ドイツの作家トーマス・マンの長編小説。1924年刊。第一次世界大戦を間に挟んで前後12年をかけて書き上げられたこの作品には、作者のヒューマニズムの成熟過程全体が織り込まれている。北ドイツの都会育ちの主人公ハンス・カストルプ青年は、従兄(いとこ)を見舞うために3週間の予定でスイスのダボスにある結核療養所(サナトリウム)を訪れるが、平地の日常的な生の世界とは異質の、死と病気が支配するこの「魔の山」の魅力のとりこになり、7年の歳月をここで過ごす。この間に彼は、どこか影のあるロシア女性ショーシャ夫人、悟性と人類の進歩を説くイタリア人啓蒙(けいもう)主義者セッテンブリーニ、中世的な神の国の復興を唱えるユダヤ人イエズス会士ナフタ、謎(なぞ)の大人物ペーパーコルンなど多くの患者たちと交わり、さまざまな体験と自己の思索を通じて、死をくぐりぬけて生に至る道を予感するようになる。アルプス山中の小空間に主人公を閉じ込め、そのなかで彼を時代の諸問題と対決させるこの小説は、20世紀の代表的な教養小説といえるが、青年が広い世間に出てもろもろの教育的影響を受けながら自己形成してゆくという、伝統的なドイツ教養小説の形式を逆転させている。
[片山良展]
『関泰祐・望月市恵訳『魔の山』全四冊(岩波文庫)』
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…反帝政派知識人の支持する民主主義体制をドイツに導入することはドイツ文化の浅薄化を招くと判断したトーマスであったが,戦後の混乱のなかでドイツ文化とその基底にある人間愛の精神に危険をもたらすのが,実はワイマール共和国の民主主義体制を敵視する反動的保守層であると洞察したマンは,22年頃から明確に民主主義擁護の立場をとるに至った。《魔の山Der Zauberberg》(1924)や《創世記》に題材を求めて1927年から書き始められた四部作《ヨゼフとその兄弟たち》(1943完成)は,マンのこの政治姿勢を反映したものである。前者は,スイスの国際サナトリウムを舞台に,〈平凡な〉青年ハンス・カストルプの前に展開される第1次大戦前のヨーロッパの精神状況を描いたもので,華麗な思想の万華鏡のなかで,人間存在のあり方が追求されている。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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