高エネルギーリン酸結合(読み)こうえねるぎーりんさんけつごう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「高エネルギーリン酸結合」の意味・わかりやすい解説

高エネルギーリン酸結合
こうえねるぎーりんさんけつごう

生物体内に存在するリン酸化合物のうちで、リン酸基を含む結合加水分解されるときに、多量のエネルギーが遊離されるものを高エネルギーリン酸化合物とよび、そのような結合を高エネルギーリン酸結合という。代表的なものにアデノシン三リン酸ATP)のリン酸どうしの結合、クレアチンリン酸グアニジン基との結合、フォスフォエノールピルビン酸のエノール基との結合、アセチルリン酸カルボキシ基カルボキシル基)との結合などがある。

 生物が生き続けるためには、熱、運動、電気、化学などいろいろの形のエネルギーがなくてはならないが、その中心になっているのは化学エネルギーである。化学エネルギーとは、原子間に新しい結合をつくらせるときに与えねばならないエネルギーである。これはその結合を切るとふたたび放出されるので、化学結合にはエネルギーが蓄えられていると考えてもよい。たくさんのエネルギーを与えねばならなかった場合、すなわち無理をして結合させた場合には、そこに多量のエネルギーが蓄えられることになる。このような結合を含む物質は、加水分解すると多量のエネルギーを放出するので、エネルギー貯蔵に都合がよい。生物はこのような目的にリン酸化合物を多く使っている。たとえば、ATPではリン酸基が三つつながっている。リン酸基は負電荷をもっているので、その反発力のため2個以上を結合させるには、たくさんのエネルギーを与えねばならない。また結合したあとでも、リン酸基どうしはなるべく離れようとするので、分子はゆがんで不安定になる。こうしてATPでは、1個目と2個目のリン酸基の間、2個目と3個目のリン酸基の間の2か所の高エネルギーリン酸結合ができる。他の高エネルギーリン酸化合物でもほぼ同様のことがいえる。

 これらの結合が加水分解されるときに放出されるエネルギーを、生物はさまざまな目的に利用する。その量は標準状態で1モルにつき約30キロジュール(kJ)くらいである。これは厳密にいえば加水分解前後の自由エネルギーの差であって、リン酸結合部分だけに由来するものではないが、便宜的にこれだけのエネルギーがこの結合に蓄えられているように表現する習慣である。

 ATPが高エネルギーリン酸化合物の中心であり、これを通して他の高エネルギーリン酸化合物とも、エネルギーのやりとりが行われる。クレアチンリン酸は筋肉中でエネルギーを蓄える役割をもっている。

[笠井献一]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「高エネルギーリン酸結合」の意味・わかりやすい解説

高エネルギーリン酸結合
こうエネルギーリンさんけつごう
high energy phosphate bond

リン酸基を含んだ有機化合物には,リン酸基の結合が切断されたとき多量の化学エネルギーの放出を伴うものがある。このような化合物におけるリン酸基と他の部分を結ぶ結合を,高エネルギーリン酸結合という。結合の化学的性格はリン酸同士のピロリン酸結合 (ATP) などの場合,カルボキシル基にリン酸結合した酸無水物 (カルバモイルリン酸,1,3-ビスホスホグリセリン酸) ,不安定な水酸基との結合 (ホスホエノールピルビン酸) ,ホスホグアニジン型の化合物 (ホスホクレアチン,ホスホアルニン) など。加水分解時の放出エネルギーは,1molあたり 25~60kJ。高エネルギーリン酸結合をもつ化合物は,生体内のエネルギー代謝で中心的な役割をになう。この概念を最初に整理し (1941) ,現在も広く用いる ,~phなどの波型 squiggleの結合表示を発案したのは F.A.リップマンであった。

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