翻訳|ichthyosaur
中生代の全期間を通して栄えた水生の爬虫類(亜綱)Ichthyopterygia。頭骨の側頭窓が後眼窩骨と鱗状骨の上に開く。広弓亜綱Euryapsida魚竜目Ichthyosauriaとすることもある。ジェラ紀のイクチオサウルスIchthyosaurusが代表例。ほとんどが海生で,高度に水中生活に適応し,頸部はほとんどない。体型は紡錘形であり,魚類または哺乳類のイルカ類とも類似している。眼が大きく,頭の先端は伸びてくちばし状となる。外鼻孔は退化する。2,3種類を除き,あごにはイルカのような同形歯が多数植立している。その断面にみられるエナメル褶壁は迷路状構造を作る。脊椎骨は円板状で両凹形。サメ類の脊椎骨に似ている。尾椎骨は一般に下方に折れる。尾形は逆異尾。背びれには骨がみられない。肩帯は肩甲骨がはなれ,烏口骨は化骨している。鎖骨と間鎖骨は1対。魚類のような擬鎖骨はない。腰帯は脊柱から分離し,全体に小さい。指骨は短小で過剰指となり,ひれを形成する。ドイツのホルツマーデンの黒色粘板岩からは保存のよいジュラ紀の魚竜がたくさん発見されている。中には腹部に複数の胎児と思われる幼形魚竜をもった化石が知られており,魚竜が卵胎生であった証拠とされている。また,皮膚あるいはひれの印象も残されており,魚竜の形態はほとんど完全に知ることができる。吻部(ふんぶ)は上顎の短いステノプテリギウス属,上顎下顎ともほぼ同じ長さのキンボスポンジルス属,上顎の長いエウリノサウルス属などいろいろな型があり,食性のちがうことがわかる。彼らの祖先は明らかでないが,古生代末に現れた小さな水生の中竜目Mesosauria(メソサウルスなど)が候補に挙げられている。日本では宮城県歌津町(現,南三陸町)から発見された歌津魚竜が知られ,三畳紀前期のもので世界最古とされている。宮城県志津川町(現,南三陸町)からはジュラ紀前期の頭骨が発見され,北海道の白亜紀の地層からは骨格または脊椎骨が産出している。中国チベットの三畳紀後期の地層から出たヒマラヤサウルスは体長10mに及ぶという。
執筆者:長谷川 善和
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
魚のような生活をし、外観も魚のようになった中生代の海生爬虫(はちゅう)類。イクチオサウルスIchthyosaurusはその代表属である。最大の魚竜は1999年カナダのロッキー山脈のジュラ系から発見されたもので、全長約23メートル、頭長約5.5メートルもあった。魚竜は外形が流線形であったばかりでなく、脊椎(せきつい)骨が魚のものに似た浅い皿状を示す。ドイツのジュラ紀層から発見された化石には、体の輪郭が炭化した薄膜として保存されていた尾びれと背びれをもつものがあった。とくに中生代ジュラ紀および白亜紀の魚竜の背骨は尾びれの下葉に入り、その支柱となっていた。指骨や手首、くるぶし、腕や足の長い骨は多少なりとも丸く円盤状となっていた。
口は普通鋭い歯で武装され、魚や頭足類を食べたことは、胃中の残骸(ざんがい)から証明されている。非常に大きい骨膜環があって、潜水時の水圧変化に備え、視力はよかったらしい。体腔(たいこう)内に生まれる前の幼体が保存されていたり、出産中の子が化石化した例も発見されている。ジュラ紀前期の、約1億8000万年前に生息していたステノプテリギウスStenopterygiusでは妊娠した個体約50頭が知られ、大部分は1~2個体の胎児であるが、十数体のものもある。出産時の胎児の最大長は60~70センチメートルで、親の大きさの30~40%を示し、現生イルカなどと同様である。日本からも、宮城県の三畳紀層からウタツリュウ(ウタツサウルス)Utatsusaurus hataii、同じくジュラ紀層からシズカワ魚竜(テムノドントサウルス)Temnodontosaurus sp.、北海道の白亜紀層からユウバリ魚竜(ミオプテリギウス)Myopterygius (?) ezoensisなどが報告されている。
[小畠郁生]
『真鍋真著「両生類・爬虫類・鳥類」(速水格・森啓編『古生物の総説・分類』所収・1998・朝倉書店)』▽『クリストファー・マクガワン著、月川和雄訳『恐竜解剖 動きと形のひみつ』(1998・工作舎)』
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