日本大百科全書(ニッポニカ) 「音楽コンクール」の意味・わかりやすい解説
音楽コンクール
おんがくこんくーる
music competition 英語
concours de musique フランス語
音楽の技能を一定の規定のもとに競う催し。その歴史は、古代ギリシアのオリンピック競技に併催された芸術コンクールにさかのぼることができよう。ルネサンス時代にも作曲のコンクールが行われたが、現在実施されている音楽コンクールの多くは第二次世界大戦後に創設されたものであり、若い音楽家の登竜門になっている。
演奏を競うコンクールでは、あらかじめ課題とされた曲、参加者が選んだ曲、コンクールの際に発表される新曲などを、優れた音楽家、批評家からなる審査員の前で演奏する。コンクールにより、競う内容や曲目に特色がもたされている場合も多い。作曲コンクールでは、あらかじめ発表された楽器編成、長さ、形式、ジャンルに従って作曲した作品の楽譜を、指定期日までに事務局に送り、審査を受ける。最終審査において、参加作品が実際に演奏され、審査される場合もある。演奏、作曲とも、参加者に年齢などの制限が設けられるのが普通である。優秀な成績を収めた音楽家には、賞金のほかに演奏やレコード録音の機会が与えられるコンクールもある。
音楽コンクールは、その数、種類とも非常に増え、弦楽四重奏などのアンサンブル、チェンバロなどのオリジナル楽器のためのコンクールも生まれている。逆に、主要なコンクールを除いて、入賞しても国際的な注目を集めにくくなった。また審査をめぐっての問題も指摘されている。たとえば、審査結果をめぐって、審査員が辞任するといったことが起きている。一方、主要な音楽コンクールにおいては、コンクールそのものが商業主義化し、優勝者がたちどころに国際的な音楽マーケットに送り出されている例もみられる。
優秀な音楽家を多く世に送り出した音楽コンクールには次のようなものがある。
(1)多種目のコンクール
・エリザベト王妃国際音楽コンクール(1951年から毎年、ブリュッセルで開催。バイオリン、作曲、ピアノ、声楽の順に毎年1種目ずつ)
・ジュネーブ国際音楽コンクール(1939年から毎年。年度により種目は異なり、各楽器や声楽、指揮など全部で26部門から数部門が取り上げられる)
・チャイコフスキー国際コンクール(1958年から4年ごとにモスクワで開催。声楽、バイオリン、チェロ、ピアノ)
・ミュンヘン国際音楽コンクール(1952年から毎年4種目。年度により種目は異なる)
・ロン・チボー国際音楽コンクール(1947年から隔年にパリで開催。ピアノとバイオリン)
・日本音楽コンクール(1932年から東京で毎年開催。NHK・毎日新聞社共催)
・民音コンクール(1966年から東京で毎年開催。民主音楽協会主催で、作曲、指揮、声楽など)
(2)1種目のコンクール
・カラヤン国際指揮者コンクール(1969年から隔年、ベルリンで開催)
・クララ・ハスキル・コンクール(隔年に行われるピアノのコンクール。スイスのモントルー・ブベー音楽祭のなかで開催)
・ショパン国際ピアノ・コンクール(1927年から5年ごとにワルシャワで開催。ショパンの作品のみによる)
・ブザンソン国際青年指揮者コンクール(1951年から隔年、フランスのブザンソン音楽祭のなかで開催)
・リーズ国際ピアノ・コンクール(1963年から3~4年ごとにイギリスのリーズで開催)
日本では、日伊声楽コンコルソ、東京国際ギターコンクール、古楽コンクール(甲府)などのほか、学生、アマチュアのためのものが盛んで、全日本吹奏楽コンクール、全日本合唱コンクール、全国学校音楽コンクールなどがある。社団法人日本演奏連盟は、ホームページに世界の音楽コンクールの関連リンクを張り、情報を提供している。
[美山良夫]
『ジョーゼフ・ホロウィッツ著、奥田恵二訳『国際ピアノ・コンクール――その舞台裏の悲喜劇』(1995・早稲田出版)』▽『日本音楽コンクール事務局編・刊『日本音楽コンクール70周年記念誌1932―2001』(2001)』▽『ショパン編集部編・刊『世界の国際音楽コンクール全ガイド』隔年版』▽『ショパン編集部編・刊『日本の音楽コンクール全ガイド』各年版』▽『中村紘子著『チャイコフスキー・コンクール――ピアニストが聴く現代』(中公文庫)』