、大きさが正確にわかっている固定コイルと可動コイルに電流を流し、それらの間に働く力と既知の質量に働く重力とを平衡させることによって、その大きさを求めるものである)による電流の絶対測定が行われたが、100万分の1(1ppm)程度の精度を得ることはたいへん困難であった。また、陽子の磁気モーメントと角運動量の比で磁気回転比γpを測定すれば電流単位の間接的決定が可能になることから、その精密測定の研究が進められ、電流単位の精度は電流天秤によるより著しく改善されている。しかし、実際の電流の精密測定はこのような方法によらず、もっと簡便に、未知電流を標準抵抗器あるいは分流器に流し、その両端の電圧降下を電位差計あるいはデジタル電圧計などによって測定し、オームの法則に基づいて計算によって求めている。また一般的な測定には、可動コイル型電流計が用いられている。交流電流の場合は、交流用分流器と交流差動電圧計を利用する方法や、簡単には電流力計型、可動鉄片型などの指示計器あるいは交流用のデジタル電流計が用いられている。

 デジタル電流計は原理的にはデジタル電圧計の入力部に電流‐電圧変換回路が付属され、電流で読み取るようになっているものである。

[山崎修快・井上正博]

電力の測定

電力の定義は、直流の場合は負荷の電圧とそれを流れる電流の積であるが、交流の場合はそれぞれの瞬時値が絶えず変化するため、一周期の平均電力となっている。

 直流電力の測定は、負荷の電圧と電流を測定し、乗算するか、負荷電圧の2乗を負荷抵抗で除算するか、あるいは負荷電流の2乗に負荷抵抗を乗じて求めることができるが、電流力計型のような乗算機能をもつ計器によって行うのが一般的である。

 交流電力を測定するための乗算機能をもつ計器としては、電流力計型のほかに誘導型のものがあるが、前者は精密測定用、後者は一般用である。

 電力測定用の乗算機能をもつ電子回路としては、(1)和差2乗差方式(二つの信号の和と差をそれぞれ2乗し、それらの差が二つの信号の積に比例)、(2)対数乗算方式(二つの信号の対数の和が二つの信号の積の対数に等しい)、(3)時分割変調方式(一つの信号の瞬時値を時間幅に変換し、それによって他の信号を変調することによって二つの信号の積を得る)、(4)デジタル乗算方式(二つの信号の瞬時値をデジタル変換し、コンピュータで乗算処理する)などがおもなものであるが、(3)および(4)の方法が電力の精密測定法としてもっともよく用いられ、デジタル電力計にも応用されている。

 その他の電力測定法として著名なものに、三つの電圧計を三角形に接続して行う「三電圧計法」、また三つの電流計をT字形に接続する「三電流計法」などがあるが、これらは、二つのベクトルおよびそれらの和のベクトルの絶対値を測って二つのベクトルのスカラー積を求めることができるという原理に基づいている。

 電力測定に関連して、無効電力(電圧と電流それぞれの実効値およびそれらの位相差の正弦との積)、力率(電力の2乗と無効電力の2乗の和の平方根で電力を除した値)、皮相電力(電圧および電流の実効値の積)などの測定も重要であり、そのための測定器が開発されている。

[山崎修快・井上正博]

抵抗の測定

直流抵抗の標準は、1960年代に実用化されたランパードの定理に基づくクロスキャパシタといわれる計算可能なコンデンサーを標準とし、直角相ブリッジによって実現された値が用いられてきたが、1980年に発見された量子ホール効果に基づいた量子ホール抵抗標準、すなわち極低温、強磁場下で電流を流すと、そのホール抵抗値はプランクの定数と電荷素量の2乗の基礎定数比にのみ依存することを利用した量子化ホール抵抗が実用化され、1990年1月1日より世界的に直流抵抗の標準はこの量子ホール抵抗標準により維持供給されることになった。また、実用標準としてこの抵抗標準を現示し維持しているのは、1オームの安定な標準抵抗器である。ミリオームからメガオームに至る抵抗標準のスケールは、公称値の等しい10個の抵抗を並列接続した場合と直列接続した場合のそれぞれの合成抵抗の公称値からの偏差が相等しいという性質を利用した積み重ね抵抗器(ヘイモン・デバイスともいう)と電流比較型ブリッジあるいはケルビン(ダブル)ブリッジを用いてきわめて正確に組み立てられている。

 抵抗の精密測定は標準抵抗器との比較測定であって、低抵抗の場合一般に4端子抵抗として扱うのでケルビンブリッジあるいはさらに精密に測定する装置として電流比較型の抵抗測定用ブリッジが用いられる。中・高抵抗の場合は、2端子抵抗測定となり、ホイートストンブリッジを用いて行うのが普通である。またきわめて安定な電流源が得られる場合には、標準抵抗と未知抵抗を直列接続して、それらの電圧降下を精密電位差計あるいはデジタル電圧計によって測定・比較する方法もある(電位差計法あるいはポテンショメトリック法という)。

 もっとも簡単な抵抗測定法は、未知抵抗に流れる電流とその電圧降下を、電流計および電圧計によって測定し、オームの法則に基づいて計算し求める方法である。この方法は、未知抵抗および標準抵抗よりもきわめて大きい入力抵抗をもつ電圧計(電子電圧計、デジタル電圧計)が用いられた場合、ポテンショメトリック法と類似の方式となり、帰還型増幅器を有する電子オーム計あるいはデジタル抵抗計として具現されている。

[山崎修快・井上正博]

インピーダンスの測定

静電容量の標準は計算可能なコンデンサーであるクロスキャパシタによって決定され、溶融水晶コンデンサーによって維持されてきたが、1990年以降、世界的に量子ホール抵抗標準から直角相ブリッジにより実現された値を用いるようになり、安定な標準コンデンサーにより維持されている。また、インダクタンスの標準はこのコンデンサーを基準とし、マクスウェルブリッジなどの交流ブリッジを用いて決定されている。

 静電容量やインダクタンスの測定は一般に1キロヘルツで行われているが、場合によってはそれ以外の周波数、たとえば電源周波数、400ヘルツ、1592ヘルツあるいは自動測定装置などでは1メガヘルツでの測定も行われている。

 インピーダンスの測定器には、(1)抵抗を比例辺とし、標準と比較する交流ブリッジ(精密測定から簡易な測定にまで利用されている)、(2)正確な比が自由に得られるため精密測定用に用いられている変成器ブリッジ、また測定操作が容易な自動測定装置(デジタル型)などがおもなものであるが、高電圧用にはシェーリングブリッジ、あるいは大容量コンデンサー用にカレントコンパレータ型ブリッジなども用いられている。

[山崎修快・井上正博]

電気標準のトレーサビリティ

トレーサビリティtraceabilityとは、JIS(ジス)(日本工業規格)の計測用語(2000年版)によれば「不確かさがすべて表記された切れ目のない比較の連鎖によって、決められた基準に結びつけられ得る測定結果又は標準の値の性質。基準は通常、国家標準又は国際標準である」と定義されている。「不確かさuncertainty」とは、従来から使用されてきた「誤差error」あるいは「精度accuracy」にかわり使われはじめている考え方である。JISの計測用語によると、「誤差」が「測定値から真の値を引いた値」、「精度」が「測定結果の正確さと精密さを含めた、測定量の真の値との一致の度合い」と説明されているのに対し、「不確かさ」は「合理的に測定量に結びつけられ得る値のばらつきを特徴づけるパラメータ。これは測定結果に付記される」とある。「計測器の不確かさが小さい」という場合、その計測器により測定された値がより真の値に近く、より正確であることを意味する。日本における電気の国家標準は、産業技術総合研究所計量標準総合センターにおいて、電圧(ボルト)、抵抗(オーム)および静電容量(ファラド)などに関して確立・維持が図られており、国際的にも協調がとられている。国家標準はきわめて小さい不確かさで確立されているが、限られた範囲の標準であるため、公的機関として日本電気計器検定所(JEMIC)がその範囲を拡張して電気標準を産業界に供給してきた。日本では、1993年(平成5)11月1日に施行された新計量法により、計量法計量標準供給制度(計量法校正事業者認定制度=JCSSともいい、計量器の校正または標準物質の値付けの事業を行うものに対して、ある特定の校正分野における業務遂行能力を認定する任意の制度)が制定され、世界で初めてトレーサビリティが法律に取り入れられた。この制度により、製品評価技術基盤機構(NITE)の理事長が認定した校正事業者が発行するJCSSの標章が付された校正証明書は、校正を受けた計量器または標準物質が国家標準にトレーサブルであることを証明するものとなる。トレーサブルであることとは、トレーサビリティが確保されることであり、計測器が標準器により校正され、その標準器がさらにより正確な標準器により校正されというように、次々と校正するために使用されたより正確な標準器をたどっていくと、国家標準あるいは国際標準にまでたどれることである。

 企業においては、一般的に品質管理部門のなかの標準試験室が標準供給を行っている。したがって、どのような電気計測器でも、それがどこで、どのように校正されたかを、次々と上位の標準あるいは計測器をたどることによって、ついには国家標準にたどり着くことが可能であり、ひいては国際的にも所与の精度で正しいことが確認されることになる。そこで、正しい電気計測の第一歩は、使用している計測器の測定結果に対するトレーサビリティが確立されているか否かを認識することであるといえる。

[山崎修快・井上正博]

『電子情報通信学会編、菅野允著『電磁気計測』改訂版(1991・コロナ社)』『独立行政法人産業技術総合研究所計量標準総合センター編・刊『計量標準100周年記念誌』(2003)』

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改訂新版 世界大百科事典 「電気計測」の意味・わかりやすい解説

電気計測 (でんきけいそく)
electrical measurements
electrical instrumentation

電気の諸量の測定および他の測定量を電気の量に変換して行う測定を,総称して電気計測または電気測定という。通常磁気は電気の一部と考えるので電気磁気測定と同一内容である。とくに電気以外の測定量を電気の量に変換して行う分野を電気応用計測と呼ぶ。一方,エレクトロニクスに関連した測定,エレクトロニクスを導入した測定の進歩は著しい。半導体,IC,LSIなどの測定,計測器の電子化,半導体センサーの利用,ディジタル計測,コンピューターの導入,高い周波数領域,すなわち高周波,マイクロ波,ミリ波,レーザーなどの新しい測定を電子計測と呼ぶ。電気応用計測も電子技術の導入により,電子応用計測,工業電子計測などとも呼ばれる。また周波数に注目し高周波,マイクロ波,ミリ波の測定を高周波計測と呼ぶことが多い。

 電気計測の特徴としては,(1)半導体素子,ICの導入により,増幅,演算,伝送が容易で迅速な測定が可能,(2)微小量の測定,対象への影響の少ない精密測定が可能,(3)コンピューター,マイクロコンピューターの組込みにより測定後のデータ処理が容易となり,多機能な測定が可能,(4)電気的変換器,とくに半導体センサーの導入により,広汎な測定が可能,(5)多様なディスプレー装置の利用が可能などで,技術進歩が急速である。測定の対象となるものは,(1)電圧,電流,電力など,(2)抵抗,容量,インダクタンスなど,(3)周波数,時間などがおもなものであり,測定方法としては電位差計,ブリッジなどを用いる零位法と指示計器を用いる偏位法に分けられる。前者は精密な方法で検出器が零を指示するよう,手動または自動の平衡操作が必要である。後者は偏位全体を検出する方式で,精度は前者より劣るが,簡便,迅速な方法である。また測定器は原理と用途により,指示計器,平衡計器,記録計器,積算計器,システム計測器などの呼び方があり,また指示の方法によってアナログ計測器,ディジタル計測器の分類がある。目標とする精度,量とレベル,周波数などを考慮して適当な測定方法と測定器を選ぶ。精密な場合には標準との置換法,系統誤差を少なくする測定手続,偶然誤差の評価の可能な方法をとる。また温度,湿度などの環境の制御,雑音防止のためのガードとシールドの適切な使用も重要な問題である。

電気単位は基本単位の一つである電流の単位アンペア(A)を基として組み立てられ,絶対測定を通して抵抗(Ω),電圧(V),容量(C)などの電気標準器に値づけされる。通常,国家標準を基とし,校正を通じて現場の計測器までつながっていることが必要である。このことをトレーサビリティの確保という。

測定結果の表示には最確値として平均値x,偶然誤差として平均値の標準偏差の推定値σxをとる。系統誤差は要因iごとに誤差の限界εiを推定し,絶対値の和Σ|εi|をとる。両者を合わせて精度を表示する方法として直接和Σ|εi|+3σx,またはrss(root sum squareの略)をとる。

簡易な測定器としては指示電気計器があり,電圧計,電流計,電力計が用いられる。原理,精度によって分類されている。微小電圧,電流の測定には,直流および交流の増幅器が用いられる。時間的変化の測定には直動記録計,自動平衡記録計,ペン書きオシログラフ,電磁オシログラフが用いられる。10kHzを超えた測定にはブラウン管オシロスコープが用いられる。電流,電圧の精密測定には電流比較器,電位差計が用いられる。標準電圧発生器も検出器と併用し電位差計の代りに使用される。高電圧測定には二つの球の間の放電を利用する球ギャップ法,高圧コンデンサーを流れる電流を測定する方法がある。単相電力の測定には三電圧計法,三電流計法,三相電力の測定にはブロンデルの定理を応用した二電力計法が用いられる。

抵抗の簡易測定にはテスター,抵抗計が用いられ,また電圧計と電流計を用いて電圧/電流の比として抵抗を求める方法がある。精密測定法としては,電位差計による二つの抵抗比較で,ホイートストンブリッジ,ケルビンダブルブリッジ,電流比較形ブリッジが用いられる。ホイートストンブリッジは図1に示すように4個の抵抗からなり,検出器Gが0を指示するようにAを調節すれば未知抵抗Xは,

 X=\(\frac{SA}{B}\)

として求められる。4端子抵抗の測定にはケルビンダブルブリッジ,電流比較形ブリッジが適する。高抵抗,絶縁抵抗測定にはガードの使用が必須である。簡易なものとして,メガー(絶縁抵抗計),定電圧電源と微小電流計の組合せによる超絶縁抵抗計,精密な方法としてガードつきホイートストンブリッジ,抵抗と容量から求める一種の絶対測定法がある。材料の体積抵抗率,表面抵抗率の測定にはガードリングを利用,物体内部と表面を流れる電流を分離して測定する。液体抵抗,接地抵抗の測定には交流ホイートストンブリッジ,または電圧電流計法を用いる。容量の簡易測定には一定電圧を加えた場合の電流計の目盛を容量単位で表示した容量計が用いられる。精密測定には4辺ブリッジである万能ブリッジ,シェリングブリッジ,4辺ブリッジの2辺を変成器で置き換えた変成器ブリッジなどが用いられる。万能ブリッジは三つの抵抗辺と標準コンデンサーからなり,構成を切り換えることにより図2に示すように抵抗,容量,インダクタンスの測定が可能で,1000Hz,0.1%の精度が得られ,広く使われる。変成器ブリッジは図3に示すような回路構成で平衡条件は,となり,抵抗の比は巻数の比,容量の比は巻数の逆比となる。抵抗,容量を可変とするか,巻数を可変として平衡をとる。小容量の測定に適し,3端子コンデンサーのガードに対する容量は図3の点線のように入り,その影響は除かれる。一方,シェリングブリッジは抵抗と容量からなるブリッジで高圧コンデンサーの測定に使用される。

時間,周波数はもっとも精度よく測定できる量である。商用周波では,振動片形周波計,一定電圧を印加した容量を流れる電流が周波数に比例することを利用した電子式の周波計が簡易測定に用いられる。精密測定にもっとも便利なものとしてユニバーサルカウンターがある。水晶発振器の周波数を分周し,正確な時間間隔を作り,これによってゲートを開き,被測定周波数のパルスを計数することにより,周波数を測定することができる。また時間間隔,または周期に対応する二つのパルスによってゲートを開き,ここに入る水晶発振器のパルスを計数することにより,時間間隔および周期を測定する。

発振器,信号発生器の出力,増幅器の増幅率,半導体素子の電圧-電流特性,ICの性能判定など多くの測定を必要とする。校正を行った指示電気計器,電子電圧計,カウンター,オシロスコープ,半導体特性測定器などを用いて測定する。ICの性能判定にはコンピューターを内蔵した自動測定のできるICテスターが用いられる。自動挿入,自動選別も可能となっている。

もっとも注目される分野で進歩の著しい分野である。ディジタル計測の特徴としては,(1)数字表示のため読取りの容易さと個人誤差の除去,(2)高精度の測定が可能,(3)測定の省力化,自動化の点で有利,(4)ディジタル記録,コンピューターへの入力など情報処理の容易さ,(5)マイクロプロセサーの導入による高機能化,(6)GP-IBなどによるシステム化の容易さなどである。代表的なディジタル計測器としては,(1)エレクトロニックカウンター,(2)ディジタルボルトメーター,ディジタルマルチメーター,(3)電圧出力の変換器を前置したディジタル温度計,ディジタル圧力計など,(4)マイクロプロセサーを内蔵したスマート計測器,インテリジェント計測器,(5)システム計測器がある。ディジタル電圧計はもっとも基本的なもので,各種の原理のものがあるが,代表的なものとしてデュアルスロープ形がある。図4に示すように積分器を用い,電圧E1を一定時間T1積分し,次いで逆方向の標準電圧E2を入力に加えて積分器のコンデンサーの電荷を放電する。放電の時間間隔T2は入力に比例するので,カウンターで測定しディジタル表示させる方式である。ディジタルマルチメーターは電圧のほか,電流,抵抗,交流電圧などの測定のできるものである。ディジタル計測器にマイクロプロセサーを導入,演算,制御の機能を追加,自己校正,零点補正,平均値,標準偏差の算出などの可能なものがインテリジェント計測器,スマート計測器と呼ばれる。マイクロコンピューター,またはミニコンピューターと連動し,多点,多量のディジタル測定を行う専用機をシステム計測器という。また計測器とパーソナルコンピューターを集め,フレキシブルな計測システムを組むことのできるものとしてGP-IB(general purpose interface busの略)がある。計測器およびコンピューターにGP-IBインターフェースを組み込み,特定のケーブルで接続することにより測定を行う。ケーブルおよびコネクターの規格,インターフェースの電気的仕様,コントローラー,トーカー,リスナーの指定,データフォーマット,信号線の規格などを国際的に統一したものである。図5はその一例で,コンピューターがコントロールの役割を果たし,ディジタルボルトメーターおよびカウンターで測定,その演算をコンピューターで行い,プロッターに出力させるものである。ディジタル計測器は電子部品,とくにICの低価格化に伴い,年とともに価格が安くなっており,今後ますます普及するものと思われる。

磁気測定の対象となるものは,磁界,磁束密度,磁束などの測定,ヒステリシス,透磁率,鉄損などの磁性材料の測定である。磁束計とガウスメーターが常用計測器で,磁束密度の高精度測定にはプロトン(陽子)の磁気回転比を利用するプロトン磁力計が用いられる。

直流,低周波の延長として,集中定数で考えられる高周波領域(30MHz程度まで)での代表的な測定器としては,電流,電圧,電力に対し熱電形電流計,電子電圧計,ボロメーター電力計がある。インピーダンスの精密測定には抵抗と容量よりなるシンクレアブリッジ,高周波シェリングブリッジ,簡易測定にはQメーターが用いられる。Qメーターによりコイルの抵抗,リアクタンスとQ,コンデンサーの容量と並列抵抗が求められる。分布定数および立体回路を用いる300MHz以上の周波数範囲では電力,反射係数が測定の対象となる。電力の測定方式としては熱に変換,直流で置換する方式が多い。反射係数測定にはアドミタンスメーター,レフレクトメーター,ネットワークアナライザーなどが用いられる。このほか,電磁界強度,伝送量,雑音などの測定も問題となる。

非電気的量を電気の量に変換して測定することが多く行われる。変換の方式としては,(1)電圧,電流,(2)抵抗,容量インダクタンス,(3)時間,周波数への変換が便利である。変換の原理としては各種の物理効果を利用する。大別すると幾何学的構造によって特性の変化する構造形,金属,合金,半導体の周囲の環境変化を利用する物性形,原子分子内の現象を利用する量子効果形に分類される。構造形の代表的なものは容量変換器で,変位,長さを容量変化に変換するものである。物性形は,各種測温抵抗素子,熱電対,歪計などがこれに相当する。半導体を用いるものは信号の変化が大きく動特性,短期測定に適する。金属,合金を使用する場合は,信頼性が高く,長期の使用に耐えるが,信号の変化は小さい。レーザー,ジョセフソン効果,核磁気共鳴の利用は量子効果形と呼ばれる。精密測定,ディジタル測定に適する。変換器は単独のみでなく2個を直列に接続して用いる場合もある。変位を光の変位にかえ光電素子で電気の量に変換する方式が一例である。変換後の信号の増幅,表示などは規格化されているのでどのような変換器を選ぶかが応用計測のかぎとなる。ディジタル計測にはアナログ変換器とA-D変換器またはディジタルボルトメーターを併用する。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「電気計測」の意味・わかりやすい解説

電気計測
でんきけいそく
electrical measuring

電流,電圧,電力などの電気的な諸量をはかる方法,測定器,および測定結果の処理に関する技術をいう。圧力,距離,温度など電気的量以外の物理量を電気を応用して計測する方法 (電気応用計測という) をも含む。電気計測器に必要な条件は,信頼度が高い,応答が速い,必要な感度を有している,堅牢で耐久性がある,などである。測定方法には,被測定量を変換器を通し指針の振れなどに直して読取る偏位法 (指示電気計器) ,既知の大きさに調整できる基準量と測定量を平衡させて比較する零位法 (ホイートストン・ブリッジなど) ,測定量から一定の量を引去り,残りの部分を測定する補償法 (偏読型電位差計など) などがある (→測定の方法 ) 。

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