日本大百科全書(ニッポニカ) 「高山チョウ」の意味・わかりやすい解説
高山チョウ
こうざんちょう
alpine butterfly
高山にだけ生息しているチョウをいう。高山でみつかっても、より低い所にもすんでいるチョウは高山チョウとはいわない。本州で慣例的に高山チョウとよばれているのは、タカネヒカゲ、ミヤマモンキチョウ、クモマベニヒカゲ、ベニヒカゲ、オオイチモンジ、タカネキマダラセセリ、コヒオドシ、クモマツマキチョウの8種。しかし、このなかで厳密に2500メートル以上の高山地にすむのはタカネヒカゲ1種のみである。クモマツマキチョウは場所によっては300メートル程度の低山地(たとえば新潟・長野県境に近い姫川(ひめかわ)の平岩(ひらいわ)付近)にも発生するので、厳密にいえば高山チョウではない。また、高山チョウというのは、ある地域に限っていうことができるもので、地域が違えば高山チョウの種類も変わる。たとえば、北海道の高山チョウとしては、ダイセツタカネヒカゲ、キイロウスバアゲハ(ウスバキチョウ)、アサヒヒョウモンなどがあげられるが、本州で高山チョウとよばれるベニヒカゲ、オオイチモンジ、コヒオドシなどは低山地(ときに平地)にも産し、北海道では高山チョウではない。これらの高山チョウは新生代第四紀の氷河時代に日本に渡来したもので、気候の回復とともに寒冷な高山に逃れて生き残ったものである。日本最高の富士山に高山チョウが1種も生息しないのは、富士山の成立が新しく、氷河期の終了後に形成されたためである。
[白水 隆]