大気圧よりも高い気圧環境を人工的に作成し、そのなかで高濃度の酸素の吸入を続けると、血液中の溶解酸素は異常に増加する。この血液中の溶解酸素の増加を利用し、全身的あるいは局所的、さらには急性あるいは慢性の、生体の種々の組織に生じた低酸素症を迅速に改善し、治療しようという療法を高圧酸素療法という。われわれが生活している通常の大気圧下の環境での酸素療法、すなわち酸素吸入などによる治療法は、おもに赤血球中のヘモグロビンと結合する酸素(結合型酸素)の増量を目ざすものであり、この結合型酸素の増量には一定の限界がある。しかし、高圧酸素療法によって得られる血液中溶解酸素量は、気圧環境の変化によって規定される物理的な酸素溶解量であり、環境圧力の上昇によって溶解酸素は著しく増加し、溶解酸素の量にも限界がない。
血液酸素分圧が100ミリメートル水銀柱(mmHg)前後の場合、ヘモグロビン酸素飽和度も100%に接近し、それ以上血液酸素分圧が上昇しても結合型酸素は増加しない。しかし、高圧下での血液溶解酸素量は、それ以上の血液酸素分圧に比例して増加する。たとえば、3絶対気圧の環境下で100%酸素吸入を持続したとき、動脈血中の溶解酸素量は6.2容量(vol)%も増加し、この量は生体の安静時酸素消費量に相当する。
本療法は、通常、一酸化炭素中毒、四肢動脈閉塞(へいそく)性疾患、中枢神経系疾患、突発性難聴、網膜動脈閉塞などに用いられる。
[田伏久之]
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