デジタル大辞泉
「一酸化炭素中毒」の意味・読み・例文・類語
いっさんかたんそ‐ちゅうどく〔イツサンクワタンソ‐〕【一酸化炭素中毒】
一酸化炭素(CO)を吸ったために起こる中毒。血液中のヘモグロビンと結合するため、酸素運搬能力が低下し、低酸素状態に敏感な脳や神経に障害が生じ、死に至ることもある。CO中毒。
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いっさんかたんそ‐ちゅうどくイッサンクヮタンソ‥【一酸化炭素中毒】
- 〘 名詞 〙 一定量以上の一酸化炭素を吸入したときに起こる中毒症状。酸素が血液に吸収されなくなり、窒息状態になる。頭痛、目まい、吐き気、全身の脱力感がおこり、意識が侵される前に、体の自由が利かなくなり、やがて意識不明となって、死に至ることもある。
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一酸化炭素中毒
いっさんかたんそちゅうどく
一酸化炭素を吸入することによっておこる中毒症状。一酸化炭素は有機物や炭素が不完全燃焼する際に発生し、また炭酸ガス(二酸化炭素)が赤熱した金属や炭素と接触するときにも生ずる。したがって中毒は、産業現場のほか、天然ガスを用いない都市ガスをはじめ、プロパンガス、石油、木炭、煉炭(れんたん)などを使う室内やガス風呂(ぶろ)の浴室など、発生する場は多い。
一酸化炭素はそれ自体に毒性があるのではなく、肺で赤血球中のヘモグロビンと結合して体内の酸素供給能力を妨げ、体内組織細胞の酸素欠乏を招く結果として中毒症状が現れると考えられている。一酸化炭素のヘモグロビンとの結合力は酸素より約300倍も強く、呼吸する空気中に一酸化炭素が0.07%あれば、血液中のヘモグロビンの50%が一酸化炭素と結合し、体内への酸素供給量は半減する。しかし、一酸化炭素とヘモグロビンとの結合は可逆的であり、一酸化炭素を含まない空気中では、血液中の一酸化炭素は呼気中に排出され、ヘモグロビンはもとのように酸素と結合するようになる。応急処置として新鮮な空気中に運搬するのはこのためである。
血液中の一酸化炭素ヘモグロビン量が10%を超えると、生体には酸素不足による影響が現れる。これは100ppm(百万分率)の一酸化炭素を5時間半以上吸入したときに生成される量である。しかし、10%以下でも中枢神経系の機能障害がみられる。これは、20~30ppmの一酸化炭素を4~5時間吸入した際に生ずる一酸化炭素ヘモグロビン量である。したがって、敏速な判断や反応を必要とする作業に従事する者は注意を要する。
また、喫煙と一酸化炭素吸入との関係をみると、非喫煙者では一酸化炭素ヘモグロビン量は0.6~0.8%であるのに対し、1日20本程度の喫煙で3~6%、ヘビースモーカーでは5~10%にも達するので注意する必要がある。とくに女性喫煙者は胎児への影響もあるので注意すべきであろう。
急性中毒では、まず酸素不足に敏感な中枢神経系がその影響を受け、頭痛、めまい、耳鳴り、心悸亢進(しんきこうしん)、息切れ、吐き気、嘔吐(おうと)などがおこり、さらに進むと意識混濁、けいれん、昏睡(こんすい)に陥り、死に至る。重症の場合には、体内から一酸化炭素が排出されたのち、後遺症がおこる。それは、意識障害、頭痛、記憶力減退、視野狭窄(きょうさく)、失語症などの中枢神経系の障害と、心筋梗塞(こうそく)などの循環系障害である。なお、急性期には高圧酸素療法が行われる。
慢性中毒は、軽い急性中毒の繰り返しによっておこるという見方と、10~50ppm程度の一酸化炭素を長期間吸入することによっておこるのではないかとの見方がある。症状としては、物忘れ、不眠、根気がなくなる、手足がしびれるなどのほか、人格や感情の変化、色視野狭窄などの視覚障害、心電図の異常などがある。労働衛生上の一酸化炭素の許容濃度は50ppm、生活環境における環境基準は連続8時間における1時間値の平均が20ppm以下、連続24時間における1時間値の平均が10ppm以下となっている。
[重田定義]
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一酸化炭素(CO)中毒(ガス・その他の工業中毒)
(1)一酸化炭素(CO)中毒
吸入されたCOは,体内で酸素(O2)に代わってヘモグロビン(Hb)に結合し,カルボキシヘモグロビン(CO-Hb)になるため血中O2濃度は減少し,低酸素症を生じる.一方,COはチトクローム酸化酵素を阻害し,脳組織を傷害する.急性期では脳や髄膜のうっ血,脳浮腫,点状小出血,神経細胞の虚血性変化を認める.後期では脳萎縮,脳室拡大,白質変性,淡蒼球の小壊死巣を認める.
急性期は頭痛,嘔吐,めまい,倦怠感,集中力低下,意識障害をきたす.重症例では昏睡,呼吸器・循環器障害で死亡する.遅発性神経精神症候群(間欠型)はCO中毒の10~30%にみられる.暴露後3~240日間に起こり,健忘,意欲低下,知能低下,人格障害,異常行動,無動性無言症などを認め,錐体外路症状(筋硬直,寡動・動作緩慢,運動稚拙など),深部反射亢進,失行,失認(視覚失認,視空間失認)などがみられる.後遺症として軽度の神経症状を残すことが多く,認知症,小脳性失調やパーキンソニズムがみられる.
急性期の脳波では,びまん性に徐波や平坦化を認める.後期は正常化するが,ときに異常所見を残す.頭部CTは,急性期は多くは正常,後期には脳萎縮,両側淡蒼球の低吸収域を認める.頭部MRIのT2強調画像では,両側淡蒼球に左右対称性に限局性の高信号域と広範な大脳白質の高信号域を認める.
血中CO-Hb値が上昇する.正常の非喫煙者では5%以下,10%以上で頭痛などの自覚症状,40%で意識障害,70%で呼吸器・循環器障害がみられる.CO-Hbは経時的に低下し,臨床症状は血中濃度と必ずしも一致せず,正常値でもCO中毒を否定できない.
治療は顔面マスクによる100%O2投与,または高圧酸素療法を行う.CO-Hb値が5~10%以下になるまで継続する.[熊本俊秀]
■文献
Harris J, Chimelli L, et al: Nutritional deficiencies, metabolic disorder and toxins affecting the nervous system. In: Greenfield’s Neuropathology, 8th ed (Love S, Louis DN, et al eds), pp 675-731, Hodder Arnold, London, 2008.上條吉人:臨床中毒学(相馬一亥監修),医学書院,東京,2009.Prockop LD, Rowland LP: Occupational and environmental neurotoxicology. In: Merritt’s Neurology, 11th ed (Rowland LP ed), pp1173-1184, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 2005.
一酸化炭素中毒(有機物質中毒)
(9)一酸化炭素中毒(carbon monoxide poisoning)
定義・概念
事故や自殺企図によるCO暴露で中毒症状をきたす例が多い.灯油の不完全燃焼した排気中にはCOは5%ぐらい含まれる.
病態生理
COは赤血球中のヘモグロビン(Hb)に対して酸素の250倍の親和性を有するため,大気中のCOが許容濃度(50~100 ppm)をこえるとCO-Hbが増加して,本来のO2-Hbの減少をきたし,脳をはじめとして,全身の各組織は酸素欠乏状態に陥る.脳では大脳皮質の層状壊死,淡蒼球内節の壊死,白質の脱髄(間欠型に多い)をきたす.
臨床症状
CO-Hbの血中濃度に応じて,臨床症状は頭重感,皮膚血管の拡張(顔面紅潮)から昏睡,痙攣,Cheyne-Stokes呼吸,呼吸停止にいたるまでさまざまな症状を呈する(表15-11-1).
CO中毒では,手当てが早ければ後遺症なく回復するか,発見が遅く,死亡するかのいずれかが多い.一部の例が自発性の低下,Parkinson症候群,あるいは失外套症候群などのさまざまな後遺症を残すことになる.
検査成績
CO中毒が疑われる場合は血中CO-Hb濃度の測定を行うことが重要で,10%以上あればCO中毒とみなされる.数日経過した例ではMRI T2強調画像で淡蒼球内節の高信号,白質の脱髄,あるいは大脳皮質に層状の高信号をみる.
治療
急性期には必要に応じて気管内挿管の上,純酸素による呼吸管理を行い,重症例では高圧酸素療法,軽症例では純酸素投与を血中CO-Hb濃度が20%以下になるまで続ける.[内野 誠]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
一酸化炭素中毒
いっさんかたんそちゅうどく
CO poisoning
(中毒と環境因子による病気)
一酸化炭素(CO)は、血液中のヘモグロビン(Hb)との親和性が極めて高く、酸素の200倍以上の親和力でHbと結合し、一酸化炭素ヘモグロビン(COHb)を形成します。このため、Hbは酸素の運搬ができなくなります。しかもCOHbは、単に酸素を運搬しないというだけでなく、残ったHbの酸素親和性を増し、同量のHbを失った貧血よりも組織への酸素供給が著しく減少します。
一酸化炭素中毒は、石油の不完全燃焼や火災、自殺のための自動車の排気ガスの引き込みなどで発生します。都市ガスが、石炭ガスから一酸化炭素をほとんど含まない天然ガスに切り替えられ、一酸化炭素中毒は減少しましたが、それでも全中毒死亡の過半数を占めています。
一酸化炭素中毒は全身の低酸素症で、まず酸素需要の多い脳が障害されます。
頭痛、易疲労感(疲れやすい)、判断力低下、吐き気・嘔吐、意識障害、けいれんが現れます。血管の透過性が亢進し、肺水腫や脳浮腫を起こす場合も多くみられます。頭部CTで淡蒼球という部位に低吸収像を認める場合は、予後不良です。
発症メカニズムは不明ですが、いったん回復したのち再び昏睡に陥る間欠型一酸化炭素中毒の存在も知られています。
高圧酸素療法もしくは純酸素による機械呼吸が、一酸化炭素のすみやかな排泄と、低酸素に陥っている組織への酸素供給を兼ねた効果的な治療法として行われます。意識障害を伴わない軽症の場合は、新鮮な空気下での自発呼吸で十分です。
吉岡 敏治
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
家庭医学館
「一酸化炭素中毒」の解説
いっさんかたんそちゅうどくしーおーちゅうどく【一酸化炭素中毒(CO中毒) Carbon Monoxide Poisoning】
[どんな病気か]
一酸化炭素には、酸素の約250倍も血液中のヘモグロビンと結びつきやすい性質があります。
ヘモグロビンは、全身の細胞や組織に酸素を送り届ける役目をしていますから、一酸化炭素を吸い込むと、酸素より先にどんどんヘモグロビンと結びついてしまい、ヘモグロビンが運ぶ酸素の量が減り、全身の細胞や組織が酸素不足におちいり、ついには窒息死(ちっそくし)に至ります。
一酸化炭素は、自動車の排気中に含まれています。また、いろいろなものが不完全燃焼をおこした際にも発生します。家庭では、これらの一酸化炭素を吸い込む中毒事故がおこります。
[症状]
一酸化炭素と結びついたヘモグロビンをCOHb(一酸化炭素ヘモグロビン)といい、血液中の量(濃度)によって、おこってくる症状が異なります(表「COHb濃度と症状」)。
[治療]
ヘモグロビンから一酸化炭素を追い出すため、100%酸素の吸入を行ないます。高圧酸素療法が行なわれることもあります。
同時に安静を保つことがたいせつです。長時間、間欠型(かんけつがた)一酸化炭素を吸い込んでいた場合は、4週間ぐらい安静にしていることが必要です。
また、退院後も、しばらくは急な運動をしないようにします。
安静を守らなかったり、急な運動をしたりすると、間欠型(かんけつがた)一酸化炭素中毒がおこる危険があります。
回復期にけいれんがおこることがあります。このときは、ジアゼパムを注射します。
脳水腫(のうすいしゅ)を予防するために副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン薬を注射することもあります。
■間欠型一酸化炭素中毒
一酸化炭素中毒の昏睡(こんすい)から覚め、意識が正常にもどり始めたときに、失見当識(しつけんとうしき)(周囲のことがわからない)、錯乱、不穏(騒ぐ)、無関心、失語、歩行障害、失禁などが現われることがあります。これを、間欠型一酸化炭素中毒といいます。
この間欠型一酸化炭素中毒は、一酸化炭素中毒をおこした人の約10%にみられます。お年寄りに多く、ふつう、3~4週間で快方にむかいますが、死亡することもあります。
一酸化炭素中毒の症状が軽くても、長時間、一酸化炭素を吸ったおそれのある人は、4週間ぐらいまで安静を守ってください。
出典 小学館家庭医学館について 情報
一酸化炭素中毒
いっさんかたんそちゅうどく
carbon monoxide poisoning
一酸化炭素 COを高濃度に含んだ空気を吸うことによって起こる症状。都市ガスの一部,自動車の排気,石油ストーブの不完全燃焼,炭火,火災などが原因になる。COは赤血球中のヘモグロビン Hbと結合して,全身組織への酸素の供給を減少させ,組織の酸素欠乏を引き起こす。特に脳は酸素欠乏に敏感で,最も早く影響が現れる。血液中の COHbの量が Hb全体の 10%になると頭痛,20%で感情不安定,誤認,30%で嘔吐,めまい,錯乱が起こり,50%で失神し,70%になると死亡する(→無酸素症)。CO自体に蓄積性はないが,脳の障害が起これば回復不能で,後遺症を残す。急性一酸化炭素中毒の応急処置は,窓を開けて十分に外気を取り入れるか,迅速に患者を新鮮な空気のあるところに移すかである。
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「一酸化炭素中毒」の意味・わかりやすい解説
一酸化炭素中毒【いっさんかたんそちゅうどく】
都市ガス,石油ストーブの不完全燃焼,自動車排気ガス,製鉄などの工場,炭坑などで発生する。一酸化炭素は赤血球のヘモグロビンと強く結合して酸素運搬を阻害し,組織は酸素欠乏となり障害を起こす。普通は頭痛,吐き気,めまいを生じ,濃度と吸入時間によっては筋力低下,呼吸困難から死に至ることもある。皮膚が桜色となるのが特徴。高濃度では短時間(1%で数分間)で意識消失後死亡する。死を免れても中枢神経の障害を残すことが多い。治療は直ちに新鮮な空気を吸わせ,人工呼吸,酸素吸入などを行う。→CO法
→関連項目ヘモグロビン
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
一酸化炭素中毒
一酸化炭素の吸引による中毒で,ヘモグロビンがこのガスと結合して,酸素の運搬に支障が出ることにより起こる.
出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の一酸化炭素中毒の言及
【一酸化炭素】より
…その還元性を利用して,金属製錬用還元剤としても広く用いられる。[合成ガス][水性ガス][発生炉ガス]【大滝 仁志】
[一酸化炭素中毒]
一酸化炭素はヘモグロビン(血色素)と酸素の250倍もの親和性をもっているため,組織への酸素の運搬能力を低下させることにより酸素欠乏をひき起こす。血中のCOヘモグロビン濃度が80%で急性死亡,5%で中枢神経系障害が発生する。…
※「一酸化炭素中毒」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」