骨盤骨折(読み)こつばんこっせつ(英語表記)Pelvic fracture

六訂版 家庭医学大全科 「骨盤骨折」の解説

骨盤骨折
こつばんこっせつ
Pelvic fracture
(運動器系の病気(外傷を含む))

どんな外傷か

 骨盤は体の中央に位置し環状構造をしており、上半身を支える土台の役目と、股関節を介して下肢とつながり、さらに下肢への血管や神経のとおり道になっている重要な部位です。そして、その環状構造の中に生殖器や泌尿器、消化器をおさめています。

 骨盤は、両側にある寛骨(かんこつ)という骨と後中央にある仙骨(せんこつ)が環状につながってできています。寛骨は上方の腸骨、後下方の座骨、前下方の恥骨から構成されており、骨盤環の前方は恥骨結合で連結しています。後方には仙骨があり、腸骨と仙腸関節で結合しており、骨盤の両側には股関節が存在します。

 骨盤骨折には、骨盤の一部が骨折する軽度のものから、骨盤の環状構造の連絡が絶たれたり(図17)、股関節に骨折が及んで手術を必要とするものまで重傷度はさまざまです。

症状の現れ方

 骨折部位の痛みのため動けません。内臓に障害が及べば、腹痛が起きたり尿が出なくなります。また、神経が障害されれば足の感覚や動きが悪くなります。

検査と診断

 X線・CT・MRI検査は必須です。受傷直後に大量出血している場合には、切れている血管を確認し、止血するためにカテーテルを血管内に入れて止血操作をすることもあります。

治療の方法

 骨折の分類に従って簡単に説明します。

骨盤環骨折(こつばんかんこっせつ)

 骨盤の環状構造が破壊される骨折で、通常、前方と後方の2カ所で脱臼や骨折が起こり、交通事故や転落事故など大きな外力で発生します。この骨折では内臓の損傷を伴うこともあり、大量出血すると生命に関わる状況も起こりえます。

 その場合は、まず命を救う治療から始めます。骨折の治療は骨折部のずれが大きかったり、不安定な場合に骨折部を金属固定する手術を行います。

寛骨臼骨折(かんこつきゅうこっせつ)

 骨折が股関節に及んでいる場合の骨折で、骨が癒合しても関節のずれがあると歩行に支障を来すので、ずれをなくすように手術を行います。

恥骨骨折(ちこつこっせつ)腸骨翼骨折(ちょうこつよくこっせつ)

 恥骨骨折は下腹部にある部位の骨折、腸骨翼骨折は腰の両横にありベルトがかかる部位の骨折です。これらの骨折は、骨盤骨折のなかでも軽いけがで、3週程度の安静で歩行は可能となります。

合併症はどんなものか

 足に行く神経が障害されたり、膀胱や尿道損傷が起こることがあります。また、骨折が股関節に及ぶ場合には股関節の痛みが出ることもあります。

応急処置はどうするか

 大量に出血する可能性があり、救急車を呼び病院に搬送してください。

注意点

 骨盤は骨癒合しやすい部位ですが、骨盤環骨折や寛骨臼骨折などの大きな外力による骨折では関節や筋肉、神経が損傷されていて、後遺症が残ったり、リハビリテーションに時間がかかる場合もあります。

後藤 英司



骨盤骨折
こつばんこっせつ
Pelvic fracture
(外傷)

どんな外傷か

 骨盤は左右の恥骨(ちこつ)坐骨(ざこつ)、腸骨と仙骨(せんこつ)で構成されており、後方は仙腸(せんちょう)関節、前方は恥骨結合で融合されています。

 骨盤輪のなかにはS状結腸、直腸、肛門、膀胱、尿道、女性の場合にはこれらに加えて、子宮、卵巣卵管、腟が含まれています。消化管は下腸間膜(かちょうかんまく)動脈、女性性器は卵巣動脈と子宮動脈、泌尿器系は内腸骨動脈で支配(臓器が必要としている酸素と栄養素を供給する)されています。

 骨盤骨折の問題点は、①骨盤骨折自体に関するもの(疼痛、下肢の運動障害)、②骨盤輪内の臓器の損傷、③内腸骨(ないちょうこつ)動脈などの血管の損傷の3点です。

原因は何か

 ほとんどが自動車事故によるものです。転落あるいは墜落によっても損傷が発生します。前方からの外力により恥骨骨折、坐骨骨折、恥骨離開(左右の恥骨が開くこと)、下方からの外力により恥骨骨折、坐骨骨折、同側の仙腸関節離開、寛骨臼(かんこつきゅう)骨折、そして外側からの外力により寛骨臼骨折、腸骨骨折を生じます。

症状の現れ方

 骨盤骨折自体による疼痛、下肢の長さの短縮、泌尿器系の合併損傷による血尿、腟損傷による腟からの出血、肛門、直腸損傷による肛門からの出血がみられることがあります。

 最も注意すべき点は内腸骨動脈損傷による出血性ショックであるため、頻脈(ひんみゃく)、脈の強さ、結膜(けつまく)の貧血なども観察する必要があります。

検査と診断

 触診により骨盤の損傷が疑われる部位に圧痛や動揺性がないかどうかを検査します。これらの所見がみられれば骨盤骨折が強く疑われます。骨盤の単純X線写真により多くの骨折は診断できます。

 また、仙骨骨折、仙腸関節の離開はCTにより鮮明に骨折を描き出すことができます。内腸骨動脈損傷による後腹膜出血の程度の診断も可能です。

 血尿がみられる時は尿道造影と膀胱造影を行います。肛門からの出血がみられる時には注腸造影を行って確定診断をつけます。

治療の方法

 優先順位の高い順で治療を進めていきます。

 ①内腸骨動脈損傷による出血性ショックがみられる時は、ただちに血管撮影室において塞栓術(コイルなどを用いて出血している動脈を詰めて止血する方法)を、②膀胱・大腸損傷などの合併症に対しては手術を、③不安定な骨盤骨折に対しては、局所麻酔下で創外固定(動揺している骨盤骨折を金属で固定)を行います。

葛西 猛

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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