一酸化炭素を吸入することによっておこる中毒症状。一酸化炭素は有機物や炭素が不完全燃焼する際に発生し、また炭酸ガス(二酸化炭素)が赤熱した金属や炭素と接触するときにも生ずる。したがって中毒は、産業現場のほか、天然ガスを用いない都市ガスをはじめ、プロパンガス、石油、木炭、煉炭(れんたん)などを使う室内やガス風呂(ぶろ)の浴室など、発生する場は多い。
一酸化炭素はそれ自体に毒性があるのではなく、肺で赤血球中のヘモグロビンと結合して体内の酸素供給能力を妨げ、体内組織細胞の酸素欠乏を招く結果として中毒症状が現れると考えられている。一酸化炭素のヘモグロビンとの結合力は酸素より約300倍も強く、呼吸する空気中に一酸化炭素が0.07%あれば、血液中のヘモグロビンの50%が一酸化炭素と結合し、体内への酸素供給量は半減する。しかし、一酸化炭素とヘモグロビンとの結合は可逆的であり、一酸化炭素を含まない空気中では、血液中の一酸化炭素は呼気中に排出され、ヘモグロビンはもとのように酸素と結合するようになる。応急処置として新鮮な空気中に運搬するのはこのためである。
血液中の一酸化炭素ヘモグロビン量が10%を超えると、生体には酸素不足による影響が現れる。これは100ppm(百万分率)の一酸化炭素を5時間半以上吸入したときに生成される量である。しかし、10%以下でも中枢神経系の機能障害がみられる。これは、20~30ppmの一酸化炭素を4~5時間吸入した際に生ずる一酸化炭素ヘモグロビン量である。したがって、敏速な判断や反応を必要とする作業に従事する者は注意を要する。
また、喫煙と一酸化炭素吸入との関係をみると、非喫煙者では一酸化炭素ヘモグロビン量は0.6~0.8%であるのに対し、1日20本程度の喫煙で3~6%、ヘビースモーカーでは5~10%にも達するので注意する必要がある。とくに女性喫煙者は胎児への影響もあるので注意すべきであろう。
急性中毒では、まず酸素不足に敏感な中枢神経系がその影響を受け、頭痛、めまい、耳鳴り、心悸亢進(しんきこうしん)、息切れ、吐き気、嘔吐(おうと)などがおこり、さらに進むと意識混濁、けいれん、昏睡(こんすい)に陥り、死に至る。重症の場合には、体内から一酸化炭素が排出されたのち、後遺症がおこる。それは、意識障害、頭痛、記憶力減退、視野狭窄(きょうさく)、失語症などの中枢神経系の障害と、心筋梗塞(こうそく)などの循環系障害である。なお、急性期には高圧酸素療法が行われる。
慢性中毒は、軽い急性中毒の繰り返しによっておこるという見方と、10~50ppm程度の一酸化炭素を長期間吸入することによっておこるのではないかとの見方がある。症状としては、物忘れ、不眠、根気がなくなる、手足がしびれるなどのほか、人格や感情の変化、色視野狭窄などの視覚障害、心電図の異常などがある。労働衛生上の一酸化炭素の許容濃度は50ppm、生活環境における環境基準は連続8時間における1時間値の平均が20ppm以下、連続24時間における1時間値の平均が10ppm以下となっている。
[重田定義]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
一酸化炭素(CO)は、血液中のヘモグロビン(Hb)との親和性が極めて高く、酸素の200倍以上の親和力でHbと結合し、一酸化炭素ヘモグロビン(COHb)を形成します。このため、Hbは酸素の運搬ができなくなります。しかもCOHbは、単に酸素を運搬しないというだけでなく、残ったHbの酸素親和性を増し、同量のHbを失った貧血よりも組織への酸素供給が著しく減少します。
一酸化炭素中毒は、石油の不完全燃焼や火災、自殺のための自動車の排気ガスの引き込みなどで発生します。都市ガスが、石炭ガスから一酸化炭素をほとんど含まない天然ガスに切り替えられ、一酸化炭素中毒は減少しましたが、それでも全中毒死亡の過半数を占めています。
一酸化炭素中毒は全身の低酸素症で、まず酸素需要の多い脳が障害されます。
頭痛、
発症メカニズムは不明ですが、いったん回復したのち再び
高圧酸素療法もしくは純酸素による機械呼吸が、一酸化炭素のすみやかな排泄と、低酸素に陥っている組織への酸素供給を兼ねた効果的な治療法として行われます。意識障害を伴わない軽症の場合は、新鮮な空気下での自発呼吸で十分です。
吉岡 敏治
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…その還元性を利用して,金属製錬用還元剤としても広く用いられる。合成ガス水性ガス発生炉ガス【大滝 仁志】
[一酸化炭素中毒]
一酸化炭素はヘモグロビン(血色素)と酸素の250倍もの親和性をもっているため,組織への酸素の運搬能力を低下させることにより酸素欠乏をひき起こす。血中のCOヘモグロビン濃度が80%で急性死亡,5%で中枢神経系障害が発生する。…
※「一酸化炭素中毒」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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