日本大百科全書(ニッポニカ) 「電気麻酔」の意味・わかりやすい解説
電気麻酔
でんきますい
前頭部と後頭部とに電極を当てて、頭部に通電することによって全身麻酔を得る方法である。麻酔効果は、脳への通電によるものか、頭皮の神経が電気刺激を受け、それが麻酔を生ずるものかはいまのところわかっていない。また、どのような電流を用いたらよいかも、研究者の間で一致していない。
電気麻酔によって完全な麻酔が得られれば、薬物を用いないので、薬物による副作用が防げること、電気を使うので、速やかに麻酔にかかり、また麻酔からの覚醒(かくせい)もよいこと、操作が簡単なことなどの利点が得られるはずである。しかし、実際に人で行ってみると、これだけで麻酔をすることは困難である。したがって、他の麻酔薬で患者を眠らせておいてから電気麻酔に切り換える方法がとられるが、この麻酔法には次のようないくつかの欠点がある。
(1)通電によってけいれんをおこしたり、四肢の筋肉が無意識のうちに動くことがあり、腹筋も柔らかくならない。
(2)人によって麻酔中に意識が戻ってしまったり、痛みを感じてしまうことがある。つまり、100パーセントの信頼が置けないことである。
(3)麻酔中に唾液(だえき)の分泌が高まったり、血圧の上昇、脈拍数の増加、発汗などがおこることが多い。
(4)麻酔中も、ときどき通電量を変えて絶えず調節しなければならない。
(5)電極を当てた皮膚のところに熱が発生して火傷をおこすことがある。
このような欠点のために、電気麻酔は理論的には興味をもたれていたものの、現状ではまだ実用段階に至らないだけでなく、研究そのものもほとんど行われていない。
[山村秀夫・山田芳嗣]