尿中に排泄される安息香酸の解毒産物。Nα-ベンゾイルグリシンNα-benzoylglycineともいう。分子式C9H9NO3、分子量179.18、無色柱状結晶で融点191.5℃。最初、ウマの尿中に発見されたのでこの名でよばれるが、ヒトの尿中にも少量排泄(はいせつ)される。天然の食物中に含まれる安息香酸が肝臓中においてATP(アデノシン三リン酸)、Mg+、CoAの共役下で補酵素Aと結合してベンゾイル補酵素Aとなり、さらにそれがグリシンと反応して馬尿酸と補酵素Aが生成される。肝機能障害があるとグリシンの生成が不十分になるとともに、馬尿酸合成能力も低下する。古くは、安息香酸を与えて尿中の馬尿酸を定量する馬尿酸試験が肝機能検査に用いられたが、現在は使われていない。ベンズアミドとモノクロル酢酸から、またはベンゾイルクロリドと亜鉛グリシンキレートから合成される。熱水や熱アルコールによく溶け、アルカリまたは酸で加水分解され、安息香酸とグリシンになる。カルバモイルリン酸合成酵素欠損症carbamoyl phosphate synthetase deficiency(CPS欠損症)とオルニチンカルバモイル基転移酵素欠損症ornithine carbamoyltransferase deficiency(OTC欠損症)の治療は、代謝経路の遮断を迂回(うかい)する戦略をとっている。シトルリンやアルギノコハク酸は生成が損なわれるため、窒素原子の排泄に利用できない。こうした状況下では、過剰な窒素はグリシンやグルタミンに蓄積するので、この2種のアミノ酸を体外へ除去してやればよい。これには、タンパクを制限した食事とともに、多量の安息香酸とフェニル酢酸を与えるとうまくいく。安息香酸は活性化してベンゾイル補酵素Aとなり、これがグリシンと反応して馬尿酸が生成する。これらの抱合体が、尿素のかわりに窒素を排出してくれる。したがって、潜在している生化学経路を活性化することで、遺伝的な欠損を部分的に回避できる。
[有馬暉勝・有馬太郎・竹内多美代]
N-benzoylglycine.C9H9NO3(179.17).C6H5CONHCH2COOH.一般に,草食動物の尿中に見いだされ,グリシンを塩化ベンゾイルでベンゾイル化して合成される.結晶.融点187 ℃(分解).熱水に可溶.無水酢酸,酢酸ナトリウムの存在下に芳香族アルデヒドと縮合してα,β-不飽和アズラクトンを生成し,この反応はほかのアミノ酸の合成(エルレンマイヤー法)に利用される.ほ乳動物の肝臓では,安息香酸とグリシンから馬尿酸を生成するので,一定量の安息香酸を投与して肝臓機能を検査するのに用いられる.[CAS 495-69-2]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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