日本大百科全書(ニッポニカ) 「酸素療法」の意味・わかりやすい解説
酸素療法
さんそりょうほう
酸素欠乏症の治療の目的で、空気中に含まれている酸素濃度(21%)より高い濃度の酸素を吸入させる療法である。酸素欠乏とは生体組織が十分な酸素をとることのできない状態であり、その原因としては、以下のようなことがあげられる。
(1)吸気中の酸素濃度が低い(たとえば高山に登ったとき)。
(3)酸素を運搬するヘモグロビンが少ない。
(4)組織に行く血流が悪い。
(5)酸素があっても組織がそれを利用できない。
酸素療法は、このうち(1)から(4)までの状態に有効である。高濃度の酸素を吸入させると、血液の酸素分圧は高まり、また、血中に溶解する酸素やヘモグロビンと結合する酸素も増加するため、それだけ組織は酸素の供給を受けられることになる。
酸素療法の方法には次のようないろいろの方法がある。
(1)経鼻カテーテル法 両側鼻孔から約1センチメートル程度のカテーテルを鼻腔(びくう)内に挿入し、酸素を吸入させる方法である。カテーテルを通す酸素は十分に湿気をもったもので、毎分1~4リットルとする。このようにすると、肺胞内の酸素濃度は30%くらいになる(空気で呼吸している場合は15%)。
(2)マスク法 使い捨てのポリエチレンマスクや、さまざまの形をしたマスクが用いられる。なかでも特徴のあるのは、ベンチュリー管の原理を利用したベンチュリーマスクである。これは、酸素と空気との混合比を調節することによって、希望する酸素濃度のものを患者に吸入させることができる。
(3)酸素フード 患者の頭だけを覆ってここに酸素を送る方法である。
(4)酸素テント 患者の上半身をテントで覆い、この中に温度や湿度を調節した酸素を送るもので、患者は気持ちがよく、長時間の酸素療法が可能である。しかし、酸素を毎分10リットルくらい出しても、テント内の酸素濃度は50%くらいで、能率が悪いのが難点である。また、患者の看護にもテントがじゃまになる。
在宅酸素療法は家庭で行う酸素療法であり、慢性閉塞(へいそく)性肺疾患や肺結核後遺症のため、うまく酸素のとれない患者に行われる。これには空気中からの酸素濃縮器や液体酸素が用いられ、しだいに普及しつつある。
酸素療法に伴う合併症には次のようなものがある。
(1)呼吸の抑制ないしは呼吸停止 酸素欠乏症の患者に対して急に高濃度の酸素を吸入させると、呼吸が弱くなって患者の体に炭酸ガスがたまってきたり、呼吸が止まってしまうことがある。これは、酸素欠乏が刺激となって呼吸が行われていたものが、酸素吸入によってその刺激がなくなるためである。これを防ぐためには、低濃度の酸素をまず吸入させ、ようすをみながら、しだいに酸素濃度を上げていく方法がとられる。
(2)酸素中毒 高濃度の酸素を長時間吸入させると、咽頭痛、咳(せき)、胸痛、呼吸困難などがおこる。さらに進行すると、肺にも変化がおきてくるが、これは酸素中毒の症状である。したがって、長時間の酸素吸入では、60%以上の酸素を与えてはならない。
(3)未熟児網膜症 未熟児に高濃度の酸素を吸入させると、あとになって網膜症をおこすことがある。
(4)全身けいれん 1気圧ではおこらないが、高圧のもとに酸素を吸入させると、全身のけいれんをおこすことがある。
[山村秀夫・山田芳嗣]